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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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勇者様の演説


 村は、騒然としていた。

 突然やってきた立派な騎士により、傭兵さんたちは壊滅。村を守るために派遣されていた傭兵さんたちが、突然1人残らず殺されてしまったんだから、騒ぎにもなる。

 でも、そんな騎士達の行動に対し、村人たちは冷ややかだった。誰も騎士を止めようとはせず、傭兵さんたちが殺されるのを見守るだけだったのだ。誰も止めようとはせず、傍観した。

 私と同じだ。彼らに対し、同じ傍観者の私が何か言えるような立場ではない。


「──聞け、ゲディブ村の者達よ!この村に派遣されていた傭兵たちは、各地で少女を攫って人身売買を行っていた大悪人だったのだ!しかし異世界から召喚されし勇者である、このシュースケ タチバナが悪人を成敗した!もう安心して良い!」


 村に辿り着いたタチバナ君は、騒然とする村人を集めてそう演説した。

 その姿は、かつての世界で生徒の代表とし、壇上でスピーチをするかのよう。ただ、喋り方は仰々しく、こういう表現が正しいか分からないけど、まるで独裁者のようだ。


「勇者様……!あの方が、そうなのか!」

「今まで傭兵たちは、好き勝手やってたからな。やっぱりろくな奴らじゃなかったのか」

「すげぇ、この村に勇者様が来てくれるなんて!」


 しかし村人の反応は、おおよそタチバナ君を歓迎する物だった。

 タチバナ君の演説により、この村を守っていた傭兵さん達は、一瞬にして悪者となってしまったのだ。本当の事ではあるんだけど、それはそれでなんだか寂しさを感じる。


「……ふんっ」


 そんな村人の反応を前にして、エヴィさんはちょっと不服そう。よく考えれば、エヴィさんは傭兵さん達を最後まで信じようとしていた。彼らを疑いつつも、村のために働いてくれていたと評価していたから、何か想う所があるのだろう。

 中には同じように、どこか納得のいっていない様子の人もいる。でもそんな人たちの声は、勇者様を歓迎する声にかき消されてしまった。


「この村にあの傭兵どもを派遣したのは、王国だ。今更になってやっぱり奴らは悪人でしたとか、殲滅を誇る前に言う事があるんじゃないかね。そもそも皆殺しにする必要はあったのかい?いくら勇者様といえど、虐殺は感心しないよ」


 かき消された声の中でも、一際大きくタチバナ君を批判的に評する声が聞こえて来た。

 その声は、宿屋のおばさんの物だった。彼女は、タチバナ君を見守る私とセカイの隣にいて、それで声が大きく聞こえたというのもあるんだけど、でも素の声が大きい。

 周囲に流されず、大きな声で自分の意見を言うおばさんは、今の私にとって凄く大きく立派に見えてしまう。


「お姉さま。来ていたのですね」


 傍にはエヴィさんとルティアちゃんもいる。

 大きな声で話すおばさんに気づいたエヴィさんが、おばさんにそう話しかけた。


「あんたこそ、いたのかい。相変わらず気持ち悪い喋り方だね。いつもの方に戻りな」

「公衆の面前で、出来る訳ねぇだろ。私はおしとやかで優しいシスターとして通ってんだからな」

「そう、それだよ。その方がしっくり来る。狂犬だった頃のあんたが懐かしいよ」

「む、昔の話はするんじゃねぇ。大体それを言うなら姉ちゃんだって──」

「あたしは変わりないだろう」

「どこがだよ!」

「おばさんとエヴィさんって、姉妹だったの!?」


 私は2人の会話を聞き、声を上げて驚いた。

 エヴィさんがおばさんに対し、お姉さまとか、姉ちゃんと呼んだ事に対しての驚きだ。


「ん。なんだい、あんた達まだこの村にいたのかい」

「は、はい。ちょっと色々ありまして……じゃなくて、それよりエヴィさんとおばさんって姉妹なんですか!?」

「そうだよ。そんなに驚く事かい?」

「そうですよ。何かおかしい事でもありますか?」

「いや……」


 確かに、改めて見れば似ている所はある。キレイじゃない方のエヴィさんの粗暴な態度は、おばさんに近しい物を感じる。見た目としては、その背の高さが似ている。おばさんの方が全然大きいけどね。縦にも横にも。


「リゼッタおばさん。でも私、昨日傭兵さんに攫われちゃって……もう少しで帰れなくなっちゃう所だったんです。そこを、ハルカさんやセカイさんに、エヴィさんや勇者様に助けてもらったんです」


 タチバナ君に対して批判的な声をあげたおばさんに、ルティアちゃんがそう訴えかけた。

 彼女も虐殺にはショックを受けた様子を見せていたけど、それよりも助けてもらったと言う恩義が勝っている。タチバナ君に対して批判的なおばさんを、そういう理由からか庇うように言った。


「ルティアが……大丈夫だったのかい!?変な事は、されなかったかい!?」

「う、うん。大丈夫」


 おばさんは、ルティアちゃんに食いつくようにしてその無事を確認し、ほっと息を吐いた。

 どうやらおばさんも、ルティアちゃんの事をエヴィさん同様、大切に思っているようだ。エヴィさんと姉妹だからか、繋がりが深いのかもしれない。


「なら、よかった」

「──我々に対し、思う所がある方もいると思う!だが、奴らは大悪人だ!奴らに攫われた人々の事を想い、赦す事が出来なかった!この場で詳細は控えるが……本当に、惨い事をしていたのだ……!だからどうか、理解してほしい!」


 何があったかは伏せたけど、声を詰まらせながら言うタチバナ君を見て、何か事情があったのだなと私は悟った。

 同様の事を傭兵さんたちが繰り返して来たなら、助けられなかった人がいるはず。その人たちの事を想っての行動なら、虐殺にもちょっとだけ理解できてしまう。


「……ルティアを助けたっていうなら、見るところはあるね」


 おばさんも、ルティアちゃんが助けられたと聞いて考えを改めたようだ。


「……」


 でも、そんな中でセカイだけは、厳しい目つきでタチバナ君を睨みつけていた。

 その目からは、明確な敵意を感じる。タチバナ君を敵として認識し、この状況を全くよく思っていないという感じ。


「……セカイ?」

「ん。なんじゃ?」


 思わず話しかけると、セカイはいつものセカイに戻った。いつものセカイに戻ってくれたのは良いけど、あの表情は一体なんだったのだろうか。

 そう問いかけるように、私はセカイの手を握った。すると、セカイも握り返してくれる。


「大丈夫じゃ。ワシが──……」

「何?」

「何でもない。とにかくお主は、心配するな」


 セカイは言葉を途中でやめ、話を終わらせてしまった。そんな事をされると、逆に気になってしまう。

 でも……いつも通りのセカイになってくれて、私は安心した。セカイはやっぱり、優しい顔がよく似合う。できればもう、あんな怖い顔をしないでほしい。


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