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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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陰で見ていた少女


「わっ、と。少し揺れるけど、楽しいね、セカイ!」

「そうじゃな。ハルは元々、動物によく好かれる。この馬もハルの事が好きなのじゃろう」


 そう言って、セカイは私達が乗らせてもらっている馬の頭を、軽く撫でた。

 現在私とセカイは、馬に乗っている。馬に乗った事なんてなかったけど、こうして乗ってみると案外簡単である。エルフの里を出る時は断ったけど、今回はコミネさんがしっかり教えてくれると力説してきたので、思い切って乗ってみる事にしたんだ。

 手綱を行って欲しい方向に体重移動をしたり引っ張ったりして、馬に身を預けるだけなのでコレは楽ちんだ。乗らず嫌いしないで、エルフの里を出る時も嫌がらず教えてもらえばよかった。

 まぁあの時は、シキがいたので結果的にそれで良かったのかもだけど。


「上手ですね、シキシマさん。私なんて、この世界に来て初めて馬に乗った時はパニックでしたよ。それはもう、大パニックでした……」


 並走して馬に乗っているコミネさんが、どこか遠い場所を見る目をしてしみじみと呟いた。

 一体何があったのだろうか。今はちゃんと乗れているので、その時の出来事を想像するのは難しい。


「そ、そうなんだ……でも、今は凄く上手だよね。なんていうか、馬と一体化してるみたい!」

「ありがとうございます。出掛ける時は、馬に乗る機会も多かったですから。それでちゃんと乗れるようになるまで、場数を踏んだんです。……正直、シキシマさんが馬に振り落とされれば面白いなと思っていましたが、その企みは失敗です」

「あー……なんかごめんね?」

「謝る必要はないぞ、ハル。こ奴は自分と同じ目に合わせるため、ワシらに馬に乗るよう勧めたのじゃ。性格の悪い娘じゃ」

「いえ。半分くらいしか思っていないです。半分は、ちゃんと乗れたらいいなと思っていました」

「半分は思ってたんだね……」

「正直言うと、はい」


 本当に正直なコミネさんに、私は苦笑した。


「ふ……」


 釣られたのか、セカイも軽く笑った気がする。

 セカイは私の前側に座り、私がその後ろからセカイを抱きしめるような形で手綱を握っているので、顔を見る事はできない。だから、真偽は不明だ。

 でもセカイは相変わらず機嫌が良いようなので、笑っていてもおかしくないと思う。セカイの笑顔、できれば見たかったな。私はセカイの笑顔が好きだから。


「馬に乗るのも慣れてきたようじゃし、そろそろ本題に入ろうではないか。カゲヨ」


 のんびりと馬に乗れるようになってきた所で、セカイがそう切り出した。

 元々そういう約束だった。移動しながら、何故オオイソ君がタチバナ君を襲うのか。その理由を教えてくれると。

 そう言い出したオオイソ君は、『アイツの事を話してるとイライラして暴れたくなるから、カゲヨに任せる』と言って、一団の先頭の方に行ってしまった。

 ちなみにカゲヨとは、コミネさんの下の名前である。セカイとは既に自己紹介は済まし、セカイは彼女をそう呼んでいる。オオイソ君もそう呼んでるんだね。ちょっと意外だった。


「そうですね。では、まず結論から言わせてもらいます。タチバナさんは、大悪人です」

「いやいやいや」


 突然とんでもない事を言い出すコミネさんの言葉を、私は否定した。タチバナ君は、正義が人の形をしているような人間である。前の世界で一緒に過ごして来た私が保証する。彼ほど正義という言葉が似合う人間を私は知らない。


「まぁそうですよね。前の世界では、貴女を含めて貴女の周囲にいる人間全員が、彼の事を正義だと思っていました。もしこんな事を話せば、次の日私は皆から虐めを受ける事になっていたでしょう」

「そ、それは……」


 否定できない。クラスのタチバナ君に対する信頼──人気は絶対だ。そんな彼を、クラスの影だったコミネさんが愚弄したとなれば、皆から反感を買うのは必須だ。

 私は、どうしていただろう。

 ……コミネさんに失望していたかもしれない。虐めたりはしないだろうけど、距離を取ろうと考えるだろう。

 あれ。でも今はそんな事思わない。ちゃんと話を聞こうと考えている。


「どうしてそう言えるの?何か、そう言い切れるだけの理由があるんだよね?」

「はい。やっぱり、今の貴女になら話しても平気そうですね。では、私の知っている事と、ケイジさんから聞いた話をお話しします」

「う、うん」


 私が意を決して返事をすると、コミネさんが少し考える仕草を見せてから口を開く。


「前の世界でのタチバナさんは、貴女が否定した通り、悪人とは誰も言わない。思わない。優等生で、全生徒の見本。そんな人物でした。しかしそれは、作られた姿なんですよ。彼は裏で数々の悪事を働いていました。でもその悪事により、自分が表面上は良い人間に見えるように操作してきたのです」

「……どう言う事?」

「例えば、剣道の試合に出るため頑張って練習していた少女が、盗撮の被害に合った事がありましたよね。その事件は、タチバナさんの活躍によって解決されました」

「うん。覚えてる」


 その被害生徒とは、レイコの事だ。大切な友達の事で、タチバナ君が一層張り切って解決するために頑張ってくれたことを私は覚えている。


「犯人は、捕まりました。おかげで剣道少女は安心して試合に出る事ができ、その大会で大活躍でした。でもそれはタチバナさんが作ったシナリオです。捕まった犯人は同学年の生徒でしたが、彼はタチバナさんに嵌められただけで犯人ではありません。真犯人は、タチバナさんと交流のあるアケガタさんです」

「アケガタ君……?」

「そうです。彼は自分の欲望を満たしたうえで、気に入らない生徒を排除する目的でそんな事をしでかしたんです。タチバナさんもその生徒を気に入っていなかったので、協力しました。結果、その生徒は退学処分となり姿を消しました。最後まで自分はやっていないと言っていましたが、誰も彼の言う事を聞き入れる事はありませんでしたね」


 その時の犯人を、私はよく覚えていない。傷つくレイコを慰めるのに徹していて、犯人の方はタチバナ君に任せっきりだったから。元々交流のない生徒だったので、それが記憶の曖昧さに拍車をかけているのかもしれない。


「じゃあコミネさんは、二人が共謀してレイコを傷つけた上で、犯人の生徒を嵌めてレイコを救ったフリをして、自分たちがヒーローになる演出をしたって言うの?」

「はい」

「それには色々な疑問があるよ。どうしてコミネさんはそれを知っていて、誰にも言わなかったの?」

「さっき言ったじゃないですか。私がそんな事を話したら、今度は私が消されてしまいますよ。薄情と思われるかもしれませんが、私は彼を見捨てて自分の身を守る事にしたんです」

「じゃ、じゃあ、どうしてそんな事をコミネさんが知ってるの?」

「だって私、アケガタさんが更衣室にカメラを仕掛けるところを見てましたもん。偶然ですけどね。窓越しにカメラを手に更衣室に入っていくシーンを見てしまいました。私、視力が良いんですよ。それに、タチバナさんが犯人に仕立て上げられた生徒を誘導して更衣室に行かせる所も見ています。彼を犯人に仕立て上げたタチバナさんの言動も、不自然というか無理がある節が多かったです。でもそれを受け入れたのは、タチバナさんを信頼する生徒や教員全員です。誰もが彼が言うなら間違いないと思い込み、犯人にされた生徒の言い分など聞き入れなかった」

「……」

「ハッキリ言いますけど、前の世界での、あの学校のタチバナさんを取り巻く環境。アレは異常でしたよ。周りの連中も含めて全員がタチバナさんに陶酔し、まるで新興宗教を間近で見ているようで気分が悪かったです」

「タチバナ君が、宗教……?」


 そんな訳がない。私達は普通に友達をしていて、彼の人柄に惹かれていただけだ。コミネさんの言い方だと、まるで私達が洗脳されていたかのようである。でも違う。絶対に違う。

 そうだよ。だって、アケガタ君に告白された時だって、タチバナ君に邪魔だと言われた時も、私は自分の意思を示して彼らに反抗した。その結果私は殺されたり、悲惨な目に合う訳だけど……いや、ちょっと待った。コレは夢の中の話だ。現実の話ではない。

 あれ?何だか、よく分からなくなってきた。


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