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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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変わった


 私は、タチバナ君と共に行く事を拒んだ。代わりに、セカイと共に帝国とやらの人たち……つまり、オオイソ君達と王国に向かう事にした。

 セカイがそうしろと、信じろと言ったからだ。

 タチバナ君はそんな私に対して冷静に受け流し、ただ、『そうか』とだけ残して去って行ったけど……内心ではどう思われているだろう。なんだか、私とタチバナ君との友情が壊れる音がしたみたいで、ちょっとだけ怖い。


「あのやろう、次会ったらぜってぇにぶっ殺してやる……!」

「だからダメだと言ってるじゃないですか。そんな事したら皇帝陛下にしかられてしまいます。私達の主目的は、あくまで魔族への対応です。今帝国が王国と全面衝突している暇はないんですよ」

「ちっ……!」


 現在私とセカイの周囲には、黒い鎧を身にまとった騎士たちがいる。その中にはかつてのクラスメイトである2人もいて、仲が良さそうに?会話をする姿に安心感を覚える。

 タチバナ君たち一行は既にこの場から去っていき、姿を消してしまった。幸い死者やけが人は出なかったので、異なる国に所属する者同士が衝突した後の割に、空気は和やかだ。


「で、何なんだてめぇは。どうしてお前はシュースケに付いて行かず、この場に残った」

「セカイがそうしろって言うから?」

「うむ。ワシがそうしろと言ったからじゃ」

「んだ、このガキは。見た事ねぇガキだな。こいつもオレ達の世界から来たのか?」


 そう言ってセカイの前に立つオオイソ君と、セカイとの身長差が凄い。まるで親子くらいの身長差で、セカイを威圧しているように見えてしまう。


「ケイジさん。そんな事を聞く前に、言う事があるでしょう」

「言う事だ?何だよそりゃあ」

「お礼ですよ。貴方はシキシマさんに命を救われたんです」

「はぁ!?オレがいつコイツに救われたっていうんだよ!」

「先ほど、タチバナさんとの戦闘の時。最後の攻撃を食らっていたら貴方は死んでいました。もしシキシマさんが助けてくれなかったら、恐らく真っ二つでしたよ。だからお礼を」

「そんなのやってみなけりゃ分かんねぇだろうが!」

「なってましたよ。確実に」

「……マジか?」

「マジです」

「……ありがとう」


 オオイソ君はコミネさんに言い切られると、静かに私に向かって頭を下げてお礼の言葉を述べた。

 案外素直なんだねこの人。そんな姿を初めて見て、ちょっと驚いた。でもいい事だと思う。


「いえいえ、どういたしまして」

「礼と言ってはなんだが、ワシらも王都へ同行させてもらう。良いか?」

「それは構いませんが……少し驚きました。まさか貴女が、タチバナさんに付いて行かず私達に付いて来るなんて」


 それは私の選択ではなく、セカイがそうしろと言うのでそうしただけだ。セカイがそうしろと言わなければ、オオイソ君達についていくなんていう選択肢、私にはない。


「それに、シュースケと戦ったとか言ってたな。シュースケ派のお前が、何でそうなる。もしかして、気付いたのか?」

「気付いた?何に?」


 私が首をかしげて尋ねると、オオイソ君は頭をかいて黙り、誤魔化した。


「何にしても少し変わりましたね、シキシマさん。この世界に来たおかげ、でしょうか」

「……それはこっちの台詞だよ、コミネさん。前より断然逞しくなったって言うか……それに、オオイソ君と仲良さそうだし、一体何があったの?」

「色々ありましたよ。突然こんな異世界に放り出されてしまったんですから、それはもう色々とありました。貴女もそうなんでしょう?」

「うん。色々あった」

「そう言う事です」


 それは、凄く説得力のある言葉だった。私も彼女も、突然この世界に放り込まれたと言う意味では変わらない。私に色々あったように、彼女にも色々あった。それが彼女を変えた。タチバナ君も同じだ。

 いや、でもオオイソ君はあんまり変わってない気がする。まだあまり話してないけど、ほとんど前のままである。


「確かに、ハルは変わった。前ならワシではなく、あの男に加担してワシを責めたじゃろう。しかし違った。お主はワシを庇い、あやつと剣を交えた。それは、前の世界ではなかった道筋じゃ。お主は、変わったのじゃ」


 確かに、悩んだよ。タチバナ君に突然襲い掛かったセカイを、私は一瞬だけだけど、見過ごそうとした。

 でもそれはどう考えても間違っている。セカイは、私の大切な友達だ。そんな子が意味もなく私の友達に襲い掛かる訳がない。そんなの分かり切っている事で、まずはその理由を聞くために私はセカイを助けた。オオイソ君もそう。


「何があったのかは知らねぇが、そうだろうな。お前はあの男の選択を信じて疑わない。そんな人間だった。それなのにオレも庇った。確実に、お前は変わったよ」


 全員から変わったと言われ、私は若干居心地が悪くなった。恥ずかしいと言うか、何というか……自分ではあまり変わったと言う実感がないので、それが尚更くすぐったく感じさせる。


「でも、どうしてセカイはタチバナ君を殺そうとしたの?ついでに、オオイソ君も。どうしてタチバナ君を目の敵にしてるの?」

「……」


 オオイソ君は、目を丸くして驚いた顔をして私を見て来る。


「なに?」

「いや……本当に変わったんだな、お前。今のお前になら、教えても良いかもしれねぇな。オレがシュースケにつっかかる理由を」

「私も賛成です。今の彼女なら、冷静に考えて判断してくれるでしょう。でもその話は、出発して進みながらにしましょうか。さすがにその話をするためだけに部隊をこの場に留まらせるのは、少しもったいないですから」

「出発するぞてめぇらぁ!準備しろ!」


 コミネさんが出発を示唆すると、すぐにオオイソ君が周囲の帝国兵に向かって指示を飛ばした。

 この2人も、凄いと思う。国は違うけどタチバナ君のように部下がいて、指示に通りに動いてくれる兵士がいる。ちょっと前まで、ただの高校生だったのに。

 それと比べて私はどうだろう。大きな狼と触れ合ったり、幼女と遊んだり、セカイと雨のシャワーを浴びたり……ただのうのうと過ごして来ただけな気がしてきた。でも気がするだけである。私だって、この世界でそれなりの経験をしてきたんだから。

 と、どうしても周りと比べてしまうのは、劣等感を覚えているからだろうか。


「安心するが良い。ハルは、成長している。ワシが保証するぞ」

「あ、ありがとう」


 オオイソ君とコミネさんの事を、そんな事を想いながら眺めていたら、セカイが褒めて来てくれた。

 まるで、心を読まれたようである。嬉しいけど、内容が内容なだけにちょっと恥ずかしい。

 でも、私の目にはセカイがなんだか上機嫌に見えて嬉しいよ。ここの所ずっと何か思い詰めたような感じだったから、元に戻ってくれて本当に良かった。


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