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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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ぎこちない笑顔


 王都への道は、順調だ。途中でタチバナ君達とではなく、カゲヨ達帝国の人と向かう事になったのは予想外だったけど、問題と言えばそれくらい。天候にも恵まれて、私達はお喋りをしながらここまでの道を進むことが出来た。

 シキと何もないただの森の中を進むのは退屈だったけど、この道中にはセカイに加え、カゲヨという可愛い友達もいたので退屈はしない。それに広大な自然の景色は、私を飽きさせる事がなかった。加えてカゲヨの可愛い仕草とかが間近に見れて、眼福だったよ。

 やっぱり恋する乙女って、可愛いね。思わずケイジから奪い去りたくなってしまった。


「あの時は驚いたねぇ。もうダメかと思ったよ」

「ダメかと思ったのはワシじゃ。ボトトキンカの群れに囲まれ、なすすべがなかったからのう」


 今カゲヨと話していたのは、ボトトキンカに追いかけられた時の話だ。

 私とカゲヨは、道中お互いの、この世界に来てからの事を話し合って来た。冒険譚は尽きる事がなく、ついでにカゲヨの恋バナも聞いたりして盛り上がりっぱなしだ。

 馬に乗る私と、私の腕の中に納まるようにしてセカイが座り、それに並走する形でカゲヨは別の馬に乗っている。ずっと同じ、このスタイルだ。


「ボトトキンカと言えば、大きなトカゲですよね。私も見た事がありますが……とても狂暴で、凶悪な魔獣です」

「そうそう。気持ち悪いんだよ、アレ」

「じゃが、ハルが全て返り討ちにした」

「そうだねぇ。大きい割に弱くて助かったよ」

「ちょ、ちょっと待ってください。ボトトキンカは、一匹討伐するだけで相当な報酬が支払われるだけの価値がある、とても危険な魔獣です。それだけの報酬が支払われるだけあり、討伐には一流の冒険者が徒党を組んで挑む必要があります。帝国軍では、一匹に対し百名ほどの精鋭兵士で挑むようにと指針が示されている程です。それを、たった一人で倒した?大きい割に、弱かった?」

「せ、正確に言えば、一人じゃなかったかな。シキっていう……前にも話した、喋る大きな狼がいたから」


 私は驚くカゲヨに狼狽しながらも、私がマッチョな人になってしまった事を悟られぬようにシキをダシに使った。

 その時ふと、昔友達の家に行った時の事を思い出した。何人かの友達とその子の家でその子のゲームをやる事になり、凄く強いボスがいて絶対に倒せないからと言われてやってみたら、あっさりと倒せて友達みんなに若干引かれた時の事を。

 その時も、やった事のあるゲームだったからと言い訳をしたっけ。別に強いのは悪い事じゃないのに、何故か自分が異質にみられるようで嫌だったんだ。

 今もそんな感じ。


「それも信じられません。魔物が人に味方して親しくする事など、この世界の常識ではないみたいなんですよ。ハルカさんは確かに勇者としてこの世界に来た訳ではないんですよね。では貴女は一体何者なんですか」


 シキをダシに使ったのが裏目に出た。カゲヨはそちらにも興味を示し、私の力について迫ってくる。

 力に関しては、リリアさんに鍛えられたからと言った所か。シキに関してはただ偶然出会い、友達になれただけだ。何であの人と友達になれたのと聞かれたって、大抵の人は困るでしょ。


「わ、私からしてみれば、こうして帝国の兵隊さんから慕われてるカゲヨとかケイジの方が、何者なんだって感じなんだけどなぁ」

「貴女に関してはそういう次元の問題ではありません。よくよく考えれば、当たればケイジさんを真っ二つに切り裂いていたタチバナさんの剣を、平気で受け止めていたのもおかしいです。もしかして、勇者という力以外にも何かが存在するのでは?」

「確かに、ハルには得体のしれぬ何かがあるのかもしれん。ワシも時折そう考えてしまう程に、ハルは強い。じゃが、それはエルフの里で出会ったエルフに鍛えてもらったからじゃろう。ハルも努力なしに力を得た訳ではないのじゃ。シキに関しては、本当に偶然の成り行きで知り合えただけじゃから何とも言えん。ワシらが今ここで考えても始まらんし、ハルが強くて凄いという事にしておけばいいのじゃ」

「えへへ」


 セカイが私の事を、強くて凄いと褒めてくれたので照れた。


「それで済ませてもいい問題なんでしょうか。ハルカさんに関しては、鍛えてどうこうなる物ではない気が……」

「良いのじゃ」

「……」


 セカイがそう言い切ったので、カゲヨもそれ以上は言えなくなってしまったようだ。

 代わりにどこか納得いかない様子で顎に手を当て、黙ってしまった。


「──見えて来たぞ、てめぇら!あそこが、ザギエフ王国王都、リエフ・アースだ!」


 丁度良く、ケイジがそう叫んで私達の注意が前方へと向いた。

 ケイジは私達一団の先頭にいる。なので、私達よりも先の光景が見えているのだ。

 声のした方向に進んで行くと、やがて茂みに囲まれていた道の視界が開けて、大きな建造物が視界に入った。


 草原のど真ん中に突如として現れた、巨大な白い壁。その壁の中に立ち並ぶ、たくさんの赤い屋根。その屋根の中心部には大きなお城が建っており、お城は周囲を囲む壁よりも遥かに大きい。まだ遠くて丘を越えた先にあるはずなのに、これだけ大きくハッキリと見えるのはあの建造物がそれだけ巨大だからだ。

 前の世界では、これくらいの規模の建物いくらでもあった。ただ、今目の前で私の視界に入って来た建物程の芸術性はないと言い切れる。


「……」

「オレも、初めて見た時は圧倒された」


 ケイジ達勇者と呼ばれる人たちは、あそこに呼び出された。だから既に見慣れているのだろう。

 ケイジは大して感動した様子もなく、むしろ眉間にシワを寄せて怒りの表情を隠さずに見つめている。


「だがあそこにいるのは、オレ達をこの世界に呼びつけた国王のクソジジイだ!あいつはオレ達を、道具としか見てねぇ最悪のクソ野郎だ!シュースケに続いてぶっ殺してぇ!」

「ケイジさん。恨む気持ちは分からなくもないですが、落ち着いてください。ここからは礼儀正しく、です」

「ああ、分かってる。……任せておいてくださいよぉ」

「うわぁ……」


 ぎこちなく笑いながらカゲヨに答えるケイジに、私は思わず声を出して引かされた。

 だって、気持ち悪いんだもん。笑顔が。あと、敬語も振り絞るようにして出てきたせいで、後半がかすれて聞き取りにくい。


「良いですね。その調子で行きましょう」

「良いのか……?」

「良いんです。ここまで来るのに、苦労しました」


 引きながら尋ねたセカイに対し、カゲヨは満足げだ。このぎこちない笑顔と敬語に、一体どれだけ苦労したというのだろう。カゲヨの遠い目を見て、それを聞く勇気が私にはなかった。


「では、行きましょう。帝国と王国の友好の架け橋に、私達がなるんです。皆さん、気合をいれてください」


 カゲヨの言葉に、帝国の兵隊さん達が元気よく返事をして答えた。

 でもこの中で一番緊張しているのは、間違いなくカゲヨである。その手と身体は震えているし、表情は硬くなっている。

 改めてこれからあそこでカゲヨがする事を考えれば、緊張して当たり前だ。カゲヨが成功するかどうかで、帝国と王国という国のこれからの関係が決まるんだから。失敗すれば、もしかしたら人の命が失われるかもしれない。

 あまりにも重い荷物を乗せている、そんなカゲヨの肩に、さりげなく手を置いてから進みだしたのがケイジだ。それにより、カゲヨが拳を作って気合を入れる仕草を見せる。少しだけ、緊張が解れたようだ。

 いや、本当。この2人見てて微笑ましい。お似合いだと思うよ。


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