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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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何かが


 セカイ達はその後準備を少しだけして城を去って行ってしまった。

 セカイはケイジの馬に乗せてもらい、一緒に去っていく。その姿を見て嫉妬って訳じゃないけど、更に不安になった。カゲヨもちょっとだけ複雑そう。だけど2人が行く事を容認したのはカゲヨだし、今更やっぱり行かなくて良いとも言えない。

 不安だけど、でも大丈夫。セカイはケイジが守ってくれると約束してくれたし、私は私でケイジと約束した、カゲヨを守ると言う約束を果たそう。

 でもホント、私はこの世界に来てからずっとセカイと一緒だったんだなって、改めて思う。そのセカイと初めて別れる事になってしまい、なんだか自分の一部にポッカリと穴があいてしまったよう。


「はぁ……」


 ため息が漏れる。

 セカイと別れてからため息は漏れっぱなしで、まだまだ漏れそうな勢いだ。


「そんなに心配しなくても、大丈夫です。彼女にはケイジさんがついていますから。危険な任務だとは思いますが、絶対に無事に帰ってきてくれます」


 カゲヨと私は、王国に与えられた部屋の中にいる。昨日までは3人部屋だったけど、今はカゲヨと2人部屋だ。

 その事実がまたむなしい。だからため息が止まらない。

 カゲヨはそんな私を心配し、目を通していた書類から私に目を向けてそう言葉をかけてくれた。


「……うん。でもセカイに何かあったらどうしよう。私、セカイがいないと生きていけないよ」

「どんだけセカイさんの事が好きなんですか。そういえばお風呂ではセカイさんの事をその……舐めていましたよね。まさか、幼いセカイさんと普段からそういう事を……!?」

「いやいやいや、してないしてない。確かにセカイの事は好きだけど、ホントにしてないから。だからそんな引いた顔しないで」

「そ、そうですよね。すみません、おかしな事を言って。……でもセカイさんって、本当は何者なんですか?」

「何者って?」

「あの年齢にしては、落ち着きすぎです。知識も知性もありますし、たまに子供っぽく感じる時もありますが、話していると年上と話しているように感じてしまいます。それに喋り方も独特ですし、髪も前の世界ではありえないようなキレイな色をしていますよね?髪だけではありませんね。彼女はちょっと、美しすぎます」

「……」


 カゲヨはセカイの事を最初から少し、疑っていた。疑っていたと言うのとはちょっと違うけど、その正体に疑問をもっていたようだ。

 前はセカイに対し、味方が多い方がいいと理由で、その辺りを追求するのをやめていた。その追及を、本人ではなく私にしてきた形である。


「セカイは、本当に不思議な子なんだよ。口だけでは私に嫌われても仕方がないとか言いつつ、私のために一緒にいてくれて、私のために色んな事を教えてくれる。そんな子を嫌いになんかなれる訳ないじゃん。私は間違いなく、セカイが一緒にいてくれたからここまで生き残ってこれたんだ。これからも、セカイが一緒なら生きていけると思ってる」

「言っておきますけど、別に彼女を怪しんでいる訳ではありません。ただその外見や喋り方に、神秘的な物を感じただけです」

「分かってるよ。私もその気持ちは、よく分かる」


 セカイの正体は、私から言うような事ではない。

 例え私が言ったとしても、要領を得た解答にはならないと思う。セカイの存在を説明するのは、私にとって難しすぎる。

 だからカゲヨの疑問には答えず、はぐらかしてセカイに対して私が思う事を教えてあげた。


「ちなみにセカイは、カゲヨの事も心配してたよ。二人ってけっこう仲良いよね」

「そうなんですか?」

「うん。カゲヨがしようとしてる事を、セカイも応援してくれてるんだと思う。だからきっと、タチバナ君に頼まれた通りにケイジと一緒に危険な場所に行ってくれたんだよ」

「……はい。あの輪を乱さず、了承してくれたセカイさんには感謝しています。お二人にはご迷惑をかけてすみません。帝国の人間ではないのに、私達と王国にやってきたがためになあなあで帝国側の人間のような扱いになってしまっていますよね」

「それは大丈夫。私達が勝手についてこさせてもらっただけだからね。それに、あの時あのままカゲヨ達じゃなくてタチバナ君についていったら、何かが破滅していた気がする」

「破滅、ですか?」

「うん。怖い事になっていたと思う。だから今こうしてカゲヨとケイジと仲良くなれて、カゲヨ達につていく選択は間違っていなかったんだなって実感できるよ。その選択を私に迫ったのはセカイで、これもセカイのおかげ」

「……そう言っていただけると、私も嬉しいです」


 カゲヨは、本当に帝国と王国が仲良くなれるように頑張っている。それを応援するように、セカイやあのケイジですら、大嫌いなタチバナ君と一緒に共闘する道を選んだ。

 何もかもが順調だ。帝国と王国が手を組み、仲間の勇者であるアケガタ君を助けに行く。とてもキレイなストーリーである。


 でもセカイは出掛ける前、私にこう言った。


『ワシらが留守にしている間、必ず何かが起こる。あの男はワシとお主らを分断するためにこの舞台を用意したのじゃ。ハルが見た夢の通りになる道筋が出来上がっているとみて、間違いない。じゃからお主はカゲヨを守れ。ワシとケイジの方にも何かが仕掛けられる可能性があるが、こちらはこちらでなんとかする。じゃから、その時が来たらワシらには構わず戦え。帝国の兵士たちの方には既にケイジから伝達がいっている』


 セカイはタチバナ君の事を、全く信じていない。私と別れてもなお、私がとるべき行動を指示してくれた。

 何かがおこったら……その何かが何かは分からないけど、夢のような未来には絶対にさせない。

 そう意気込みながら、その日は眠りについた。セカイがいない初めての夜である。不安だけど意外とあっさりと眠りにつけたのはいつも通りで、逆になんだか恥ずかしくなってしまう。あれ程、セカイセカイ言ってたのにね。


 そしてその日も夢を見た。

 夢の中にはセカイがいて、私はセカイを抱き締めている。

 でも私の腕の中にいるセカイはとても衰弱していて、今にも消えてなくなってしまいそうなくらい元気がない。

 私の顔に向かって力を振り絞って手を伸ばし、私の頬に触れてくれるセカイ。

 そのセカイが私に向かい、口を動かして何かを喋った。

 でもその言葉はよく聞こえない。

 やがてセカイは私の腕から消え去ってしまい、私の元からいなくなってしまった。


 そして目が覚める。

 すぐにセカイを求めて周囲を見渡すけど、セカイはいない。セカイはタチバナ君に連れられ、ケイジと共に行ってしまった。

 今の夢が未来におきる出来事なのだとしたら、大変な事になる。すぐに追いかけて、助けないと。

 部屋を飛び出して、行動に起こそうとした時だった。逆に向こうから勢いよく扉が開かれると、大勢の兵隊さんが入って来て私の行く手を阻んでくる。


「な、何!?」

「いやぁ、残念だよ。本当に、残念だ」


 兵隊さんをかきわけ、昨日私達の会議に同席していた宰相さんが姿を現した。

 彼はしきりに残念だと言いながら、私を殺気のこもった目で睨みつけて来る。入って来た王国の兵隊さん達も剣を抜き、私の態度次第ではすぐに斬りかかって来そうだ。

 私は冷静に状況を見つめながら、悟った。セカイのいう、何かがおこってしまったのだと。


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