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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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似ている二人


 どうやらタチバナ君は、セカイの事を皆に話していなかったようだ。

 突然タチバナ君に襲い掛かった彼女を、彼は庇ったのだろうか。だから、セカイの事は伏せておいた?だとしたら、感謝すべきだろう。セカイの立場が悪くなるのを私は望まない。


「この子はセカイ。私と一緒に元の世界からこの世界にきちゃって、ずっと一緒に過ごして来たんだ」

「セカイちゃん、かー。すっごく可愛い子だねぇ!髪キレイ!肌白い!目大きい!」

「……ジロジロと見るでない」

「喋り方も可愛い!声もキレイ!」

「……」


 クルミに纏わりつかれたセカイが、助けを求めるように私に寄って来た。

 確かにセカイは可愛いよ。本当の事だからしょうがない。


「ちょっと変わった子だけど、良い子だから。皆よろしくね」

「変わった子って、シキシマ以上に?」

「ちょっ。アソウ君それは酷くない!?殴り飛ばすよ!?」

「バカ、よせ!冗談。冗談だっつーの」


 私とアソウ君のやり取りに、皆が笑った。おかげで少しだけ、昔のクラスの感覚を取り戻す事ができた。

 ヤギ君は相変わらずおかしくて、顔を伏せてぶつぶつと何か呟いているけど……ナルセさんに寄り添われ、とりあえず暴れたりはしなさそう。そちらは心配だ。今のヤギ君は、本当に簡単な事で壊れてしまう。そんな状況にある。

 でも一時はどうなる事かと思ったけど、とりあえずはなんとかなったんじゃないかな。カゲヨが帝国の偉い人から命令された、この世界にやってきてしまったクラスメイト達とケイジとの不仲の解消は、無理難題とも思えたけどまずは上手くいった。

 その後も私達は再会を喜び合い、楽しくお喋りをする事が出来たからね。その中には勿論ケイジもタチバナ君もいて、昔の事は棚上げすることによって表面上の友好関係は築けた気がする。まだまだ努力は必要だと思うけど、始めはこれくらいでいい。これから少しずつ、分かり合えていく。そんな気がする交流となった。


「はあぁぁー」


 交流が終わり、私達は一旦自室に戻る事にした。どうにか一歩踏み出す事ができ、カゲヨは深くため息をついて満足げだ。

 部屋に戻る途中の廊下だと言うのに、すっかり気が抜けている。

 カゲヨは思ったよりも皆に歓迎されて受け入れられていたからね。質問攻めにあって大変そうだったけど、嬉しそうだった。


「なんとか平和的に済んだね。偉いね、ケイジ」

「本当に、よく我慢してくれました。偉いです、ケイジさん」

「眉間にシワは寄っていたし、表情は硬かったがまぁまぁではないか?」

「……てめぇら、オレを猛獣かなんかと思ってんのか?これくらい我慢できらぁ」


 それは実際タチバナ君に襲い掛かっている人が言える台詞ではない。だからこそ私達は、ケイジが突然タチバナ君に襲い掛からないか心配していたんだから。


「……でも皆、本当に大変だったんだよね」

「はい。特にヤギさんは、精神が本当に参ってしまっているようでした。前の世界なら病院に通ってゆっくりと休んでもらわなければいけないような状況です。しかしこの世界では精神関係の医療は発達していませんから……」

「代わりに皆で支えてあげてるんだよね。本当に、皆凄いよ」


 献身的にヤギ君を支えるナルセさんとクルミを思い出し、尊敬する。彼らはそうやって互いに支え合いながら生き残って来たのだ。


「だが気に入らねぇのは、クドウとタジマが死んだのがオレのせいになっていたって事だ」

「……実際は、タチバナさんが関わっていたと言っていましたよね」


 あまり大きな声で言えない事なので、カゲヨは小声でケイジにそう尋ねた。


「ああ。最初は不慮の事故って事でシュースケは片付けていた。皆もそれで納得していたはずだ。それがいつの間にか、オレのせいだぞ。キレそうだったぜ」

「……」


 ケイジは、本気で怒っている。眉間にシワをよせ、額に血管を浮かび上がらせてやりようのない怒りをその内に潜めているのだ。やってもいないのに、勝手に自分が友達を殺してしまった事になっていたら、そりゃ怒る。

 それでも暴れも反論もしなかったのは、あの場の空気を乱さないためだろう。あの場で空気が悪くなれば、カゲヨ達の目的の達成は難しくなる。だから、ずっと我慢していたのだ。


「もしやあの男は、ケイジを試したのかもしれんのう。もしあの場でケイジが暴れ出せば、皆で囲って処罰する。暴れずとも、ケイジのせいにしておけば奴らの結束が固まる事になる。やはり侮れんな」

「……もしそうでも、申し訳ありませんが、タチバナさんについては棚上げにしましょう」


 カゲヨは突然立ち止まると、言いにくそうにケイジにそう言った。

 私達も立ち止まり、カゲヨの方を向く。


「どういう事だ?」

「タチバナさんがこちらと争うつもりがないのなら、こちらから火の粉をまきにいく理由はありません。問題を大きくしないためにも、このまま黙って交渉を進めて帝国と王国の友好に繋がるように努めたいんです」

「お前はオレに、クドウとタジマを殺した犯人にされたまま黙っていろと。そう言いてぇのか?」

「……はい」


 ケイジは不機嫌になり、威圧するようにしてカゲヨに尋ねた。それに対してカゲヨは負けじとケイジをじっと見つめ、静かに頷いて返した。


「悪いが、それはできねぇ。オレはアイツが改心しない限り、アイツと上手くやっていくつもりはねぇんだよ。もしアイツの問題を棚上げにしたら、オレが昔からやって来た事が無意味になっちまうからな」

「どうしても、ですか?」

「どうでしもだ」


 2人の間に、ピリッとした空気が流れた。睨み合う2人はまるで喧嘩中のようにすらみえる。もしかしたら内心、本当に怒っているのかもしれない。特にケイジは顔がいかついので、そう見える。


「カゲヨの判断も、よく分かる。現状で勇者どもとケイジの不仲を解消するには、問題の棚上げも必要じゃ。じゃが、あ奴の問題を棚上げにするのはあまりにも危険すぎる賭けじゃ。あ奴は今なんとかしなければ、いつか必ず裏切るじゃろう。後手に回れば奴の思うつぼじゃ。今のうちに対応しておいた方が良い」

「セカイの言う通りだ。棚上げは、ない。お前がやらなくてもオレがアイツの罪を問う」

「……はぁ」


 カゲヨはため息をつき、肩から力を抜いた。表情は柔らかくなり、笑顔を見せてくれる。


「そうですね。私は現状で一番楽な道を提示したんですが……お二人の言う通り。彼の問題を放置すると将来的に危険になりかねません。山を越えたと思っても、実は全然超えていませんね……。分かりました。その問題は私が、しかるべき時期に問題にします。だからお二人は、勝手に動かないように。いいですね」

「わ、分かってるって。タイミングはお前に任せる」

「セカイさんも」

「ワシをケイジと一緒にするでない」

「えー。セカイも急にタチバナ君に襲い掛かったじゃん。一緒だよ」

「はい。間違いなく一緒です」

「なっ……!」


 ケイジと一緒にされたのがよっぽどショックだったのか、セカイが固まってしまった。

 それを見て、ケイジはちょっと嬉しそうにしている。タチバナ君嫌いの仲間ができて喜んでいるようだ。


「──すまんがお主ら、そこを退いてもらえんか?」


 廊下の真ん中で話をしている私達に、そう話しかける人物がいた。バケツとモップを手にしているおじいさんで、どうやらお城の中を掃除して回っているようだ。私達がいるここを掃除したいようで、申し訳なさそうに頭を下げてお願いしてきた。

 背は低く、腰が曲がって毛髪が所々にしかない。こう言ったらなんだけど、こんなおじいさんがお城の中で掃除の仕事をしているのかと、ちょっと違和感を覚えた。


「ごめんなさい、今退きますね。お疲れ様です」


 おじいさんに対し、カゲヨが優しく声をかけて私達はその場を後にした。

 その場を去りながら、私はおじいさんの事が気になった。見た目だけではない。何か、おかしな気配を感じる。でもその気配がなんなのかまでは分からず、不思議に思うだけだった。


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