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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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脅し


 ナルセさんはともかくとして、血走った目で私とカゲヨを攻撃してきたヤギ君は異常だ。あの攻撃は、確実に私を捉えようとしてた。


「コミネはともかくとして、まさかシキシマがオレ達を裏切るなんて思わなかったなぁ……」

「私はヤギ君達を裏切ったりなんかしてない」

「じゃあなんで王様を殺したんだ!王様は、オレ達に優しくしてくれた良い人だ!最初はそりゃあ、誤解があって色々あったけど……今は良い人だったんだよ!それを殺したお前らは敵だぁ!ゆるさねぇ!絶対にゆるさねぇ!」

「……落ち着いてください。私は国王様を殺したりなんかしていません。朝方に緊急の用件があると呼び出され、国王様の下に訪れたらその場でブスケスさんが王様を殺したんです。やったのは私ではありません」


 私は寝てて気づかなかったけど、そんな事があったんだね。いやホント、全く気付かなかったよ。申し訳ない。


「はっ。そんな嘘を誰が信じる。お前が王様を殺す所を、ブスケスさんが見たと言っているんだぞ」

「それが嘘だと言っているんです。この国の人ではなく、クラスメイトである私の言葉を、お願いですから信じてください」

「……」


 カゲヨが真剣に訴えかけると、一瞬ヤギ君に戸惑いが生じたように見える。

 カゲヨは私が駆けつけた時は茫然自失としていたけど、今は復活している。必死に、クラスメイトと争わなくてもいいようにしようとしている。


「見苦しいですよ。ヤギ君、耳を貸してはダメです。彼女達は苦し紛れの嘘をつき、私達を騙そうとしているのです」


 しかしヤギ君の傍に立つナルセさんが、ヤギ君の耳元で優しくそう呟き、ヤギ君はその戸惑いを振り払った。再び私達を睨みつけ、弓を構えてそれを私に向けて来る。


「わ、分かってるっ。敵は殺す。殺して、オレが皆を守るんだ」

「ええ、彼女達は敵です。生かせば必ず、私達の仲間が死んでしまう。だから殺しましょう。ヤギ君になら、出来ますよね」

「なっ。何を言ってるの、ナルセさん!カゲヨは本当に、王様を殺したりなんかしてない!カゲヨはナルセさん達と、この国と、本当に仲良くなりたくて悩んで頑張ってたんだよ!」


 私が怒鳴るように訴えるも、ナルセさんの目は冷たかった。その目は、ぎらついたヤギ君の目とは対照的だ。私の言葉は、彼女に全く届いていない。

 こんな目をするナルセさんを、私は初めて見た。クラスのムードメーカーで、優しく頼りになるお姉さんのナルセさんとは、全くの別人のようだ。


「……出来る」


 ヤギ君が呟くと、彼の手に矢が出現した。矢は青く光り輝く矢で、物理的な物ではない。何か魔法的な物で作り出された細長い矢の先端がこちらをむき、彼はそれを弦で引いて私に狙いを定めて来る。

 彼は、勇者の一員だ。勇者の力を持っていて、その弓が彼の力なんだと思う。


「ごめんね、シキシマさん、コミネさん。私のパパとママが、王様を殺した貴女達の事を敵だって言うの。シバ君やカワイさんのお父さんとお母さんもそう言ってた。だから、死んで。私達の平穏な暮らしのために」


 ナルセさんが言い終わるのと同時に、ヤギ君が矢を放って来た。

 その矢は彼の手から離れるのと同時に風を巻き起こし、音や衝撃を置き去りにして物凄いスピードで私に迫って来る。

 勇者の力は、凄い物だと思う。様々な特殊能力を持っていて、羨ましいとすら思える。

 でも、なんでだろう。何故か負ける気がしないんだよね。ヤギ君にも、ケイジにも、タチバナ君にも。

 この自信がどこからくるのかは分からない。でも、素手でヤギ君に勝ったら凄いよね。


 未来視で先読みした未来は、信じられないくらいすぐ目の前にある。私はカゲヨを庇いつつ、向かってくる矢に神経を集中させて睨み続ける。そしてその矢に手を伸ばしてピースサインを作り、指の間を通り抜けようとした矢を指で挟みこんで止めた。


「──え?」


 指で止めたものの、その矢のすさまじい威力のせいか遅れてやってきた風が私達に襲い掛かった。身体ごと持っていかれてしまいそうな風だ。でも私はその風をあびても平然とその場に立ち続ける。

 事態を見守っていたカゲヨが、私の腕の中で目を丸くして声をあげている。ナルセさんも、ヤギ君も私の事を信じられないというような目で見て来る。


「ヤギ君の矢を、受け止めた……?」

「偶然だっ!こんな、映画みたいな事がある訳がない!」


 ヤギ君が再び矢を構えを、それを私に向かって放って来た。

 確かに、矢の威力は凄いんだと思う。まるで雷のように早く、受け止めると電気を触ったみたいに指がピリピリする。

 でも遅い。これならリリアさんの剣の方が速い。だからこんな事ができてしまう。

 私は再びその矢を指で受け止めて、その光の矢をゴミでも捨てるかのように地面に投げ落とした。


「……バカな。オレは勇者だぞ。勇者のオレの矢を、勇者じゃないお前が受け止められるなんて……そんな事がある訳がない!」

「現実を見た方がいいよ。あんな遅い矢、何発撃っても無駄だから」

「そ、その通りです!貴方達に勝ち目はないので、私達の行く手を邪魔しないでください!じゃないと、タダではすみませんよ!」

「っ!」


 私の代わりに、カゲヨがそう怒鳴って2人を脅した。

 その脅しは効果てきめんで、2人はおどおどとして互いにどうするかを目で尋ね合っている。こんな風になるなんて、思ってもみなかったようだ。勇者であるヤギ君が、勇者じゃない私とコミネさんに負けるはずがないとでも思ってたんだろうね。


「……行きましょう、ハルカさん。今がチャンスです」

「うん」


 私は隙を見て、カゲヨを抱いたまま駆けだした。


「待て!」


 それに気づき、ヤギ君がやけくそのように矢を構えて放ってくる。でも後ろを見るまでもなく未来視で未来を見て左に避け、地面に命中してそこが抉れた。次に備えたけど、次の攻撃は来ない。どうやら諦めたようだ。

 呆然と立ち尽くすヤギ君をしり目に見てから、私は前を向く。


「いたぞ、こっちだ!」

「おっと……」


 ヤギ君達に時間稼ぎをされたせいで、正面から大勢の兵隊さんがこちらに向かってやってきてしまった。

 このままでは、先ほどと同じように包囲されてしまう。包囲されたところで全員撃破する事は可能だろうけど、やっぱり時間がかかりすぎる。


「待ってください、シキシマさん!」


 そこへ私を追いかけて追いついて来たナルセさんが、私の名を呼んで叫んだ。

 ヤギ君はいないね。弓を手にしたまま元の場所で全く動かなくなっている。


「なに、ナルセさん。こっちは見ての通り忙しいんだけどなぁ」

「……タチバナさんからの伝言です。抵抗するなら、セカイさんの命がありませんよ」


 ナルセさんのその脅しは、私に対して絶大な効果を発揮した。

 夢で見た、セカイが私の腕の中で息絶えるシーンが頭の中をよぎる。それでもう、私の身体は動かなくなってしまった。


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