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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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いつもと違う結末


 タチバナ君を狙った斧は、オオイソ君の物だった。つまり彼は、タチバナ君を殺そうとしたと言う事である。

 クラスメイトで、同じ境遇にあるはずの彼を殺そうとするとか、普通ではない。こんな極限状態でいつも通りどころかそれ以上の彼に対して、クラスメイトとの再会という感動を吹き飛ばし、私は怒りを覚えた。


「帝国に行ったお前が、帝国の兵士を連れて王国の領地で、オレの命を狙った。それはつまり、そういう事だな?」

「へへ……」


 タチバナ君の問いかけに、オオイソ君は笑って応じた。

 オオイソ君は、タチバナ君と戦いに来た。それはかつての遊びによる戦いではない。本気の、命を懸けた戦いだ。


「……分かったぞ。妙なタイミングだとは思っていたんだ。全ては、オレを殺すための罠だったという訳だな。シキシマ!」

「はい?」


 タチバナ君に言われて、私は首を傾げた。

 いや確かにタチバナ君の命をセカイが狙って失敗し、次の瞬間にオオイソ君の襲撃があったとなると、両者示し合わせたみたいで疑われても仕方がないのかもしれない。


「あ?シキシマ?てめぇ、生きてたのか。さすがにしぶといなぁ」

「ま、運だけはある方だと思ってるからねー」


 私の存在にようやく気付いたオオイソ君が、軽く褒めてくれたので私もそれに応じる。

 本当は、運が良かったのではない。セカイがいてくれたおかげで、私は生きてこれたのだ。でもそれを彼にいちいち教えてあげる程、私はお人よしではない。


「下手な演技は止せ!お前たちは、あらかじめ示し合わせてオレを襲撃したのだろう!?全て分かったぞ!」

「何言ってやがる。オレとシキシマは、この世界に来て初めて会った所だ。襲撃?知らねぇよ。それよりお前、シキシマに襲われたのか?」

「正確に言えば違うが……同じようなものだ」

「どこが!?」

「同じだろう!オレの命を奪おうとした人物を庇い、戦闘になったからな!」


 それには異議がありすぎる。私は別に、タチバナ君を殺そうとなんてしていない。ただセカイを守っただけで、話し合おうとしていた所だ。そこに余計なのが来て、勝手に勘違いしてややこしくなっているだけである。


「ははは!面白れぇ事になってんじゃねぇか!でも言っておくが、オレとシキシマは関係ねぇ!オレはただ、おめぇをぶっ殺しに来ただけだからなぁ!」

「……オレに勝つつもりか?ケイジ」

「勝つ!それでお前のクソみたいな性格を叩きなおしてやる!覚悟しやがれ!」

「よせよ、ケイジ。お前には無理だ。お前に、オレは倒せない。また前のように大切な物を失う事になるぞ?」

「うるせええぇぇ!」


 タチバナ君の挑発するような言葉が、合図となった。オオイソ君が大きな斧を片手に、タチバナ君に襲い掛かる。

 タチバナ君もそれに応じるため、剣を抜いて構える。そして襲い来るオオイソ君の大きな斧を華麗に避けると、オオイソ君の背後に回り込んだ。オオイソ君の動きは遅い。背後をとるのが楽な相手だ。


「へへ」


 背後を取られたと言うのに、オオイソ君が笑った。そしてタチバナ君の剣が彼を襲う。タチバナ君は、本気だ。本気でオオイソ君を殺すつもりでその一撃を放った。

 でもその剣がオオイソ君に傷をつけることはなかった。

 オオイソ君の身体が、赤い光に包まれる。何か、魔法のような物が発動したかのように鎧も含めて光り輝くオオイソ君は、ちょっと気持ちが悪い。

 そこに襲い掛かったタチバナ君の剣は、弾かれた。鎧にというより、あの赤い光に弾かれたんだと思う。


「どうやら、硬化の力を磨いているみたいだな」

「もうオレにてめぇの剣は通用しない、ぜ!」


 オオイソ君が振り向き際に、背後にいるタチバナ君に向かって斧を振りぬいた。

 大きな斧が勢いよく振りぬかれると、ぶぉんと大きな音が起きる。でもその斧は、空をきった。そこにいたタチバナ君は、幻影だ。本物はとっくに彼と距離をとった場所にいる。


「……硬さと力だけは、相変わらず強いみたいだ。でもそれだけだ。敵として戻って来たお前に、オレはもう容赦をしない。覚悟しろよ」

「上等だぁ!元からてめぇに容赦される筋合いなんてねぇ!」


 目の前で繰り広げられる、クラスメイト2人の戦闘。それは、かつての世界で私が目にして来た物とは違う。本当の殺し合いであり、互いに互いの命を狙っている。

 前の世界では、結局いつもオオイソ君が負ける事になり、クラスメイト達にあざ笑われる事になる。

 タチバナに勝てるわけがない。アイツはいつもタチバナに勝負をいどんで、そして負ける。バカな奴だ。何で勝負を挑むんだ?雑魚なのに。

 オオイソ君にかけられる声は、そんな物ばかり。私も、そんな風に思って見ていたと思う。

 前なら傍観した。男同士の決闘に、女がでしゃばるのはどうかと思うから。それにどうせタチバナ君が勝つんだし、私が出る幕もない。

 でもこの世界じゃそういう訳にもいかないだろう。負けた方が、死んでしまうんだ。


「おらぁ!死ねや、シュースケ!」

「……」


 タチバナ君に向かい、オオイソ君が大きく振りかぶった斧を彼の頭上に向かって落とす。すると、大きく地面が揺れた。

 当然のようにその斧はタチバナ君を捉える事はなく、空ぶって地面に直撃したのだ。威力は、本当に大したものだと思う。地面が割れて、土が隆起して大きな衝撃波まで巻き起こしたんだから、彼はもう普通の人間の力を遥かに超えている。


「──本当に、大した威力だ。が、ここまでだケイジ」

「ああ?」


 タチバナ君は、空中にいた。大きく跳躍し、空からオオイソ君を見下ろしている。


「幻影の処断<ファントムエクゼキューション>!」


 オオイソ君に向かって、タチバナ君が剣を振りぬいた。その瞬間、剣から斬撃が放たれる。その斬撃は神々しく輝く剣の形をしていて、それがオオイソ君に向かって降り注ぐ。しかも、大きい。先ほど私に向かって放って来た力を籠めた一撃の、巨大版といった感じだ。

 オオイソ君は、そんな一撃に備えて斧と身体に赤い光を纏わせる。

 でも、ダメだ。その攻撃を受けたら彼は死んでしまう。そうなる未来を、私は見た。

 それを見た上でも、このまま傍観すべきかどうか、私は悩んだ。先に喧嘩を売って来たのはオオイソ君の方だし、タチバナ君はただ正当防衛で彼を倒すだけ。それは仕方のない未来とも思える。


 タチバナ君に喧嘩を売ったんだから、仕方がない。結局いつも、タチバナ君が正しいんだから。だから、このまま見送ろう。目で見た彼の死が、現実になるその時まで私は目を閉じる。それでいつも通り、オオイソ君をあざ笑う声が聞こえてくるはず。


「──ハル」


 セカイが、私の名を呼んだ。そして我に返った。

 セカイがしようとした事と、オオイソ君がしている事に差異はない。突然タチバナ君を襲い、返り討ちに合おうとしている。私はまだ、オオイソ君が何故タチバナ君につっかかるのか、その理由を知らない。セカイは助けて、同じことをしようとするオオイソ君は理由も聞かずに見捨てるなんて、出来る訳がない。

 だから私はその場にセカイを置いて駆け出し、オオイソ君の前に立ちはだかった。そして杖を、向かい来るタチバナ君の斬撃に向かって振りぬく。


「はあぁぁ!」


 一瞬せめぎあったけど、意外とあっさりとタチバナ君の斬撃は砕け散った。大きいから、正直凄い力なのかと思ってたんだけどね。でも未来視の魔眼でもこうなる事は分かっていたし、ちょっと呆気なかった。


「……何故だ。何故邪魔をする、シキシマ!一度ならず、二度までも!このオレの命を狙う敵を庇い、お前は一体何がしたいんだ!?」


 地面に着地したタチバナ君が、開口一番私に向かって文句を言ってくる。


「だ、だから、一旦落ち着いてよ。襲われたからって、返り討ちにして殺すとかどうかしてるよ。まずは話し合って、それからでしょう?」

「ケイジは敵だ!帝国の人間が王国にいて、オレに襲い掛かって来た時点で明確な敵なんだよ!殺して何が悪いんだ!」

「──ちょっと待ってください!」


 険悪な現場に響いた、女の子の慌てた声。その声の主を見て、私は驚いた。


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