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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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人の気配


 ダルギーの存在に気づいていると思われるタチバナ君が、突然歩き出してズカズカとお店の奥へと向かっていく。

 私は慌てて止めようとしたけど、無視されてしまった。タチバナ君はお店の奥にしか目を向けていない。そこにいる誰かを確かめようと、それしか考えていないのだ。


「この店に他に誰もいないと言うなら、今この店に第三者がいる事になる。それは強盗や盗人の可能性があり、見逃してはおけない。もし抵抗するようなら、殺す」


 タチバナ君は私達に、このお店に第三者がいる事を告げつつ、潜んでいるダルギーに向かって脅迫の言葉を送った。

 本当に、潜んでいる人の気配に気づいているんだねこの人。私と同じで、彼も気配に敏感になっているのかもしれない。でも違うんだよ。そこにいるのは強盗でもなんでもない。ダルギーなんだよ。おばさんが下手な事を言ったせいで、完全に不審者が潜んでいる感じになってしまった。


「き、気のせいじゃないの?おばさんも、他に誰もないないって言ってるし」

「いや、いる。オレは勇者となり、人間の気配に敏感になったんだ。特に、悪意のある人間に対しては敏感だ。オレを信じて、見ていろ」


 タチバナ君はそう言って、お店の奥へと行ってしまった。

 私には最早、神様に祈る事しかできない。ビクビクとしながらついていくけど、でも何事もなかった。ダルギーはそこにはいなかったのだ。

 代わりに開いた窓から風が流れ込み、お皿がカタカタと揺れている。その音を、人の気配と勘違いしたようだ。という事にしておこう。

 タイバナ君は窓から顔を出し、窓から誰かが出て行った可能性を探っているけど周囲には誰もいなかったらしく、居心地が悪そうな顔をして私の下に戻って来た。


「ふ。人間の気配に敏感になった、じゃったか?」

「……」


 その様子に、セカイが嫌味っぽく言うとタチバナ君の眉がピクリと動いた。こんな事で怒るような人じゃないけど、コレは確かに恥ずかしい。悪意のある人間に対して敏感という言葉も、その恥ずかしさを増し増ししている。

 というか本当にダルギーがいたとしても、彼には悪意がない。色々と外れすぎて、恥ずかしいよタチバナ君。


「気を取り直して、出発しよ。私、早く皆と会いたいし」

「……そうだな。分かった」


 そういうと、タチバナ君は速足でこの場を後にした。まるで、恥ずかしさを誤魔化すかのようだ。

 でも、本当はこの場に人がいるんだよ。彼は気づかなかったようだけど、私は気づいている。見上げると、そこには天井の柱にしがみつくダルギーの姿がある。

 彼は身の危険を察し、そんな所に隠れていたようだ。腕が震えていて、今にも落ちて来そうだけどあとちょっとの辛抱だ。

 と思ったけど、未来視の魔眼で彼が降ってくるのが見えた。私は慌てて杖を手にすると、杖で彼を下から支えて落ちてこないようにしてあげた。


「す、すまねぇ……助かった……」

「い、いいから。あとちょっと頑張って」


 小声で謝罪して来るダルギーに対し、私も小声で返す。タチバナ君はもうこの部屋から出て行ったけど、まだ近くにいる。大きな音をたてたら、戻ってきてしまうだろう。


「ん。おい、どうしたシキシマ。行くぞ」


 私がついてきていない事に気づいたタチバナ君が、部屋の外で私の名を呼んでいる。

 彼が戻って来てこんな状況をみられたら、ダルギーの一巻のお終いである。


「す、すぐ行く!ちょっと待ってて!」

「……どうしたんだ?」

「ハル。いきなり脱ぎだして、どうしたんじゃ?なに、服に棘が刺さっていて痛い?どこじゃ」


 タチバナ君は戻って来ようとしたみたいだけど、セカイがそう言ってタチバナ君が戻ってこれない状況を作り出してくれた。おかげでタチバナ君は戻ってくるのを諦め、先に外に出ていると言い残して去って行った。


「すまねぇ。この恩は、いつか絶対に返す……!」


 腕が限界のようなので、私は杖でダルギーを支えながら下ろしてあげた。ダルギーは半べそかきながら感謝の言葉を述べると、厨房の机の下に身を潜ませて一件落着。

 あまり期待せずに、待ってるよ。私とセカイはその場を後にし、タチバナ君のあとを追ってお店の外に出る。

 そこにはタチバナ君の仲間の騎士たちが馬に乗って待機していて、既に出発の準備が完了していた。


「世話をかけたね。また機会があったら、よっておくれ。いつでも歓迎するからさ」

「うん。元気でね、おばさん」


 小声でダルギーの事でお礼を言って来たおばさんに対し、私は元気よく返事をした。


「二人は、馬に乗れないんだったよな。この馬車に乗ってくれ」


 おばさんとの会話を終えると、私とセカイはタチバナ君が用意してくれた馬車に乗り込む事になった。その馬車は昨日傭兵さんが用意してくれた馬車とは違い、ゆったりとしたスペースがある上にイスにはクッションが敷かれ、乗り心地がとても良さそうだ。

 座ってみると、実際段違いに良かった。これなら長旅でも安心して座っていられそう。


「車と違って乗り心地が悪いかもしれないが、我慢てくれ」

「全然大丈夫。ありがとう、タチバナ君。私達のために馬車まで用意してくれて……」

「シキシマはオレにとって、特別な友達だからな。これくらいは当然だ。馬車はあまり揺らさないように気を付けろ!それから、道中で何がおこっても、この馬車を優先的に守る対象とする!いいな!」

「はい!」


 馬車の出入り口から顔を覗き込んでいたタチバナ君は、そこから顔を引っ込めると周囲の傭兵に勇ましくそう命令をした。

 と、特別な友達って……そんな事を言われると、ちょっと照れてしまう。というか、聞きようによっては愛の告白にもとらえる事ができる。でも彼には、メイという女の子がいるのでそれはない。私にその気がないのと同じように、彼にもその気がないので変にとらえる事はないから安心してほしい。


「では、出発する!」


 馬車の扉が閉められると、タチバナ君の合図によって馬車が動き出した。

 私は窓から身を乗り出すと、おばさんに向かって手を振って別れを惜しむ。おばさんも私に手を振り返してくれて、二度目となるお別れを済ました。


「……ふぅ」

「嬉しそうじゃな、ハル。そんなに友と再会するのが楽しみか?」


 手を振り終え、イスに座りなおした私にセカイがそう尋ねて来た。


「勿論!皆、やっぱり逞しくなってるのかなぁ」

「なっておるかもしれんな。じゃが、こうも考えられぬか?奴のように、平気で人を殺すような人間になっておるかもしれん、と」

「……」


 確かに、セカイの言う通り。逞しくなっていると言う事は、タチバナ君のようになっている可能性もある。

 それはちょっと、怖い。もしそうなっていたら、まるで自分だけが取り残されているようで、そんな皆と私は上手くやっていけるのだろうか。


「少し、意地悪を言ったな。大丈夫じゃ。例え何があっても、お主の友はお主の友。心配する事は何もない」

「そ、そうだよね。タチバナ君も大丈夫だったし、大丈夫だよね」


 セカイの言う通り、何も心配する事はない。

 それに私には、セカイがついてるんだから。だから大丈夫。

 自分にそう言い聞かせながら、私は不安を振り払うようにして首を振った。


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