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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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緊急会議


 その後、緊急の会議があるという事で私達は一か所に集められた。私達と言うのは、私とセカイにカゲヨとケイジ。王国の勇者である、タチバナ君とクルミとシバ君とナルセさんに、アソウ君にカワイさんにヤギ君。

 加えて見た事のない王国のおじさんも、集められた部屋の中にいる。ヒゲをはやした、偉そうなおじさんだ。


「えー……帝国の方々に、異世界よりおこしの勇者の皆さま。お集まりいただきありがとうございます。私、王国宰相のビスケスと申します」


 そう切り出したのは、王国のおじさんだ。豪華な制服を身に着けているだけあって、かなり偉い立場の人だという事がうかがえる。

 宰相っていうのがどれくらい偉いのか分からないので、服で判断させてもらった。


「前置きは良い。状況を説明してくれ」

「……現在王国西側の国境に、魔族の軍勢が進軍。ユースキル砦を包囲しているとの事です」


 宰相さんは、地図を机の上に広げて説明してくれた。地図にはこのお城を中心として細かく各地に何があるのか書かれていて、私達がいるこのお城からやや離れた場所にある、×マークがある場所を宰相さんは指さしている。


「砦にはどれくらいの兵力がある」

「およそ、二千。それに加えて、勇者アケガタ トオル様が守っております」


 アケガタ君が、砦にいる。そこを敵が攻めていて、援軍を必要としている。そういう話だ。


「敵の兵力はどれくらいなんですか?」


 タチバナ君に続き、食い気味に質問をしたのはカゲヨだ。


「一万程、と報告を受けております」

「一万……」

「王国はこれ以上、土地を失う訳にはいきません。勇者の皆様には、至急ユースキル砦に向かっていただきたい。このリエフ・アースからも、追って二万の援軍を送り出します」

「勿論、行く。聞いたな、皆!王国のため、トオルのため、この国の民のため、急いで駆けつけてオレ達の力を魔族に見せてやれ!」

「ククク。オレの力を見せろ、か。いいだろう、やってやる!」


 盛大にカッコつけて行ったのは、シバ君だ。でもなんか、から回っている気がする。というか何か恥ずかしい。襟立の服装と合っていると言えば合っているんだけど、それをシバ君がやっているとなんか違う。


「うちも、やったる!」


 シバ君の隣で決意表明したのは、カワイさん。何故か顔が赤くなっていて、視線はシバ君に向いている。


「ま、いっちょ暴れてやるか」


 アソウ君も闘気をもやし、自分の拳同志をぶつけて気合を見せた。

 クラスメイトの皆が、タチバナ君の声掛けに口々に気合をいれる。その光景を見て、元の世界にいた時のクラスの風景を思い出した。

 リーダーシップのあるタチバナ君は、いつもこうやってクラスの中心にいたのだ。その時と、なんら変わらない。


「……」


 でもその風景を、私は一歩引いた場所で見ている。意外だったのは、クルミもそうだった事。

 思えばクルミは元々、タチバナ君が指揮する事に乗り気でなかった事が多い。今回も声掛けに答えず、黙っている。

 一歩引いた場所にいると、こんな事も見えてくるんだね。


「……本当に、申し訳ありません。力を持たない私には、お役にたてる事はなさそうです」


 申し訳なさそうに言ったのは、ナルセさんだ。どうやらナルセさんは勇者と呼ばれる力を持っていないようで、皆と共に行かないらしい。

 と言う事は、ナルセさんは皆と一緒にこの世界にやって来た訳ではなく、カゲヨと同じくこの世界に一人で放り出された側という事か。大変だっただろうけど、頑張って生き抜いてタチバナ君に見つけてもらったんだね。さすがナルセさん。

 申し訳なさそうに言ったナルセさんを他のクラスメイトが慰めて彼女は元気を取り戻し、残って自分に出来る事をやると意気込んだ。


「ぼ、ボクも行く……」

「ヤギ……。ダメだ。お前はまだ、休んでおけ」

「でも……!」

「お前には、オレ達が留守の間ナルセを頼みたい。それに皆の家族もだ」

「……分かった」


 ヤギ君は、明らかに体調が悪そうだ。そんな人を戦地に連れて行く訳にはいかないと、タチバナ君はそれらしい理由を付け加えて説得して見せた。

 それにしても、家族の話は初めて聞いた。本当に、クラスメイト以外にも家族がこの世界にいるんだ。でも誰の家族なんだろう。


「だが、ヤギが抜ける以上オレ達の戦力は落ちる。そこで帝国にも協力を仰ぎたい。ケイジ」

「あ?」

「オレ達と一緒に来てくれ。できれば、セカイさんもだ」

「ほう?」

「それは素晴らしい。王国と帝国が手を取り合い、共闘すると言う意思をみせる絶好の機会だ。いかがですかな、コミネ様」


 宰相さんが、本人たちにではなくカゲヨに同意を求めた。

 言っている事は確かにその通りなんだけど、その言葉には半ば脅しのような物を感じる。ここで協力を断れば、共闘の意思はないとみなすって感じだ。


「……私は構いません」

「黙ってろ、カゲヨ。オレがいない間、誰がカゲヨを守る」

「私兵の兵隊がいるだろう。それに王国の兵士もいる。彼らが全力で、友人である帝国の使者である彼女を守ってくれるはずだ」

「ふざけんな。帝国の兵にならまだしも、王国の連中にカゲヨは預けられねぇ」

「ではどうする。断るか?それも仕方がない。オレとお前は見ての通り、仲が悪い。だからお前は王国を去った。では何故、今このタイミングでお前は王国に戻って来た?目的があってここへやってきたんだろう?」

「……」


 ケイジはタチバナ君の問いかけに、黙った。

 ケイジはカゲヨと同じく、帝国と王国の仲を取り持つためにやってきている。本人にその気があるかどうかは分からないけど、タチバナ君達勇者との和解も目的としている。

 今この場で手伝いを断るのは、目的の不達成を意味するだろう。


「ケイジさんは、私を置いて行くのを懸念しているんですよね。だったら私もついていけば、解決です」

「残念だけど、現地は非常に危険な状況だ。そのような場に帝国の代表者である貴女を連れて行くわけにはいかない」

「しかし、それではケイジさんが──」

「分かった、協力してやる。ただしその代わり、オレとお前の間におこったこれまでの事を全てチャラにしろ。お互い恨みっこなしで、なんのわだかまりもないまっさらな状態に戻るんだ」

「騙されるな、タチバナ!そいつはクドウとタジマの事も無かった事にしようとしてやがる!二人に降りかかった死は、何があろうと現実にあった事!お前が殺したんだ!なかった事になんてさせないからな!」

「落ち着け、ヤギ。ケイジが言っているのは、オレとの関係だけだ。クドウとタジマは関係ない。そうだろう、ケイジ?」

「ああ、その件についてはチャラにしようだなんてオレは思ってないぜ?」

「そういう訳だ。オレは構わない。というか元々一方的にオレに絡んで来たのは、お前の方だからな。オレには何のデメリットもない条件だ」

「言ってろ」

「素晴らしい!コレで帝国と王国の友好が示されます!」


 宰相さんが、2人の合意を前にして喜びの声をあげた。でも喜んでいるのは彼だけだ。この場にいる他の皆は、不安を抱かずにはいられない。

 だって、仲の悪いタチバナ君とケイジが共に行動するとか言い出してるんだよ。不安しかない。


「それで?ワシも行けば良いのか?」

「セカイさんも相当の実力者だからな。是非来て欲しい」

「良いじゃろう」

「ええ!?」


 セカイがあまりにもあっさりと受け入れたので、私は驚きの声をあげた。


「セカイが行くなら、私も行くよ!」

「いや、ハルには城に残ってもらう。お主はカゲヨについているのじゃ」

「オレもお前にはカゲヨを頼みたい。代わりにこのちっこいのはオレが責任をもって守る」

「でも……」


 セカイと一緒にいたいと思うのは、私の我儘だ。この世界に来てからずっと一緒だったから、いざ離れるとなると不安になってしまう。

 私はセカイに、依存している。それはもう隠しようもない事実である。何か一緒にいないといけない理由がないかと思考を巡らせるけど、何も出てこない。


「帝国の人間ではないセカイさんを巻き込むのは申し訳ないですが、ここはタチバナさんの言う通りにしてもらえないでしょうか」

「案ずるな。すぐに戻ってくる。お主はそれまで、カゲヨと一緒にいるのじゃ。よいな?」

「……うん」


 こんな状況では、自分の我儘を突き通す訳にはいかない。結局私はセカイが行ってしまう事を容認し、頷くしかなかった。

 でも、なんだか凄く嫌な予感がする。あんな夢を見てしまったからだろうか。これから何かがおこる。そんな気がしてならない。


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