常識人
「でへ。でへへへー」
私の気持ち悪い声が、お城の中にある広いお風呂場に響き渡った。
おっと。自分で気持ち悪いと言ってしまった。
「相変わらず気持ち悪い笑い声をあげるのう」
私に向かい、ストレートにそんな事を言ってくるセカイは、全裸である。相変わらずのキレイな肌に、凹凸のない幼い身体。それなのに妙な色気を感じるセカイは眼福だ。笑わずにはいられない。
セカイの全裸は、天使のようだと思う。それくらいに神々しく、美しい。
「はい、髪の毛洗い終わったよ。次は背中流してあげる」
「自分で出来るぞ」
「そう言わずに」
セカイの長い髪の毛を洗い終わった私は、セカイの髪の毛を結んで頭の上で纏めてあげてから、セカイの背中に石鹸で泡立てたタオルを押し当てた。
ごしごしと、軽くこするようにして洗ってあげると、セカイは気持ちよさそうに息をもらしてその身を任せてくれる。こうなったらもう私のモノだ。どさくさにまぎれてその肌に触れたり、バレないように舐めたりしながら汚れを落としてあげる。
「は、はは、ハルカさん?一体何をしているんですか?」
そんな私の変態的行動を、カゲヨに目撃されてしまった。
おっと。自分で変態的と言ってしまった。
「ふふ。セカイの肌が美味しそうだったから、つい」
「つ、ついじゃありませんよ!美味しそうだからと言って、舐めたりしたらいけません!」
顔を真っ赤にし、初心な反応を見せるカゲヨが面白い。
そのカゲヨも、この浴場という場では素っ裸だ。私が洗ってあげると言ったんだけど断り、自分で髪の毛を洗って今は身体を洗っている。
セカイのように凹凸のない身体。でもセカイよりは膨らみがあり、その身体は女の子として成長しようとしている最中。こちらもセカイに負けず劣らず、美しい。舐めたい。
「じゅる」
「ひっ」
カゲヨの身体を見ながら舌なめずりしたら、カゲヨが小さく悲鳴をもらした。そして私から距離をとるようにして離れてしまう。
「なんじゃハル。ワシの身体を舐めたのか?舐めても栄養はとれんぞ?」
「分かってるよ。ちょっと舐めたくなって、やっちゃっただけ。ごめんね?」
「謝る必要はない。舐めるくらい、いつでも好きにすれば良い」
「いいんですか!?」
「何を驚いているのじゃ、カゲヨは」
「なんだろうね。不思議だね」
正直、舐めて良いと言われたのは驚きだった。セカイの感覚が分からない。でも良いと言ってるなら、それで良いじゃない。
セカイの気が変わらないよう、私はカゲヨが少数派になるようにセカイに便乗した。
「……ハルカさんってやっぱり、そっちの人だったんですね」
「いやいや、そんな警戒しないでよ。何にもしないからさ」
「否定しないんですか!?」
「ま、まぁまぁ。うん。ね?」
そっちの人と言われても、どっちの人なのか分からない。
いや、分かるよ。でも私は自称常識人の臆病者であり、それを認めてしまったらセカイやカゲヨが私を見る目が変わってしまうかもしれない。だから私は知らないふりをしてはぐらかし、とぼける事にした。
でもそこからは、カゲヨの警戒具合が酷かった。それまでも恥ずかしがってはいたけど、更に私から身体を腕で隠すようになり、距離もとられる。それはそれでエロい。
でも逃げたりはしないのでそこは救いだ。もしこれで逃げられでもしなたら、さすがに傷つく。それにこれからもカゲヨの肌も拝めなくなってしまう。それはマズイよ。私は女の子の肌色成分を養分に生きているんだからね。
「はぁー……気持ちいいねー」
大きな湯船にセカイと並んで肩まで浸かり、頭の上にタオルを置いて私は呟いた。
湯船は、大勢の人が一斉に入る事ができるくらいの大きさがある。前の世界ではよくあった公衆浴場のように広く、でも飾ってある彫刻は一流だ。ドラゴンの彫刻が口からお湯を吐いていたり、足元に敷かれている石畳は全く粗がなくて素足で踏んでもつるつるしている。ここが女風呂という事を示しているのか、はたまた作った人の趣味なのか、浴場の真ん中では裸婦像がポーズを決めて立っている。
「そうじゃのう……」
セカイも隣で呟いた。
セカイの口調的に、なんだか妙に年寄り臭くて面白い。
「これは……そうですねー……」
少し離れて、カゲヨも気持ちよさそうにしている。
3人そろって、なんともだらしない、気が抜けた声だ。でも気持ちが良いから仕方がない。お湯は大体、40度よりちょっと熱いくらいかな。ドラゴンの口から吐かれているお湯が、湯船のお湯を常に熱々状態にたまっているのであんまり長く入ってたらのぼせてしまいそう。
「それで、交渉の方はどうだったのじゃ、カゲヨ」
「皆さんに言った通りですよ。なんとかうまくいきそうです」
「でも、ケイジが何か気にしてなかった?」
「そうなんですよね……。ケイジさんは一体何を懸念しているんでしょうか」
「奴は、ワシらよりもこの国の事を知っている。じゃから、ワシらが気づけぬ何かがあるのかもしれんな。留意しておくべきじゃろう」
「はい。そうですね。……それにしても」
と、カゲヨが私の方をまじまじと見つめて来た。私の顔ではない。私の身体が目当てである。
さすがにそこまで凝視されると、お湯に浸かっているとはいえ恥ずかしい。私は腕で自分の身体を隠した。
「ちっ、違いますからね!私はそういうのじゃありませんからね!」
「落ち着かぬか。一体どうした。まさか、ハルの身体が美しくて惚れたのか?」
「だから違いますって言ったじゃないですか!……ただ、ハルカさんの身体がキレイだなって思っただけです」
「それで、惚れちゃったと」
「違います。惚れてはないです」
カゲヨはそう言うと、視線をさげて自分の身体をみつめた。そして再び私の身体を見つめて来る。
「ハルカさん、スタイルが良いじゃないですか。ちょっとだけ、羨ましくて……」
確かに私は、スタイルがとても良い。それは嫌味とかではなくて、事実としてそうなのだ。
「自身の身体の成長具合が不満か?」
「……ちょっと前までは、別にいいかなって思っていました。私は母親似で、母が小柄なのであまり成長は見込めません。でも最近は時々、不満に思ってしまうんです。もし私がハルカさんのようにスタイルが良ければ、ケイジさんは喜んでくれるでしょうか」
「……」
「……」
「な、何で黙るんですか!」
「カゲヨって、ホントにケイジの事が好きなんだなって思って」
「そうじゃな。愛しているからこそ、相手の趣味嗜好が気になると言う事か。若いのう」
この中で、見た目的に一番若いセカイに言われてもちょっと困る。でもセカイの言う通り、本当に若い。
「や、やっぱり今のナシです!忘れてください!」
自分の言っている事が恥ずかしくなったのか、カゲヨが慌ててそう言いだして水面に顔の半分を沈めてしまった。よく見えないけど、その顔は今まで見たことないくらい真っ赤になっている。
「んー……カゲヨは今のままで良いんだよ。相手の趣味に合わせる事も大切かもしれないけど、今のありのままの自分を受け入れてくれる人が、一番自分を愛してくれると思う。カゲヨだって、今のままのケイジが好きなんでしょう?変わって欲しいなんて、思わないよね」
「……」
カゲヨは小さく頷いて、水面から顔を出した。
私は偉そうに言えるような立場ではないけど、本当にそう思うよ。好きな人が自分に合わせて変わろうとしてくれるのは嬉しいけど、実際にそんな事はしなくていい。気持ちだけで充分だ。
「──そろそろ出よう。カゲヨが茹で上がってしまいそうじゃ」
セカイの言う通りだ。お湯のせいか、恥ずかしいせいか、赤すぎてこれ以上はカゲヨの身が危ないと思う。
楽しいお風呂の時間はここまでだ。私達はお風呂をあがり、部屋へと戻る事にした。
お風呂をあがった直後の、湯だった姿はこれはこれで色っぽい。お風呂って、入ってる時は全裸で肌色だし、あがってからも私を楽しませてくれる、本当に素敵な物だと思う。




