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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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蚊帳の外


 私は馬から降りて、ケイジを引っ張り上げた。崖から上げると、直後にカゲヨがケイジに抱き着いて彼の無事を喜ぶ。

 とても熱い抱擁は、ちょっと羨ましい。ケイジもまんざらでもなさそうに抱き返していて、ここにカップルが誕生しました。私は蚊帳の外である。


「よかった……無事で、本当にっ」

「こっちの台詞だ。お前らがここにいるって事は、襲われたんだな?」

「はい。国王様を殺した犯人に仕立て上げられ、危うく処刑される所でした。本物の国王様に手助けしてもらい、逃げ延びる事ができたんです。あと、帝国兵達も無事ですよ。皆さん王国で国王様と隠れているので、安心してください」

「……そうか。全部セカイの作戦通りって訳だ。アイツ、ガキのくせに頭良すぎだぜ。いつつ」


 ケイジはセカイを褒めてから顔を歪めた。

 歪めた原因は、彼の怪我である。よく見なくても全身泥だらけで、あちこち擦り傷があったからね。特に足を引き摺っており、まともに歩く事が難しそう。

 そんな状態でもカゲヨの抱擁を受け止めて抱き返していたんだから、大したもんだ。愛の力ってやつだろうか。


「だ、大丈夫ですか、ケイジさん!?怪我ですか!?痛いんですか!?」

「慌てんな。大した怪我じゃねぇ。……ハルカ」

「な、なに?」


 ケイジは心配して身体を支えてくれるカゲヨを手で押しのけてから、私の名前を呼んだ。そして睨みつけて来る。別に怒っている訳ではない。彼は元々こんな感じの目なのだ。でもその目は、どこか追い詰めているように見える。

 そして突然地面に突っ伏すと、私に向かって土下座をしてきた。その行動の意味が分からず、私は混乱してしまう。


「すまねぇ!お前はカゲヨを守ってくれたのに、オレはセカイを守れなかった!」


 この場にセカイの姿がない事が、気になってはいた。それが、ケイジが謝って来た事によって何か良くない事が起きてしまった事が確信に変わる。


「ケイジ。頭をあげて。セカイを守れなかったとしても、それはケイジの責任じゃない。セカイとケイジを襲った人の責任だよ。謝るくらいなら何があったのかを私に教えて。そして、私はどうしたらいいかを教えて」


 私はケイジの肩に手を添えながら、そう訴えた。なるべく平静を装っているけど、内心はぐちゃぐちゃだ。

 セカイの身に何かあったのだとしたら……いや、考えるのはよそう。怒りでこの場で思いきり暴れたくなってしまう。


「オレ達はシュースケについて馬を走らせて進んでいた。ここよりももっと先まで進んだ時になって、馬が疲れて来たから休憩を取る事にしたんだ。そこで襲われた。シバがオレにぶった切られて、重傷を負った事になってな。勿論オレはそんな事をしていない。恐らくシュースケの幻影の力で、そういう事にされたんだ。でもそのシーンを全員が見ていた。オレは完全に悪役となり、全員から攻撃を受ける事になった。セカイも協力した事になっていて、二人で奴らと戦う事になったんだ」

「っ……!」


 また、タチバナ君の幻影の力。あの力は危険だ。人を惑わして操る事ができてしまう。お城にいた皆の家族もそう。王様もそう。あの人にこの力を授けた人は本当にバカ野郎だよ。


「大丈夫だったんですか……?」

「オレの硬化の力と、セカイの魔法でなんとか攻撃を凌いで逃げようとしたが……相手が多すぎた。オレとセカイは徐々に追い詰められていく事になる。それで全滅を避けるために二手に分かれる事になった。けどセカイは自分が逃げるつもりなんて最初からなかったんだ。オレと別れた後、奴は魔法で勇者どもに戦いを挑んでいやがった。オレが逃げる時間を稼ぐためだ」


 ケイジは悔し気に地面を拳で殴った。


「セカイはどうなったの?」

「……分からねぇ。戻ろうとしたが、戻れば奴の意思を裏切る事になっちまうからな。だが恐らくは……捕まったか……」


 私は目を瞑り、深呼吸をした。

 落ち着け、私。夢で見たセカイは、私の腕の中で消えてなくなっていた。だから、もう既に死んでしまっている事はないはずだ。そうでしょう?

 自分の腕をぎゅっと握りしめ、痛くなってくる。その痛みによってなんとか狂わずに済み、私はケイジの話の続きに耳を傾ける。


「セカイの元々の作戦はこうだ。王国の連中に嵌められて処刑されそうになり、そこまでコケにされればカゲヨの目も覚めているはずだ。で、目が覚めたカゲヨと合流して全員で帝国に逃げる。皇帝には一連の出来事を報告し、今度は勇者どもの排除の許可を貰うって算段だ」

「……私が、勇者達との和解に固執したせいですね。皆さんから警告されていたのに、私が王国に残ると言い張ったせいです。……どうして、あんなバカな事をっ」

「それがシュースケの力だ。奴は人を惹き付ける。だから厄介で、皆が騙されるんだ」

「……はい。分かっていたつもりでしたが、いざ自分が騙される側になると彼が本当に恐ろしいです」


 カゲヨもよっぽど悔しいのか、唇をかみしめている。あの時のカゲヨは、確かに盲目的になっていた。タチバナ君を信用しかけ、タチバナ君と歩める道を模索していた。私の夢の話にも、言葉では警告として受け止めると言ってくれたけど、実際は対策をとったりはしてくれなかった。

 全部、騙されていたのだ。私も同じように彼を信用しかけた事があったけど、改めてセカイにタチバナ君は危険だと知らされて目が覚めた。


「ちなみにだが、オレは結局連中に追いつかれちまった。仕方がないから戦う事になって、アソウをぶっ飛ばしてやった。奴はしばらく戦えない。それで怯んだ連中はオレの追撃をやめ、案外呆気なく去って行った。代わりにオレはこの有様だけどな」

「……シバ君と、アソウ君が戦えない状態にあるという事ですか」

「その通りだ」


 カゲヨが補足して、ケイジが私の方を見た。でもすぐに目を逸らしてしまう。


「オレは弱い。追い詰められて瀕死の傷を負ったフリをした上で奴らに一矢を報い、追撃をやめさせるので精一杯だった。自分の身を守るので精一杯だったんだ。情けないオレがこういうのもなんだが、頼む。セカイを助けてやってくれ。じゃなきゃオレは、セカイにもお前にも顔向けできねぇ!」


 ケイジが再び、私に向かって土下座をしてきた。今度は謝罪ではなく、お願い事をされる形でだ。

 ケイジはまだ、セカイが生きている事を前提としている。先程ケイジはセカイが既に殺されてしまっている可能性があるのに、その言葉を飲み込んだ。セカイが生きている可能性に、ケイジはかけているのだ。

 私も、セカイは生きていると思う。


「うん。絶対に助ける」

「無茶です!タチバナさんは私達に対して牙をむきました!今彼に近づいたら殺されてしまう可能性だってあるんですよ!?」

「大丈夫。私はこう見えて強いから。こうなったらもう容赦しない。タチバナ君をぶっ飛ばして、セカイを助ける。ついでに彼に騙されている人の目も覚まさせる」

「……だったら私も──」


 カゲヨはついて行くと言おうとしたんだと思う。でも私は彼女の小さな頭に手を乗せて、黙らせた。


「一人で大丈夫。カゲヨはケイジについていてあげて。だってケイジ、ボロボロじゃん?だから支えてあげてね」

「あ?オレをダシに使うんじゃねぇ!これくらいの怪我、なんてことねぇ……いっ!?」


 私に元気アピールをしようとしたケイジだけど、痛みに顔を歪めて座り込んでしまった。無理するから痛い目を見るんだよ。呆れたけど、ケイジらしくて笑ってしまう。


「……分かりました。でもハルカさん。絶対に無事でいてください。そしてセカイさんと一緒に戻ってきてください」

「約束する。カゲヨも無事でね」

「はい」


 私はカゲヨと約束すると、馬に飛び乗った。そして向かうはタチバナ君達──セカイの下だ。


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