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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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猫かぶり


 おじいさんが去っていく姿を、タチバナ君は睨みつけながら見送った。


「大丈夫か、シキシマ。セカイさん。悪いな、あのじいさんは少しボケてるんだ。本来ここはあいつの担当箇所じゃない。もう二度とお前らには近づかないようにするから、安心してくれ」


 そして私達の下にやってきたタチバナ君は、私達の身を案じてそう声をかけてくれた。

 私達を心配しての声掛けに、一応は感謝する。だけど今朝見た夢のせいか、彼を警戒せずにはいられない。私はタチバナ君から庇うようにしてセカイを自分の背中に配置し、彼を睨みつける。


「安心しろ、シキシマ。オレはセカイさんを恨んでなんかいない。セカイさんはただの勘違いでオレに襲い掛かった。そうだろう?」

「……そうじゃな。全てはワシの勘違いだったのかもしれん」

「分かってくれて良かったよ。もう襲い掛かってこないのなら、オレはそれでいいと考えている。だから、警戒しないでくれ」


 セカイに襲撃された事を、タチバナ君は勘違いと言う事で済まそうとしてくれている。命を狙われたと言うのに、心の広い彼には感動させられるよ。

 他の皆にもセカイに襲われたと言う事は伏せてくれているみたいだし、彼のセカイに対する気遣いには本当に感謝している。


「……ケイジから、色々と聞いたんだな」


 それでも警戒する私を見て、タチバナ君は寂しそうな表情を浮かべてため息をつきながら呟くように言った。


「アイツもオレに対し、勘違いしているんだ。オレも奴に対しては勘違いされる行動をとってしまったと思う。その点は、悪い事をしたと思っている。あの時は興奮してしまい、暴言を吐いた事も謝罪する。だから、安心してくれ。シキシマに警戒されると、ちょっと辛い」

「……」


 こんな悲しそうな表情を浮かべるタチバナ君を、私は初めて見た。本当に悲しそうで、手を差し伸べたくなってしまう。

 でも、セカイが私の手を握って遮った。騙されるなと、セカイが訴えかけてくる。


「……うん。あんな事があって、ちょっとぎくしゃくしちゃったね。私もごめんねー。ちょっと大げさに反応しすぎちゃったかなって思ってる」

「お前が謝る必要なんてないさ。オレが悪かった事だからな。オレはケイジともこうやって誤解を解き、クラスメイトの皆と仲良くやってこの世界で生き残っていきたいと思っているんだ。そのためにはシキシマの協力がいりそうだ。期待してるぞ」

「勿論、タチバナ君が皆が仲良くなれるように何かするっていうなら、私は協力させてもらうよ。役に立つかどうかは別としてね……」

「お前には、本当に期待しているんだ。きっとオレには思いつかないような方法で、ケイジとオレや皆の仲を修復してくれると思っている」

「いやぁ……」


 私にそこまで期待されても、困る。だってあのピリついた空気を見てたでしょ。特にヤギ君はケイジに対して殺意にも似た感情を抱いているようだし、無理だよ。

 そしてその原因を作ったのは、タチバナ君でしょ。クドウ君とタジマ君が死んだのをケイジのせいに仕立て上げ、それでいて皆とケイジの仲をとりもてとか、都合が良すぎる。

 でもそれはケイジ憶測であって、まだタチバナ君がやった事だと確定した訳ではない。でも誰かがそういう事に仕立て上げたのは事実で、まずはその事を尋ねるにはいいタイミングだと思う。


「タチバナ君。ケイジが貴方を誤解しているって言うなら、ハッキリさせてほしい事があるの。何でクドウ君やタジマ君が死んでしまった事が、ケイジのせいになってるの?二人は事故で死んじゃったんだよね?タチバナ君はそう私に話してくれたよね?」

「ああ、それは──」

「タチバナ君、大変だよ!」


 タチバナ君からその疑問の答えを貰おうとした所に、クルミが慌てて廊下を走ってやって来た。


「どうした、トウドウ!」

「アケガタ君から救援要請!魔族が攻めて来て、攻撃を受けてるって!」

「何だと!?すまない、シキシマ。話は保留だ」

「ごめんね、ハルちん!緊急事態なんだよ!」

「う、うん」


 緊急事態だというなら、仕方がない。タチバナ君はクルミに連れられ、答えを聞く前にその場を後にしてしまった。


「魔族が攻めて来た、か」

「それって、凄く大変な事なんじゃない……?」

「そうじゃのう。……ところでハル。あの男と改めて話して、どう思った?」

「え?えと……もしかしたら、悪い人じゃないのかもって思った」


 私は素直な感想をセカイに述べた。すると、私の手を握るセカイの手に更に力が入るのを感じた。


「あの男の上手い所じゃ。お主も、恐らくカゲヨも……猫を被るヤツと話して騙されようとしている。ワシはあ奴の話をきき、改めて何かを企んでおると感じたぞ。絶対に騙されるな。奴の罠に嵌まるな。警戒し続けろ」

「……なんかセカイ、本当にケイジみたいだよ」


 私はおかしくて、ちょっとだけ笑ってしまった。でもセカイは真剣に言っているので、その表情を崩さずに私を見続けて話を続ける。


「自身の事を、国王だと名乗ったあの年寄り。あの男の言っていた事は、確信はないが本当じゃ」

「え。あの人が本当にこの国の王様って事?嘘でしょ?だって国王って、ケイジが言ってたけど背が高いおじいさんて言ってなかった?それに王様が普通お城の掃除なんかする?」

「あの男には何らかの力が働き、何者かによって姿形を変えられている。姿を変えられたことにより、その地位も変えられているのじゃろう。恐らくカゲヨが対話したと言う国王は偽物じゃ。そしてそんな事が出来る力を持つ者に、心当たりがある」

「……タチバナ君」

「そうじゃ」


 タチバナ君は幻影を作り、偽物を囮にして戦っていた。ケイジはその力を、幻影と呼んでいたっけ。実際その力をどうやって使うのか詳しい事は分からないけど、でもその力を利用すれば誰かに幻影を重ねて姿を変える事が出来てしまうのかもしれない。


「で、でも、そんな事出来るの?」

「確信がある訳ではないと言ったじゃろう。しかし、あの男が何故あの年寄りの担当掃除箇所を知っている?ただの勇者が城の運営にまで関わっておるのか?それも、掃除人の掃除個所に?おかしいじゃろう。奴は意図的にあの年寄りの行動を監視しておるのじゃ。国王からただの年寄りに化かした男が、余計な事を言わんようにな」

「なんで、そんな事を……」

「知らん。それは奴に直接聞かねば分からぬ事じゃ。しかしこの事をワシらが知ったとなると、あの男も放ってはおかんじゃろう。黙っているのが吉じゃ。カゲヨがこの国から退く選択をしてくれれば、話しても良いのじゃがな。しかしこの事を話してもなお、カゲヨは退かんじゃろう」


 私が見た夢の話をしても退かなかったカゲヨが、見知らぬおじいさんの話を信じて退く訳がない。だからセカイの言う通り、黙っておくべきだろう。タチバナ君に問いただすのもナシだ。

 一時は信じそうになったタチバナ君だけど、セカイと話していく内にまた疑惑が増えていく。私はバカだから、やっぱりセカイがいないとダメだ。思考がどうして追いつかない。

 でもセカイが、私だけではなくカゲヨの事も心配してくれているのが嬉しかった。


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