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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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対照的な色


 夢の中のタチバナ君は、とても強かった。力強く、私ではなとてもではないけど太刀打ちのできない存在だ。

 でも今の現実はどうだろう。

 私が彼からセカイを奪い取ると、彼は私に攻撃を仕掛けて来た。確かに、普通の人間のスピードではない。力も強い。普通の人間なら、太刀打ちできないだろう。

 でも、弱かった。


「くっ!この……!」


 セカイを片手に抱いたまま、もう片方の手でもった杖で、剣を手に斬りかかってくるタチバナ君の攻撃を私はいとも簡単に防いで見せている。


「はああぁぁ!」


 タチバナ君が一際力を剣に籠めると、剣に白い光が宿った。何かの魔法がかかったのかもしれない。タチバナ君の剣が大きく見え、そんなので切られたら私の身体は真っ二つどころか、跡形も残らないだろう。

 それでも魔眼で先回りして見た未来で、タチバナ君の剣が繰り出される軌道上に杖を構えると、そこに剣が当たって止まった。衝撃波がおこって周囲に砂埃が舞い、僅かに杖が揺れる。でもその程度だった。本来なら避けてもいいくらい遅い攻撃だったけど、避けるまでもない。

 でも勇者の力がどうのこうの言っていた彼は、きっとまだ本気ではない。もしかしたら私を殺さないために手加減しているのだろうか。


「……どうして、なんだ。何故、オレの攻撃が効かない」


 次の攻撃に備えていた私に向かい、タチバナ君が膝から地面に崩れ落ちてそう尋ねて来た。

 まるでハトが豆鉄砲でも喰らったかのような顔で、驚きが隠せていない。その表情からは、もう夢の中で見たような敵対心は感じられなくなっていた。


「て、手加減してくれてるんだよね?なら、冷静に話を聞いて。私はただ、セカイを傷つけられたくないだけなの」

「ひっ。ち、近づくなぁ!」


 私はただ普通にタチバナ君に話しかけただけなのに、タチバナ君は腰を抜かしたまま地面を引き下がり、私から距離をとろうとする。

 彼は、私を恐れていた。まるで得体のしれない化け物を前にしているかのように、私を怖がっているのだ。訳が分からず、私は呆然としてしまう。


「……ハル。お主、何故ワシを庇ったのじゃ?」


 呆然とする私に、同じく呆然とセカイがそう尋ねて来た。


「何故って……セカイが傷つけられようとしてるのを、ただ黙ってみているなんて事できないでしょ」

「しかしワシは、お主の友を傷つけようと……殺めようとしたのじゃぞ。その男の言葉に乗っかる訳ではないが、罰せられるべきだとは思わんのか……?」

「セカイは、理由もなくそんな事をしない」

「その理由が、お主にとって悪い物だとは考えんかったのか?」

「考えられない。だってセカイは、いつだって私を心配して、私と一緒にいてくれたから。そんなセカイを、私は信じてるんだよ。いや、勿論いきなりタチバナ君を殺そうとしたとかは酷い話だとは思うけどね?だからまず、そんな事をしようとする理由を教えてよ」

「……ワシが、憎くないのか?ワシを、信じるのか?この男ではなく、ワシを?」

「うん。憎くないし、信じてるよ」


 当然のように言ったら、セカイの瞳から涙が溢れ出した。その涙は太陽の光に反射し、とてもキレイで宝石のように輝いて見える。


「な、なんで泣くの?どこか痛いの?さっき、髪の毛を乱暴に引っ張られたから?だ、大丈夫?」

「ワシが、泣いている?確かにそうじゃ。コレは涙じゃ。涙を流すのは、悲しい時だけかと思っていたが……こんな気持ちの時にも出てくるのじゃな。驚いた」


 泣いているというのに、セカイは冷静にその涙を分析しながら柔らかく笑って見せた。

 どうやら、痛くて泣いているのではないらしい。すぐに泣き止んで着れたし、安心した。


「し、シキシマ。お前は、オレの友達だろう?なら、その子を殺せ。勇者であるオレを殺そうとするなんて、その子は絶対におかしい。絶対なる敵だ」

「だから、ちょっと待ってよ。セカイは意味もなくそんな事をするような子じゃない。ちゃんと理由を──」


 まだ発動させていた魔眼に、おかしな物が映り込んだ。それはどこからともなく飛んできて、地面に這いつくばっているタチバナ君に突き刺さろうとしている。

 その物体の威力はすさまじく、タチバナ君に突き刺さった後に彼もろとも周辺を吹き飛ばすような威力だ。

 私は咄嗟にセカイを抱き締めて、その衝撃に備えた。


「ハル?一体どうしたのじゃ?」

「い、いいぞシキシマ!そのままその子の首を絞めて殺せ!」


 不思議そうにするセカイと、勘違いして歓喜するタチバナ君。本来なら、爆心地となるタチバナ君を庇うべきなんだと思う。でも彼は大丈夫そうなので放っておき、私はセカイを優先した。


「っ!」


 そうしていると、それが空から降って来た。大きな斧。クルクルと回りながら風を切って音を出し、タチバナ君に向かって一直線。直撃。巻き起こった爆発と、衝撃波。土煙が高く舞い、傍にいた私達も巻き込まれる。でも私達は平気。土煙に巻き込まれただけで、問題はない。

 一方で爆心地にいるタチバナ君はどうだろう。普通なら、これだけの衝撃の中心にいたら身体が吹き飛んでいる。でも大丈夫なのだ。爆心地にいた彼は、偽物──。先ほどセカイとの戦いでも見たけど、どうやら彼は自分の幻影を作り出せるらしい。地面を這いつくばっていたのも、その幻影だ。私がセカイと話している隙に、何故か入れ替わっていたんだよね。ちなみに本体はすぐ傍にいる。


「──て、敵襲!帝国の鎧を着た一団が、我々を包囲しています!」


 そこへ駆けつけた騎士が、叫んで報告した。


「何だと!?何故帝国がこんな場所にいるんだ!」


 近くのキャンプの陰に潜んでいた本物のタチバナ君がひょっこりと顔を出し、驚きの声をあげた。まさか、たった今斧で潰れたはずのタチバナ君がそんな所にいると思っていなかった騎士たちは、敵襲よりもそちらに驚いた。

 でもすぐに我に返り、武器を抜くと構えて陣形を形成する動きをみせる。よく訓練されているんだと思う。素人にできる動きじゃないなと、私はセカイを庇ったまま思った。


「──タチバナァ!」


 そこへ、大きな声が響き渡った。

 その声の主は、堂々と大股で歩きながら私達の方へ向かって歩いてきて、姿を現した。

 何だか、過去によく見た光景だ。タチバナ君の名前を大きな声で呼びながら突っかかってくる男といえば、あの人しかいない。私の想像通りで、かつてのクラスメイト──大磯 啓二君がそこにいた。

 彼が手を伸ばす仕草を見せると、先ほど飛んできてタチバナ君の幻影に直撃た大きな斧が、彼の手に向かって引き寄せられるように飛んで行った。彼はその斧を片手でキャッチ。私と同じ丈くらいの大きな斧を軽々と振り回してから、肩に乗せる。


「ケイジ……!」

「久しぶりだなぁ!会いにきてやったぜぇ」


 大柄の彼の身体を覆っている鎧は、禍々しさを感じさせるほどに黒い。それはタチバナ君と対となるような色であり、彼らの関係を表しているようだ。


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