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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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包囲


 目の前には、大勢の兵隊さん。この狭い部屋の中で、この人数はあまりにも暑苦しすぎる。

 私は冷静に、周囲を見渡して気が付いた。カゲヨがいない。


「……何か用ですか?」

「ええ。申し訳ありませんが、貴女を拘束させていただきます」


 答えたのは、大勢の兵隊さんを背後に置いた宰相さんだ。


「理由は?」

「しらばっくれますか……。貴女方は帝国の使者だのと言ってこの国に侵入し、我が王国の長であるアレッサンドロ・ヴェリシス・ウル・リエフ・アースIII世を殺しに来た。そうなのでしょう?」

「何を言ってるの……?」

「とにかく、抵抗はしないでいただきたい。抵抗するならこの場で処刑する」


 宰相さんが手をあげると、兵隊さんが一歩前に出て私に剣を突き付けて来る。冗談でもなんでもない。彼らは私が抵抗したら、きっと本当に殺しにかかってくる。


「カゲヨはどこ?」

「帝国の使者の事なら、こちらで拘束させてもらっている。彼女は我が王を殺した実行犯だからな」

「カゲヨが王様を殺した!?」

「……まだしらばっくれるか。ちょっと見苦しいよ」


 カゲヨがそんな事をするはずがない。カゲヨは本気で帝国と王国の友好を深めようとしていたんだから。

 それが分かっているからこそ、理解できた。私達はハメられたのだと。セカイの言う通り、タチバナ君は私達を罠にはめたのだ。

 いやそれより、カゲヨが拘束されてるっていったよね。もしかして、酷い目に合わされたりしてないよね。


「抵抗はしない。だからカゲヨの所に連れて行って」

「最初からそのつもりだ。おい」

「はっ」


 私に数名の兵隊さんが剣をつきつけたまま、別の兵隊さんが私の腕を乱暴に掴んできてそこに鉄の枷をはめてきた。枷はずっしりと重く、それだけで自由を奪うだけの効果がある。普通ならね。今の私にとっては、何も枷に感じない。

 でも見た目的にはちょっと恥ずかしい。手枷には手綱のようにロープが繋がっていて、そのロープは宰相さんが持ってまるで私をペットのように見下してくるから。


「はい、じゃあさっさとカゲヨの所に連れてって」

「……」


 そう訴えた私の頬を、宰相さんは冷たい目で睨みつけて直後に平手打ちを繰り出して来た。

 頬に衝撃があり、同時に乾いた音が響く。女の子にするような平手打ちの威力じゃない。口の中が切れて血が出て来てしまったじゃないか。

 避けようと思えば、避けれたよ。簡単にね。未来視の力を使うまでもない。避けなかったのは、さっさとカゲヨの所に連れて行って欲しいからだ。


「生意気な口をきくな。今この国のトップは、実質私なんだよ。私の命令一つで君の首が飛ぶ。その覚悟で私に話しかけろ」

「……」


 私は黙った。黙って宰相さんを睨みつける。


「生意気な目だね。どうやらもう一発──……」

「……」

「ブスケス様!帝国の兵士たちの姿がありません!」


 もう一発私を殴ろうとした宰相さんを私が睨みつけていると、そこに別の兵隊さんが部屋にやってきてそう報告をした。

 帝国の兵隊さんが、逃げた?私とカゲヨを見捨てて?……いや、違う。兵隊さん達にもセカイは何かがおこると伝えてあると言っていた。セカイは今日こうなる事を見越して、先に逃げるように仕向けていたのかもしれない。だとしたら、全部セカイの計画通りだ。


「ふふ」

「……つ、連れて行け!実行犯もろとも、死ななければ何をしても構わない。痛めつけてやれ!徹底的にな!終わったら地下牢にぶちこんでおくんだ!」


 私が笑ったのが悔しかったのか、宰相さんが怒鳴って私の手綱を王国の兵隊さんに預けた。その兵隊さんが手綱を乱暴に引いて私を部屋から連れだす。

 そんな私を囲うように大勢の兵隊さんがいるんだけど、皆ニヤニヤと笑いながら私の事を見ている。

 想像がつく。このままおとなしくしていれば、ろくな目に合わない。こんな連中にカゲヨも囲まれているはずだ。はやく合流しないと……。

 しばらく兵隊さんに引かれ、私は立派な扉をくぐって大きな広間へとやって来た。広間の真ん中には赤いカーペットが敷かれていて、その先には高台に設置されたイスがある。よく王様とかがいる感じの部屋だ。

 そこには大勢の兵隊さんが集まっていて、人だかりを作っていた。


「おい、別の女を連れて来たぞ!この女もオレ達の王様を殺した犯人の一味だ!」

「お。来たな。で、オレ達はどうすればいい?」

「ブスケス様からは、痛めつけろと言われている。死ななければオレ達の自由にして良いともな」

「いいねぇ……」


 私を引く兵隊さんが、広間にいた兵隊さんと楽しそうに会話をする様子を尻目に、私はカゲヨの姿を探した。そして見つけた。カゲヨは大勢の兵隊さんに囲まれて、その人垣の中にいる。


「あ、おい!」


 私はその姿を見つけた瞬間、駆けだした。私の手枷を引いていた兵隊さんは、突然の事で枷と繋がっている手綱を放してしまった。おかげで手以外自由となった私は、猛然と兵隊さん達の中に突っ込んでカゲヨの下に駆け寄る。

 私に逃げる意思がない事に気づいた兵隊さん達は、割と素直に私の進行方向をあけ、通してくれた。


「カゲヨ!」

「……ハルカ、さん」


 そこには、床に座り込んだ状態で手枷と足枷を装着されたカゲヨがいた。その目は虚ろで、私の名を呼ぶ声にも覇気がない。

 服はちゃんと着ているけど顔には痣があり、所々切れて出血している。殴られたりした跡と思われる傷を見た私は、心の底から怒りが込みあがってくるのを感じた。


「カゲヨ、大丈夫!?誰にやられたの!?」

「……大丈夫です。大したことはされていません。それより、私は何もしていません」


 カゲヨは私の目を見ながら涙を流し、私にすがるようにそう訴えかけて来た。

 それでもう、確信に至った。カゲヨは何もしていないのに王様を殺した犯人にされた挙句、暴行を受けたのだと。

 そしてここで抵抗をしなければ、夢で見た未来が待っている。カゲヨが殺されてしまう夢だ。そうはさせない。


「何もしてない、だ?よく見ろ!玉座の下にあるオレ達の王様の死体をな!」


 指さされた方を見ると、確かにそこには死体があった。血を流し、明らかに死んでいる背の高いおじいさんの死体だ。


「そうだ!国王を殺したお前たちは重罪人だ!帝国のネズミどもめ!」

「何が友好の使者だ!」

「これだから帝国は信用できない!腐った帝国の野郎どもは皆殺しにするべきだ!」

「違います!私は──」

「早朝に急用だと言って国王様を呼び出し、謁見の間でブスケス様やメイドが見ている前で堂々と殺した!どうしたら言い逃れができると思うんだ!?ああ!?」


 カゲヨの反論を、兵隊さん達は聞こうともしない。

 でも私は信じる。そう訴えかけるように、私はカゲヨを腕に力強く抱いた。大勢の兵隊さんに囲まれての罵倒は、正直怖いよ。でもここで折れたら誰かの思惑通りになってしまう。


「なんだ、その目は!?やっぱり帝国の犬は、痛い目をみないとわからねぇみたいだなぁ?」

「まぁ落ち着けよ。最初にやって気絶でもされたら、楽しみが減っちまう」

「おとなしくしてろ。おとなしくしてれば、ちっとはマシかもしれないぜ?へへ」


 気づけば私とカゲヨは大勢の兵隊さんに囲まれ、逃げ道を塞がれていた。そして距離を詰めて来る、獣の目をした男達。彼らの目は、この世界に来て初めて出会った男の人と同じだ。


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