報酬?
私達はタチバナ君に連れられて、一旦村に戻る事になった。戻るにあたって、来るときと同じ馬車に乗せられる。
でも馬車は狭く、4人しか乗る事ができない。馬車に乗る事になったのは、私とセカイと、エヴィさんとルティアちゃん。他の救出された少女たちは、タチバナ君の仲間の騎士が馬に乗せてあげて村へと帰る事となった。
「本当に無事で良かった。何か、変な事はされませんでしたか?」
「……うん。大丈夫だよ、エヴィさん。でも、ちょっとだけ怖かった。あのまま連れていかれたら、私どうなってたんだろう」
ルティアちゃんの無事を、ルティアちゃんを抱き締めながら喜ぶエヴィさん。その姿は優しい聖女様のようで、見惚れてしまう。
「例えどこに行っても、私が探し出します。だって貴女は私の子供ですから。命に代えても守るから、安心してください」
「……ありがとう、エヴィさん。ハルカさんと、セカイさんもありがとうございます。でもどうして、ただ道案内をしただけの私を助けに来てくださったんですか?」
「お主の母に、脅されて仕方がなく、じゃ」
「あー……ごめんない」
「どうして謝るのですか、ルティア?セカイさんも、冗談はやめてください。私はただ、普通にお願いしただけですよ。普通に、です」
アレを普通にお願いしただけというのは、少し無理がある。セカイの言う通り、脅しは入っていたと思う。
でもそんな事をしなくとも、私は協力してあげたよ。だってルティアちゃんを放っておく訳にはいかないから。
「はぁ……。ところで、今回の件について何か形のある礼はないのか?ワシらは旅人なのじゃ。働きには見合った対価をもらわなければ、旅が続けられん」
「残念ながら、私は孤児院のしがないシスターです。価値ある物を差し出す余裕があるなら、子供達にお腹いっぱい食べさせています」
「ご、ごめんなさい、セカイさん。私達、本当にお金がないんです……それなのに、昨日のおつかいのパンは全部あの人たちに食べられてしまいました……。そうだ!皆のご飯は、大丈夫でしたか!?」
「大丈夫ですよ。昨日は非常食でとっておいた、果物の干し物を皆で食べましたから」
「そうですか……ごめんなさい」
ルティアちゃんは、きっと責任感が強い子なのだろう。自分は人攫いの被害者だというのに、皆のご飯の事を心配して謝るとか、中々出来る事じゃない。
「謝る必要なんてありませんよ。ルティアが無事だった事が、何より大切なのです。皆もルティアが無事な姿を見せたら、喜んでくれるはずです。だから、気にしないでください」
「……はい」
エヴィさんに慰められ、ルティアちゃんはちょっと元気が出たようだ。
エヴィさんが、ちゃんとシスターさんをやっている事に私は若干驚いた。家事全般をルティアちゃんに押し付けているみたいな事言ってたから、少し心配だったんだよね。あと、たまに出る乱暴な姿を見て更に心配だった。でもそんな心配は杞憂も杞憂で、彼女は優しいお母さんのようだ。ルティアちゃんも、そんなエヴィさんの事を慕っている。
「──ああ、そうだ。報酬って訳じゃないが、良い事を教えてやるよ」
突然、エヴィさんが乱暴な姿を見せて喋り出した。
その変わり身、ちょっとなんとかならないかな。ビックリしたよ。
「良い事?」
「ハルカ。てめぇ、あの勇者の男とは知り合いか?」
「そ、そうです。実は私も異世界からやってきて、前の世界で彼とは友達でした」
「つー事は、てめぇも勇者だったって訳か。てめぇらの強さの謎が解けたよ。で、あの男について、てめぇらはどう思ってる?」
「どうって……優しい男の子ですよ。リーダーシップもあって、頼りになる存在です。さっき再会して、ちょっと怖くなっていたというか、逞しくはなっていましたけど……」
「あの男は、怪しい」
「怪しいって……どう言う事ですか?」
「傭兵共は、あの男が姿を現した時自分たちの勝利を確信して喜んでいた。もしかしたら奴ら、繋がってるんじゃねぇか?まぁでも、あの男が皆殺しに訳だが」
「そうですよ!タチバナ君が彼らを全員倒したのに、どこが怪しいって言うんですか!」
私は突拍子もない事を言い出したエヴィさんに対し、少しだけ声を荒げてしまった。
だって、私の友達を悪く言うんだもん。人攫いと、タチバナ君が繋がってる?バカバカしいにも程がある。タチバナ君は、悪を嫌う正義タイプの人だ。怪しむ理由がどこにもない。
「皆殺しにする事情ができたとも考えられる。いやそれよりも、人攫いの依頼主とやらの情報を私達から聞き出そうとしながら、奴は尋問して吐き出させようとするどころか、問答無用で皆殺しにした。更に、奴らの根城に火を放ってあっという間に灰にしちまった。何か、都合の悪い事を隠そうとしているようにしか見えねぇ。そして何より、あの男……私と同じ匂いがする。血にまみれた自分を隠そうと、自分を偽っている人間の臭いだ」
「タチバナ君は、エヴィさんみたいな二重人格者じゃありません!」
私は断言した。前の世界からの付き合いである彼が、二面性を持っているとは考えられない。
メイと仲が良いのはちょっとアレだけど、でも良い人だ。少なくとも、彼が怪しまれるような人間でない事を私は知っている。彼の事をよく知りもせず、変な事を言わないで欲しい。
「……セカイ。てめぇはどう思うんだよ。てめぇもハルカと同じ、異世界から来たんだろう?」
「そうじゃな。ワシは奴と特別仲が良かったという訳ではないが……」
セカイはそこで、話を区切った。
そして何か考えるような素振りを見せ、目を瞑ってため息を吐いてから話を続ける。
「お主の気のせいじゃ。奴はハルの言う通り、正義感の塊のような男。そのような人間があの連中と繋がりがある訳がなかろう」
「ほ、ほら!セカイがこう言ってるんだから、違ったでしょ?エヴィさん、気にしすぎ。そもそも、傭兵さん達が悪い人だった事を見抜けなかったエヴィさんに言われても説得力がないよ」
「ぐっ……そうですか。どうやら、本当に私の気にし過ぎのようですね。変な事をいって申し訳ございません」
エヴィさんは悔し気な表情を見せてから、キレイなエヴィさんに戻った。
変な事を言い出したエヴィさんには驚いたけど、まぁ分かってくれたみたいだから良いか。