表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
74/105

偽の姿


 この日は夢を見た。

 人々が声を大きく上げ、何かに向かって凄く怒っている。その怒りの先には、カゲヨがいた。彼女はボロボロの布を身にまとい、枷で拘束された状態で高台に立たされている。

 そして次の瞬間、彼女の周囲にいた兵隊が手にした武器で彼女を切り裂いた。でもその攻撃は、彼女を死に至らしめるものではない。カゲヨが痛みに声をあげるけど、彼らは彼女を無理矢理立たせて次は鞭を撃ち始める。

 カゲヨは助けを求めた。だけど誰も彼女を助けようとはしない。

 その様子を、ほくそ笑みながら見守る人物がいた。タチバナ君だ。

 結局カゲヨはこの後、無残な方法で殺されてしまう事になる。その次は、私だった。


 そして目が覚めた。

 王国で与えられた、自室のベットでの目覚めだ。


「大丈夫か、ハル」


 うなされていたのか、セカイが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。手まで握ってくれると言うサービスのよさに、私は感動したよ。


「……うん」

「本当に大丈夫ですか?凄い汗ですけど……」


 更に、カゲヨも心配そうに私を見守ってくれていた。

 その姿を見て、私は夢を思い出す。すぐに上体を起き上がらせ、周囲を警戒した。


「どうしたのじゃ、ハル」

「……夢を見たんだ」

「どういう夢だったのじゃ?」


 セカイに問われ、私は夢の内容を2人に伝えた。

 私の夢は、ただの夢ではない。未来視の魔眼による、未来予知だ。だから将来そうなる可能性がある。

 今まではこの世界の夢を見る事はなかったけど、今回初めてこの世界に来てからの未来を見た。それはただの夢ではない。あの感覚のリアルさは、確実に未来視だ。これからカゲヨと私の身に、死が訪れようとしている。そしてその死にはタチバナ君が関与している。


「──やはり、あの男は危険じゃ。今すぐ滞在をやめ、国に帰るべきじゃろう」


 私の夢の内容を聞いたセカイは、カゲヨにそう提案した。

 私もそうすべきだと思う。あんな事になるなら、この交渉は無意味だ。何よりカゲヨがあんな目にあうのを、私は見過ごせない。


「……今回見た夢が、ただの夢だったと言う可能性はありませんか?未来視とは関係なく、ただの夢だったと言う可能性です」

「ただの夢ではなかったと思う……。今まで見て来た夢と同じで、凄くリアルで怖かったから。でも夢で見た事が実際に起きた事がないから、絶対にそうなる……とも言い切れないけど……」

「では、ただ夢を見たからという理由で私がこの地を後にする訳にはいきません」

「じゃがハルの力は本物じゃ。このままではお主は夢の通りの結末を迎える事になる。ひかぬというなら、せめてやり方を変えるべきじゃろう」

「方針も、変わりません。私は王国と帝国との仲をとりもち、タチバナさん達王国の勇者と手を取り合って直面する困難に立ち向かう道を探ります。……でも、警告としては受け止めておきます」


 カゲヨがただならぬ覚悟でこの地にやって来た事は知っている。だからただ私が夢を見たという理由だけで、その覚悟を覆らせるような効果はなかった。

 正直夢を見た本人である私にも、自信はない。先程カゲヨに言った通り、夢で見た事が実際におきたことがないんだよね。だから強く押し通す事は出来ない。ただ、漠然とした不安はある。

 セカイが引き続いて説得を試みたものの、結局カゲヨの考えが変わる事はなかった。


「──今のタチバナ君はやっぱり演技で、本当にカゲヨや私を殺すつもりなのかな」


 あの後カゲヨは王国の偉い人との会談があるとのことで私達と別れ、行ってしまった。セカイと2人きりになった私は、お城の中をなんとなく散歩しながらセカイにそう尋ねた。


「間違いなくそうじゃろう。これまでお主がみた夢を思い出すがよい。奴はお主を必ず殺す。そういう役割じゃ」

「セカイは、私が見て来た夢の内容を知ってるの?」

「知っている。黙っていたが、ワシにも似たような力があるのじゃ。そのワシが言っているのじゃから、信じろ」


 セカイは、本当に不思議な子だ。信じろと言われると信じずにはいられない。それはこの世界に来てから色々と支えられてきたからというのもあるんだろうけど、それ以外にも何かがある気がする。

 いや別に洗脳とかされてる訳じゃないからね。彼女はなんというか、特別なんだ。キレイで髪が長くて小さくて美味しくて、凄く可愛い。信じる要素しかない。


「……すまんが、そこをどいてくれるかのう?」

「うわっと……ご、ごめんない」


 廊下の真ん中でセカイと話をしていたら、昨日もみたおじいさんがモップを手に、昨日と同じように私達に退くように促して来た。

 おじいさんを見て、昨日のように強烈な違和感に襲われる。何かがおかしい。でも何がおかしいのかが分からない。


「お主ら今、勇者について話しておったな……?」


 廊下のモップ掛けを開始したおじいさんが、横目に私達の方を見てそんな事を尋ねて来た。


「う、うん」


 今思えば周りに人がいるのにこんな事を話すのは危険な行為だった。話が聞かれていたとしたら、けっこうマズイんじゃないか。

 素直に答えてから思ったけど、もう遅すぎる。


「勇者どもは、危険だ。とくにあのタチバナという勇者は危ない。奴はきっとこれから、大勢を巻き込んだ戦いを始める。それは己の欲望のためで、身勝手で許されぬ行為だ」

「お主、あの男について何か知っておるのか?」

「よーく知っておるとも。奴はワシから、全てを奪った男だからな。……貴様ら確か、帝国から来た人間だったな。いいか、よく聞け。奴を信じるな。奴は帝国との和平など望んではおらん。今の国王もそうだ。嵌められる前に、この国から去れ」


 おじいさんの警告は、セカイがカゲヨにした物と同じ内容だった。ただ、国王に関しては予想外だ。


 ──国王は帝国との和平を望んではいない。


 それはカゲヨにとって絶望的な情報だ。でもおじいさんからもたらされたその情報を信じる要素が、私達にはない。

 もしかしてカゲヨもこんな気持ちだったのだろうか。私が夢で見たからといって、夢を信じてそうですかじゃあやめますと、簡単に引き下がる訳にはいかない。おじいさんにそんな事を言われたからって、信じて逃げ出す訳にもいかない。同じようなものだ。

 カゲヨが私の夢を信じて引き下がらなかったからって、別にイジけている訳ではない。気持ちが分かっただけである。


「言われずとも、ワシはあの男を信じてなどおらん。じゃが帝国の使者は王国とも、あの男とも手を取り合う事を望んでいる。簡単に下がる訳にはいかんようじゃ」

「愚かな事だ……」

「両国が手を取り合う事により、大勢の人間が住む場所を失わずに済む。それは大勢の人間の命を救う事に繋がる。奴には奴なりの信念があり、その信念は高潔で穢されるべきでない物じゃ」

「……そうだな。王国と帝国が手を取り合う、か。そうなれば多くの困難に対処する事ができ、多くの民が苦しみから救われるだろう。昔なら考えられなかった事だが……こうなってしまったからこそ、分かる。間違った道を歩み始めた王国を止めるには、帝国の力が必要だ」

「聞くが、お主何者じゃ?ただの掃除人には見えぬ。貴族か?それとも隠居人か?」

「この姿のワシが、そんな風に見えるのか?」


 セカイの質問に、おじいさんは目を見張って驚いた。私の目にはセカイが言うような人には見えないんだけど……セカイが冗談を言っているようには思えないし、本気でこのおじいさんを偉い人だと思っているようだ。


「見えるのう。お主、その姿はまやかしじゃろう。もしやあの男に姿を変えられておるのか?」

「ああ……!ああ、ああ!その通りじゃ。ワシはこの国の国王……!アレッサンドロ・ヴェリシス・ウル・リエフ・アースIII世だ!」

「ちょ、ちょっと!」


 おじいさんは突然興奮したようにセカイの肩に掴みかかり、自分の事を国王だと言い張り始めた。私は間に入り、慌てておじいさんをセカイから引きはがす。

 言っている内容はともかくとして、興奮したおじいさんにセカイが傷つけられかねない。


「離せ、小娘!この者は、この者だけがワシの正体を見破った!この者ならワシを救えるはずじゃ!」

「──何をしている」


 おじいさんの両脇に手をいれて、セカイから引きはがす事に成功したけどおじいさんの抵抗はすさまじい。じたばたと暴れて尚もセカイに襲い掛かろうとしている。

 だけど、ドスのきいた声が聞こえて来た事によってその動きがピタリと止まった。

 声の持ち主は、タチバナ君だった。彼はおじいさんを睨みつけながら、こちらに歩み寄ってくる。


「ワシは掃除に戻らんと……」


 急におとなしくなったおじいさんは、もう暴れる様子もなかったので私は手を離した。すると興奮した際に床に落ちていたモップとバケツを手に、とぼとぼと歩いて去って行く。

 その行動はまるで、タチバナ君から逃げるようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ