合流
残りの家族もやっぱり偽物で、この世界にクラスメイトの家族なんていう存在はなかった。
私には、全く見抜けなかった事だ。なんだかカゲヨが凄く頭の良い人に見えて来てしまう。
いや、元々頭は良いのだろう。成績は良かったし、頭が良いからこそ帝国のそれなりの地位を任されるに至ったのだ。
「この者達はどうしますか?」
「放っておいて構いません。タチバナさんを倒せば、きっと皆の姿も戻るでしょう。そうすれば皆さんの目も覚めてくれるはずです」
カゲヨはそう言って、縛り上げられて一部屋に纏められた偽物の両親を、捨て置いた。
そして私達は元の狭い秘密の通路に戻り、城の外を目指している所である。城内は私とカゲヨを探して騒ぎになっており、先の王様の死と重なってもうパニック状態だ。
そんな騒ぎを尻目に、私達は出口付近で待機していると言う兵隊さん達との合流を果たした。
そこでおじいさんが回収して待機していた兵隊さんに預けていたという、私の杖を受け取って武器を手に入れた。手ぶらじゃちょっと寂しかったから、心強い。
「さぁ、こっちじゃ」
更にそこからおじいさんについていくと、梯子の設置された壁にぶち当たった。他に道はなく、上以外に行く場所はない。
おじいさんはその梯子を迷いなく登っていくと、その先にあった重そうな蓋をうめき声をあげながら少しずつ退かしていき、時間をかけて蓋を開く事に成功。その穴から、僅かな光が差し込んだ。
「行こう、カゲヨ」
「はい」
私とカゲヨは梯子を上り、おじいさんに続いて外に出る。
そこで見たのは、すっかり日が暮れて暗くなった空だった。差し込んだ光は月明りによる光で、満月のおかげでその光はいつもより強力だ。
私達が出て来た穴は、茂みの中にある石によって塞がれていたようだ。場所は、お城どころか城下町の下も潜り抜けて来たのか、大きな壁の外である。こんな所まで続いていたのかと、ちょっと感心してしまう。
「この後はどうすれば?」
「銀髪の小娘は、自分を追いかけろと言っておった。恐らく途中で合流するつもりなんじゃろうが、入れ違いになる可能性の方が高いと思うがのう」
「私なら、セカイの匂いで分かるから大丈夫」
「に、匂い?本当ですか?」
「嘘!でも大丈夫な気がする!だから、追いかけよう」
「……馬が近くに五頭ばかり用意してある。それを使って行くが良い」
「では、私達も──」
「貴様らはワシと留守番じゃ。逃げたい者がいれば逃げてもよいが、その場合命は保証せん」
「し、しかし、馬は五頭いるんですよね?さすがにコミネ様とシキシマさんの女性だけでは……」
「心配ありません。皆さんはここで、国王様と待機していてください」
カゲヨは食い下がる兵隊さん達を説得し、私と2人だけでセカイ達を追いかける事を宣言した。
こうして、私とカゲヨはセカイ達を追いかける事になった。それぞれ馬に乗り込むと、大急ぎでセカイ達の下へと向かって出発する。
私達は罠に嵌められているので、当然アケガタ君がピンチというのも嘘だろう。向こうは向こうで大変な目に合っているはずだ。早くお互いの無事を確かめるためにも合流しなければいけない。
でもふと、今朝見た夢を思い出してしまう。私の手の中で、私の手から消え去ってしまったセカイの姿の事をだ。
「ハルカさん。ケイジさんとセカイさんは、きっと無事ですよね」
馬で走りながら、カゲヨが心配そうにそんな事を尋ねて来た。
「セカイは、こうなる事を知っていた。だから絶対に、大丈夫。二人とも、絶対に無事だよ」
カゲヨに返したその言葉は、自分に対して言い聞かせた言葉でもある。
だって、そうでなければ困るから。夢で見た事は忘れよう。私達は今、夢で見た未来からズレた場所にいる。カゲヨは死刑になる未来を免れる事が出来たし、そうに決まっているのだ。
言い聞かせながら、私はカゲヨと共に馬で駆けた。道沿いに進めばいいだけなので、迷う事はない。ただただ真っすぐに走り、セカイ達の下へ向かう。それだけだ。
暗い夜道は危ないけど、それでも今日は月明りが強い。ランプの光と月の光を頼りに無我夢中に進み、しばらくの時間が経過した。
すると、突然カゲヨが馬の足を止めた。私もそれに倣って止まる。
カゲヨが止まった理由は、私も同じく前方を見て気づいたので言われなくても分かる。私達の目の前に、大きく削られた道が出現したのだ。道だけではなく、周囲にはいくつも削れた跡や焦げた跡があって、この場で激しい戦闘が行われた事を意味している。
「ハルカさん、コレは……!」
「うん。周囲を探してみよう。もしかしたら、セカイ達がいるかも」
ここでセカイとケイジが襲われたのだとしたら、勝ってこの場に残っているかもしれない。そんな希望的な期待を込めて、私とカゲヨは周囲を探してみる事にした。
「……誰もいませんね。でもこの戦闘の傷跡は、ケイジさんの物で間違いないと思います」
ケイジの戦闘スタイルは、大きな斧でぶった切る系のパワー系だ。周囲の削られ具合は、まさにケイジのスタイルと合致する。だから、この場でケイジが戦ったのは間違いない。
「……急ごう」
「……」
私はセカイ達に追いつくため、再び先に進もうとした。
でもカゲヨが返事をしない。見ると、カゲヨは目を見張ってどこかを見つめていた。
「どうしたの?」
「今、ケイジさんの声がした気がして……」
「ケイジの?」
「……ほら、また!」
耳を澄ませてみたけど、私には聞こえない。でもカゲヨは聞こえたと言って突然馬を走らせ、暗闇の中へと突撃していってしまう。私は慌ててその後を追った。
「カゲヨ!道から外れてるのにそんなに速く走ったら危ないよ!」
カゲヨは私の警告に聞く耳も持たずに走り続ける。私は追いかけるしかない。
私が警告をしてから少し経つと、カゲヨが慌てて馬を止めた。私もそれに倣って止まると、行く先にちょっとした崖があり、危うく落ちるところだった事が分かる。そんなに高くはないけど、もし落ちたら馬もカゲヨもタダでは済まないくらいの高さだ。
私は余裕で止まれたけど、カゲヨはギリギリだったよ。あと一歩踏み出したら馬と共に勢いよく崖から落ちていた所である。
「大丈夫、カゲヨ!?」
「……はい。私よりもこの子が早く反応して止まってくれました」
「そっか……偉いね。それと、驚かせてごめんね」
私がカゲヨの馬を撫でてあげると、気持ちよさそうに私の手にすり寄ってくれた。
「ハルカさん。ケイジさんがこの近くにいます。間違いありません」
「ケイジが!?」
私は周囲を見渡してみるけど、ケイジの姿はどこにもない。というか暗くてあまりよく見えない。いくら月明りがあるとはいえ、夜に人の姿を探すのは難しい。
でも、カゲヨは本気で言っている。何かを感じ取っているのだ。
彼女も周囲を一生懸命見渡してケイジを探すけど、でもその姿を見つける事は出来ない。
諦めかけた時、私とカゲヨが乗っている馬が突然後ずさりして驚いた。何事かと思ったら、私達の足元にその原因があった。
「──……よう、カゲヨ。ハルカ。上手く逃げられたみてぇだな」
がけ下から伸びてきた手。その手で身体を引っ張って這いあがって顔を見せたのは、ケイジだった。