表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
88/105

反省


 起き上がったアケガタ君の手には、片手もちの斧が握られていた。それが、両手に一本ずつ。柄の部分で鎖で繋がれていて、見た目はちょっと気持ちが悪い。


「気を付けろ、ハル。奴は何もない所から拷問器具を作り出す事が出来る力を持っている」

「な、何もない所から?」

「はっ!その通りだ!オレの力は、拷問!相手を苦しめていたぶり殺すための道具を、頭の中で描いただけで作り出す事ができるんだぜぇ!ひゃはー!」


 興奮したアケガタ君が手をかざすと、そこから先ほど私に寄越して来た注射器がポロポロとわいて落ちてくる。まるで手品みたいだ。でも手品ではない。

 コレが、彼の能力……。

 正直、いらない。人を苦しめるための物しか作れないとか、役に立たな過ぎ。


「怖いだろ?怖いよな?どんな道具で苦しめられるかって、不安になっちゃうだろ?勇者であるこのオレが本気になったら、ハルカちゃんなんて本当に本当の一撃で死んじゃうんだぜ?でもオレの奴隷になるって誓えるなら、ゆるしてあげちゃうよん。バカじゃないハルカちゃんは、誓えるよね?誓えやぁ!」


 アケガタ君の口調が定まらない。興奮したり、いつものおちゃらけた態度になったり……。

 もしかしたら、私に殴られて頭が混乱しているのかもしれない。じゃなきゃ、先ほど私の動きに全くついてこれずに顔を潰されたのに、こんな偉そうな態度はとれないだろう。


「……セカイに、謝って」

「あ?」

「こんなひどい事をした事を、しっかりと謝罪して。本当なら、謝っても許される事じゃない。貴方は殺されても仕方がない事をしたと言う事を、しっかりと胸に刻んで心をいれかえて謝罪するの。それで生まれ変わって。女の人をもう二度と、いたぶったりしないで」

「ああ……ああ、ああ、ああああああ、うぜぇ!うぜぇ、うぜぇ!バカのハルカちゃんがオレに説教なんか垂れんじゃねぇよ!お前はおとなしく、オレの奴隷になってオレのために泣いて苦しんでいればそれでいいんだよ!オレに舐めた口をきくな!お前にそんな価値はない!それ以上何も言うな!それ以上オレに舐めた口をきくと──」

「もう黙って。空気が汚れる」

「殺したくなっちまうだろうがぁ!」


 アケガタ君が私に向かって勢いよく突っ込んでくる。さすが、勇者というだけあって踏み込みの速度は中々だ。

 でも遅い。遅すぎる。勇者じゃないのにこれ以上に速い人を私は知っていて、その人に剣を教わった身として言わせてもらう。この人よりもリリアさんの方が、強さも、性格も、勇者と呼ばれるのに相応しいと思う。

 私の杖の方がアケガタ君の斧よりもリーチが長いので、彼が私の間合いに入った瞬間に私は斧を杖によって弾き飛ばし、彼は武器を失った。鎖で繋がっているせいで、一本を吹き飛ばしたらもう一本もついていったので、それが災いした。


「はっはー!」


 それでもアケガタ君は笑いながら私に向かって突っ込んでくる。何も持っていない手を構え、まるで剣で斬りかかっているような仕草を見せると、その手に大きなノコギリが出現した。

 どうやら、斧が弾き飛ばされる事は彼にとって想定内だったようだ。本命は、コレ。


「──は?」


 完全に不意をついたつもりだったのか、彼は私にノコギリを余裕で回避されると困惑した表情を見せる。ノコギリは床にぶつかり、高い音を響かせて止まった。

 床にノコギリを打ち付けたままアケガタ君が動かなくなったので、どうやら諦めたようだ。そう思ったけど、違った。


「ハル」

「分かってる」


 私の腕に抱いたままのセカイが気づいて私に警告してきたけど、分かってる。

 私がその場から後ずさった瞬間だった。私がいた場所に、天井から落ちて来た歯車型のノコギリが勢いよく回転しながら突き刺さり、床の岩を少し削って動きが止まった。

 直後に、武器を持ち替えたアケガタ君が私を追撃してくる。手には返しがいくつもついた槍が握られていて、リーチの長い槍でなら私を刺せると考えたようだ。


「っ!」


 彼の顔から、先ほどまでの余裕は消えている。笑う事もなく、真剣に私を殺そうとしている。

 でもその槍も、私には届かない。杖で槍を弾くと、隙だらけとなったアケガタ君の身体に杖を殴りつける。するとアケガタ君は槍を手放し、口から大きく息を吐いて後方に飛んでいく事になる。けど足で踏ん張り、途中で止まった。


「が、っは!ごほ、げほっ、げほっ!」


 激しく咳き込むけど、意識はある。そして倒れもしない。普通の人なら普通は重症を負っている攻撃を、彼は受け止めてみせた。無事かどうかは別として。


「何で……ハルカちゃんがこんなにつえーんだよ……!勇者でもなんでもないってのに、こんなの反則だ」

「私とアケガタ君の実力差はコレでもう分かったでしょ?武器を置いて、降伏して」

「……ああ。オレの負けだ。降伏する」


 アケガタ君は床に膝をつき、両手をあげて降伏する意思を示す。項垂れ、戦闘する意思はもうない。そう見えるけど、違う。

 アケガタ君は密かに、壁にまた道具を作り出している。その道具にはいくつもトゲがついていて、トゲの先端が私とセカイを狙っているのだ。

 全く懲りていない。きっと伏せた彼の顔は笑っている。


「……」


 私は黙って彼を見守っていると、トゲが私に向かって放たれた。

 私はそのトゲを、杖で叩き落すのではなく杖で弾いて方向を変えた。トゲは一斉にアケガタ君の方へと向かっていき、そして彼の身体のあちこちに突き刺さる事になる。


「ぐぎゃあああぁぁぁぁぁ!」


 致命傷になるような所には刺さっていない。それと威力はそんなに強くないので、先端が食い込んでいるだけだ。もっとも、このトゲには返しがついている。抜き取るには相当苦労することになるだろう。

 それも彼が作り出した物なので仕方がない。


「わ、分かった!オレが悪かった!謝るから、見逃してくれ!」


 事ここに至り、彼はようやく降伏する意思を見せた。今度こそ、本当にだ。周囲に彼が力を使って作り出した物はないからね。


「ほら、こんなに血が出てる。ハルカちゃんに殴られた所も、きっと折れてるよ……。こんなにボロボロになっちまって、オレはもう何もできない。痛い目にあったし、ちゃんと罪も償った。だからそんなおっかない顔しないでくれよ」


 あまりにも自分勝手な言い分だけど、私としては彼を殺すつもりはない。そりゃあ赦せないよ。セカイにこんな事をした彼を、絶対に。でも復讐で殺すのはなんか違う。


「……しっかりと反省して」


 昂る感情を抑えながら、私は彼にそう警告をしてその場を立ち去ろうとする。

 でもやっぱり彼は反省していなかった。未来視でその様子が分かる。奇襲が無駄だと言う事を彼は理解できていない。だから同じ過ちを何度も繰り返す。そして反省しないという事もよく分かった。

 私は振り向きもせず、行動に移す前の彼に向かってある物を投げつける。そしてそれが彼の腕に深く突き刺さった。


「ぎっ!?」


 私が投げつけたのは、アケガタ君が最初、私に自分でうつように強制してきた注射器だ。なんとなく隠し持っていたんだけど、やくにたったよ。

 私は彼に背を向けるのをやめ、注射器を引き抜こうとするアケガタ君の手を握ってその行動を制する。


「ひっ、や、やめ、やめてくれ……!」

「だーめ」


 懇願されたけど、私は容赦なく注射器のピストンをおして注射器の中身を彼の身体の中へと流し込んだ。


「こ、これはきょうりょくなましゅいで……うたれりゅと……うごけな、く……」


 アケガタ君が床に倒れ込んだ。意識はあるようだけど、身体を動かす事が出来ないようだ。

 こんな物を私にうって、一体どうするつもりだったんだろう。身の毛がよだつ。


「なんじゃ。ただの麻酔か、つまらんのう。そうじゃ。ワシにうとうとしていた注射も試してみるか?」

「いいね!」

「っ……」


 アケガタ君が目で必死に私達に訴えて来る。

 まぁそれは冗談だから安心してほしい。その身体の傷と麻酔で、彼はもう当分自力で動く事はできないだろう。動けない所を色々なんとかしちゃってもいいけど、それではアケガタ君と同じになってしまうのでなんか嫌だ。

 代わりに私は、彼をここに置き去りにする事を選択した。灯りを消し、気絶しているアケガタ君の仲間達を地下から地上に放り出す。その上で、扉を壊して彼をその場に閉じ込めた。完全なる暗闇の中を、彼は麻酔がとけるまでたった一人で過ごす事になる。

 勇者だし、麻酔が身体からなくなれば一人で脱出できるでしょ。暗闇の中で、今度こそちゃんと反省して心を入れ替えればいい。

 次に会う機会があったら、彼が変わってくれていますように。そう願いをこめて、私はセカイとその場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ