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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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不気味な再会


 翌日朝食を済ませると、私達は早速この世界に転移したクラスメイト達と会う事になった。帝国の兵隊さん達は、お留守番。皆と会うのは、私とカゲヨとケイジとセカイ。4人だ。

 案内役のメイドさんに連れられて城内を歩いていくと、やがてお城の中庭に辿り着いた。キレイなお花が咲くその場所に、既に皆が揃っていた。


「っ……!」


 そんな皆を見て、ケイジの身体に力が入る。眉間にシワをよせ、今にも襲い掛かりそうな顔だ。


「ダメですからね。今回ばかりは、本当にダメです」

「……分かってる」


 揃っている皆の中には、タチバナ君もいる。ケイジは攻撃したい衝動にかられながらも、カゲヨに釘を刺されて渋々と頷いた。

 本当に大丈夫かな。


「ん。シキシマ!」


 そんな私達に、タチバナ君が気づいて声をあげた。笑顔で私の名を呼び、手を振ってくれる。


「ハルっちー!」

「わっ」


 直後にクルミも突撃してきて、私に抱き着いて来た。私は彼女を抱きとめて、互いに抱き合う形となる。

 2人はそんな感じで歓迎してくれたけど、残る皆はそんな感じでもない。たくましくなったクラスメイト達は、どこかピリついた雰囲気でそこに立ち、私達を睨みつけている。


「み、皆さんお久しぶりです!コミネ カゲヨです。……覚えていますか?」

「ああ、勿論覚えている。なぁ、皆」

「コミネさん、か。随分と雰囲気が変わった気がするけど、勿論覚えてるよ」


 そう言ったのは、柴 勝也君だ。

 背の低い物静かな男子生徒で、いつもボソボソと何かを喋るようなタイプだったのに、ハッキリと言葉を発する彼の方こそ印象が変わった気がする。あと、その服装。襟の高い黒いコートを羽織っていて、ちょっと痛々しい。

 と思ったけど、魔術師風の服装を着ている私も人の事は言えないか。


「ホント、そうね!前より可愛くなった気がするわ!」


 続いたのは、成瀬 里奈さん。

 ほんわかお姉さんタイプの人で、クラスの癒し担当。ロングスカートのおしとやかな服装の彼女は、あまり変わった印象は持たない。


「変わったっつったら、やっぱカツヤだろ。コイツこっちに来てからどんどんカッコつけるようになって、オレは将来が心配になってきたぜ」

「いやいや。うちはあんたの方が心配だよ。というかカツヤ君は……今の方がカッコイイし」


 がさつな口調な男の子は、阿相 大輔君。

 シバくんをカッコイイとか言って照れているのが、河合 朱里さん。


「……それにしても、よく無事だったな。シキシマさんも、コミネさんも。こんな世界で、ホントによく生きてたって感じだよ」


 改めてそう言ったのは、コートを羽織ったシバ君だ。


「はい。突然こんな世界に放り出され、お互い本当に大変でしたよね。その中で亡くなった方がいる事も聞いています。本当に残念な事です」

「そう、ですね……。ボク達もいつそうなるか分からない。亡くなった友の事は残念だけど、今は生きてこうして再会できた事を、素直に嬉しく思おう」

「──何が、嬉しく思おうだ!」


 響いた怒鳴り声に、私は驚いた。

 声の持ち主はやせ細った男で、年齢は30代くらいだろうか。


「オオイソ!お前のせいで、クドウとタジマは死んだんだよ!お前がタチバナといがみ合うばかりで協力しなかったからだ!挙句にタチバナに責任を押し付けて王国を去ったと思ったら、帝国に寝返ってるだぁ?ふざけるんじゃねぇよ!」


 半狂乱となっている男が、オオイソ君に向かってそう言い放った。でも言っている内容から察するに、もしかしたら私達の関係者なのかもしれない。


「落ち着いてください、ヤギ君」

「ヤギ君!?」


 ナルセさんが彼の事をそう呼びながら優しく肩に手を乗せ、なだめにかかった。

 そして、ヤギ君──そう呼ばれるクラスメイトの顔と、半狂乱の男の顔が一致した。

 八木 冬也君。明るくて、元気いっぱいの青年がその男の子の名だ。でもその風貌はあまりにも変わり果てており、まるで別人のよう。無精ひげをはやし、髪の毛も傷んでボサボサ。その姿は、この世界で初めて出会った人間──ロロアちゃんを攫おうとしていた男のようだ。


「そうだよ、ハルっち。彼は、ヤギ君。私達のクラスメイトの、男の子だよ」


 クルミがそう説明しながら、私から離れた。そしてクルミもまた、ナルセさんと一緒にヤギ君をなだめにいった。


「でも、どうして……」

「過酷な生活と、その生活の中でおきた友達の死に、耐え切れなかったんだろうね。食欲が段々となくなってやせ細り、自分の身体をよくかきむしるようになった。見た目はどんどん老けていき、こうなるまであっという間だった。最近は少し落ち着いていたんだけど……オオイソを見て、思い出してしまったらしい」


 シバ君は、冷静に彼の身におきた事を話してくれた。彼の暴走には、もうなれているのだろうか。私やカゲヨは狼狽したけど、クラスメイトの皆は全く慌てていない。

 狂乱した彼をあやす役は、当たりの柔らかい女子が担当しているのだろうか。ナルセさんとクルミが慰める事により、ヤギ君は先ほどよりは落ち着きを取り戻し始めている。


「だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。すぐに落ち着く。でも、あまり刺激しないでくれると助かる」

「刺激って……ケイジさんはただ、立っていただけです」

「……シキシマさん、コミネさん。この際だから言っておくが、オレ達は必死に戦って来た。だがその中で、死んでしまった友もいる。中には仕方がなかった者もいれば、助けられた者もいるんだ。その助けられたかもしれない者が死んでしまった原因は、オオイソが輪を乱したせいであり、ヤギもオレ達もその事を忘れていない」


 そこで、クラスメイト達の視線がケイジに向いた。彼らの目には、憎悪が宿っている。

 私がカゲヨから聞いた話では、タジマ君もクドウ君も、タチバナ君に嵌められて死んでしまったはず。でも彼らは違う。全てがケイジのせいだと考えていて、ケイジを恨んでいる。


「──よすんだ、皆。誰のせいで誰が死んだとか、オレ達は言い争うような状況じゃない。オレ達はただ、必死に生きて来ただけだ。必死過ぎて周りを見失う事だってある。仕方がなかったんだよ。オレ達はただの高校生で、戦った経験なんて皆無だったんだからな。でもオレ達は皆、同じ世界からこの世界に突然放り込まれた仲間だ。そうだろう?」

「……ごめん、タチバナ君」

「そうですよね。タチバナさんの言う通りです」

「ああ。仲間同士で恨みあって争ってる場合じゃねぇよな」

「うちらもそうやって、必死になって生き残って来た訳だしね。争ってる場合じゃないっていうのは、賛成」

 

 でもそんな空気を、タチバナ君が放った言葉で一蹴した。

 皆、誰も疑う事もなくタチバナ君の意見に賛成する。それは一見すると、リーダーに従う統率の取れた部隊のよう。

 でもタチバナ君に疑念を抱き始めている今、この光景を前にして不気味に思う。何故皆、こうも簡単にタチバナ君の言葉に流されるのだろうか。

 ……いや、ちょっと考えすぎか。不気味さはどうであれ、タチバナ君はオオイソ君に向きかけたヘイトを流してくれたのだ。その功績まで見失っては、ダメだ。


「オレ達は今言った通り、この世界にやってきてしまった仲間だ。国王様から話は聞いている。コミネさんが帝国の使者として、王国と協力していきたいと言っていたと。オレも、帝国と王国が仲良くやっていけるなら大歓迎だ。オレ達が両国の架け橋となり、良い関係を築いて行こう」

「は、はい。是非ともお願いしますっ」


 タチバナ君が手を差し出し、カゲヨはその手を握って2人は固い握手を交わした。その2人の姿に、違和感は何もない。この世界にやってきた者同士の結束が、仲の悪い2つの国の架け橋になろうとしている。

 もしかしたら、タチバナ君は心を改めたのではないだろうか。皆に慕われるその姿を見て、そんな事を想ってしまう。


「……他の勇者の連中はどうした?」


 この場にいたのは、ここまでに紹介した7人だけだ。話ではレイコやアケガタ君もいるはずなのに、2人の姿はどこにもない。その事に疑念を持ったケイジが尋ねると、一瞬また空気がピリついた。

 いくらタチバナ君が仲良くしようと言っても、個人の考えは中々抑えられる物ではない。その影響がまだ残っている。


「ここにいない者は、勇者として仕事に出ている。各地に出没した魔獣や魔物の討伐やらで忙しいんだ。対応が追い付かないから、小物相手には交代で対応するようにしている」

「くらちんも、今は出掛けちゃっていないんだー。早くハルっちと会わせたいなぁ。絶対喜ぶし!」

「そっかぁ。レイコいないんだぁ……」


 それは確かに残念だ。レイコの勇者姿は、カッコイイ確定している。見たかった。そして会いたかった。


「ところでずっと気になってたんだけど、その女の子はどちら様?」


 クルミがそんな質問をして、皆も気になっていたと続いた。その対象はセカイで、クラスメイトだけが集まっているこの場所において彼女の存在は確かに浮いている事に気が付いた。


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