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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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裏切り者


 王国の首都、リエフ・アース。私達が目的地として定めていた場所で、タチバナ君やレイコに、クルミ等のクラスメイト達がいる場所だ。

 近づくと、改めてその大きさが分かる。町をぐるっと囲む大きな壁は、まるでそびえたつビルだ。10階相当くらい?絶対に越えられなそう。

 超える必要もないんだけども。


「……ねぇ。門に人がいっぱい並んでるけど、何だろう」


 壁の中に入るためには、これまた大きな門をくぐる必要がある。私達が向かう先にある門は今は解放されていて、そこから中に入る事ができる。

 でもそこには大勢の兵隊さんがいて木のバリケードを作っており、彼らに許可を得なければ中に入る事ができないようだ。

 門に向かって大勢の人の列が出来ていて、順番に兵隊さんと話し、中に通される人やとぼとぼと来た道を帰っていく人がいる。


「難民だ。住んでいた場所を盗賊や魔獣に襲われ、比較的安全なこの場所に逃げ延びて来たんだろう。あっちに、町に入れなかった人間で作られたキャンプがある」


 私の疑問に答えたのは、ケイジだ。

 せっかく立派な町があるというのに、外に並んでいる簡素なテントはなんだろうと思っていたんだけど、その疑問も同時に解消された。


「あまり、良い状況ではありませんね。大半の人は中に通されている様子がありません。通されているのは、商人や外に出かけていた町の住人と言った所でしょうか。住居を求めている人は、皆入るのを断られてキャンプに加わるか、来た道を帰るかのどちらかです」

「怪我人まで断られてるようだな。オレ達がこの世界にきたての時は、もう少しマシな状況だったんだが……悪化してるな」

「恐らく魔族や魔獣の活動が影響しているんじゃないでしょうか。住む場所を奪われ、住む場所を求めてやってきた先でも断られる。一部は仕方なく難民となり、一部は盗賊として生活を始めてしまう。帝国も近いうちに、こうなるかもしれません」


 カゲヨが悲しそうに呟き、その悲しい展望に私達までどんよりとした空気に包まれてしまった。

 でもそうならないようにやって来たのが、カゲヨ達だ。


「……行くぞ」


 ケイジがそう声をかけて、私達一団は再び進みだした。

 門に向かって並んでいる人々の横を通り抜けると、皆が皆で驚いた表情を浮かべて凝視して来る。

 私とセカイを除く皆は、帝国の兵士の格好をしているからね。どうして帝国の兵士がこんな所にいるのかと、静かではないヒソヒソ話が聞こえて来るのは居心地が悪い。

 やがて門が近づいてくると、さすがに門を守っている兵士が私達一団に気が付いた。その中の何名かが慌ててこちらに駆け寄って来て、先頭を進むケイジの前で止まる。


「て、帝国からの使者と見受ける!」

「ああ、そうだ!オレ達は帝国からやって来た!」

「お話は聞いています。どうぞ、こちらへ」

「文書を確認しなくてもいいのか?」

「……いりません。勇者オオイソ ケイジが王国を裏切り、帝国に行ったと言う噂はこのリエフ・アースでは周知の事実ですから」

「へへっ」


 つまり、帝国に行ったはずのケイジがやってきたら、その一団は帝国の人間達に他ならないという事か。簡単に言えば、顔パスだね。

 でもね、ケイジ。今のは笑う場面じゃない。だってそれって、この町でケイジが裏切り者として有名だって事だよね。憂うべき事態だよ。


「ここに、タチバナ君達がいるんだよね。クルミや、レイコも」

「おう」

「お願いですから、またタチバナさんを見つけた途端に襲い掛かるのは止めてくださいね。次そんな事したら、私本当に怒りますから」

「わ、分かってるって。あの時は頭に血が上っただけだ。……でもよ、今もアイツの気配が門の向こうから漂ってきてて、すげぇイライラする。やっちまいてぇ」

「ケイジさん?」

「だから、分かってるって。やんねぇよ。我慢する」


 怖い顔をして門の向こうを睨みつけたケイジに対し、カゲヨが笑顔で名を呼ぶとケイジは慌てて気持ちの悪いスマイルを作った。カゲヨに嫌われたくないと言う、ケイジの意思が見て取れる。


「お主、あの男の所在地が分かるのか?」


 そんなケイジに対し、セカイが質問を投げかけた。


「シュースケの事か?近くに来たりすると、大まかには分かるぜ」

「他の者の気配も分かったりはせんのか?」

「気配には全体的に敏感になったが、シュースケ程ハッキリはしねぇ。アイツの気配は、特殊だ。気持ち悪くてむかついてぶっ殺してぇ」

「勇者の力を持つ人の特殊能力なんでしょうか。どうせなら、愛する人の気配でも感じ取れればいいのに、何故よりによって嫌っている人の気配が感じ取れるようになってしまうんですか」

「知らねぇよ。どうせならオレだって……い、いや何でもねぇ」


 そういえば、タチバナ君も気配に敏感になったとか言ってたっけ。確か、人の悪意に敏感になったとか。でも結局部屋に潜んでいたダルギーは見つけられなかった訳で、それがどの程度の力なのかハッキリとしない。


「ふむ。場合によっては、まだ見つかっていない者も見つけられるかもしれぬと思ったのじゃが、そう上手くはいかなそうじゃのう」

「そ、そっか……」


 確かに、気配が分かれば見つけやすい。ケイジのタチバナ君に対してくらい敏感なら、メイだって見つける事ができる。

 でもケイジはタチバナ君に対して敏感なだけのようだし、その力はメイ探しに活かせそうにない。


「こんな所で立ち話もなんですし、続きは中でどうぞ」

「そ、そうですね、すみません。皆さん、中に入りますよ。くれぐれもお行儀良くして、失礼のないようにしてください」


 王国の兵隊さんに続き、率先して門をくぐっていくカゲヨが引率の先生のような事を言った。

 それに元気よく帝国の兵隊さんが返事をし、続いて門の中へと入っていく。私とセカイもすぐに動き出し、カゲヨに追いついてカゲヨと並走して門の中へと足を踏み入れる。

 こううして、門に並んでいる大勢の人達をよそに、その順番を抜かして私達一行は門をくぐる事となった。その際に、色んな人の視線が突き刺さる事になる。この中の何人がこの町に入る事を許されるのだろうか。

 ……心配しても、私に出来る事なんて何もない。手を差し伸べたい気持ちをぐっと堪え、私は目を瞑った。


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