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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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逆転からの逆転


 私の目には、襲い掛かってくる男の人達の数秒先の動きが見えている。いくらフェイントをかけようとも、いくら裏を取ろうとしても無駄である。その動きに合わせて私は動き、攻撃をかわす。


「はぁ!」


 攻撃をかわすと、次に待っているのは私の攻撃だ。杖を振りぬいて、男の人の腹部を強打。地面を擦りながら吹っ飛んで行って、彼は倒れたまま動かなくなった。

 いや、死んではないよ。手加減してるし、骨を折った感触もない。だからたぶん……大丈夫。


「この、やろおおぉぉ!」


 攻撃を繰り出すと、スキが出来る。

 別の男の人がそのスキを見逃さず、私に向かって剣を振り下ろして来た。でもその動きは、私の目に映った数秒先の未来の世界。剣筋も、動きも、何もかもが見えている私にとって、驚きもしない行動だ。


「はっ!?」

「残念でした」


 私は剣が繰り出されようとしている場所に、片手で杖を構えた。するとそこに、男の人の剣が降りかかってくる。

 剣を受け止めた私の杖は、剣の衝撃などなかったかのようにその場でビクとも動かない。私の力が、相手の彼を遥かに上回っている証拠だ。

 やっぱり私、マッチョになっちゃったんだなぁと実感し、ちょっと悲しくなる。でも見た目的には変わってないし、便利だからいいか。落ち込みそうになったけど、直後に開き直った。


「よい、しょ」

「ぐぼぉっ!?」


 私は男の人の剣を払いのけると、払いのけた勢いのままに杖の付け根の部分で男の人の腹部を払った。身体の中の空気とか、お腹の中の物が全て出てしまいそうな、そんな声を出し、男の人はその場にうずくまる。


「はああぁ!」

「っ……!」


 更に別の男の人が2人、前後から挟み込んで剣を私に向かって振りぬいて来ようとする。

 同時攻撃だけど、私は杖を手に一回転して彼らの剣を払いのけ、それからもう一回転して彼らの横っ腹に向かって杖による打撃をあたえた。


「がっ、はっ!」

「べほっ!」


 こちらは、骨が砕ける音が聞こえて来た。たぶんあばら骨が折れてしまったと思う。手加減が難しい。


「ま、魔術師なら魔法を使えよ!卑怯だぞ!」

「いや、私魔法使えないし」

「そんな格好して、杖まで持ってなんで使えないんだよ!」

「卑怯者!」


 私が杖を手に戦う姿を見て、周囲からそんな理不尽な抗議をされてしまう。

 私だって、魔法を使ってみたいよ。せっかくの異世界だし、そういう特殊能力を使って暴れたい。でも私は魔法が使えないんだよ。才能がないんだよ。セカイにそう言い切られてしまったんだから、じゃあ杖で戦うしかないじゃない。

 うるさいんだよ。したくてもできないんだよ。

 私は鬱憤を晴らすかのように、抗議をしてきた人たちに向かって杖を片手に襲い掛かる。


「さすがは、ハル。この程度の男達程度では、最早相手にならんのう」

「気を付けろ。このチビはあっちとは違って、本物の魔術師だ」

「ハルが手加減しているのが分からぬか?実力差が判断できぬ者ほど、愚かな人間はいないぞ。さっさと降伏し、この無意味な戦闘を終わりに──」

「はぁ!」


 セカイが降伏を呼び掛けている最中だというのに、1人の兵士がセカイの背後から斬りかかった。

 でもその剣はセカイに届く前に、剣の持ち主ごと空高く舞い上がると、重力に引っ張られて降って来て地面に叩きつけられた。

 突然の突風が男の足元でおこって舞い上がり、小さな竜巻のような形となって吹き飛ばしたのだ。コレもたぶん、セカイの魔法による物だ。風もおこせるんだね。


「愚かじゃな……。良いだろう。なれば、殲滅するまで」


 私は降伏してくれるならそれでいいけど、彼らにその気があるとは思えない。次々に私達に襲い掛かって来て、攻撃を仕掛けて来るんだから。それじゃあ、反撃するしかない。

 それからも戦闘は続き、しばらくしてようやく攻撃の手がやんだ。

 戦える人がいなくなったからだね。大部分は地面に倒れ、残った人たちも息も絶え絶えで、状況に絶望して士気を失っている。


「おらおら、死ねやああぁぁ!」


 彼らから士気が失われている主な要因は、エヴィさんだ。

 意識のない男の人の胸倉を掴んで倒れられないようにし、その顔面に何発ものパンチを繰り出してその顔は酷い事になっている。それでも容赦なく殴り続けるその姿は、鬼のよう。


「そ、そこまでだ!おとなしくしろ!さもないと、この子供を殺す!」


 そんな状況の中、洞窟の中から姿を現した男が、拘束された女の子を片手に抱いてその喉にナイフをつきつけ、そう叫んだ。


「エヴィさん!」

「……ルティア」


 拘束されているのは、ルティアちゃんだ。

 洞窟の外の様子を見て驚き、私達が助けに来たのだと察したようだ。自分を抱いている男の人に抵抗しようと、身体をよじるけど上手くはいかない。両手両足には、鉄の枷が嵌められたうえで喉元にはナイフだからね。下手に動かない方がいい。


「よくやった!動くなよ、てめぇら。本当にあのガキが死ぬぞ」

「……」


 私達との戦闘を続けていた傭兵のリーダー格の男がそう言って、私達に脅しをかけてきた。

 その脅しに屈したかのように、エヴィさんは殴り続けていた男の胸倉から手を離す。その男は、地面に倒れてピクリとも動かなかった。

 私とセカイも、既に戦闘をやめていたけど構えはといて、戦闘する意思がない事を示す。


「よーし、良い子だ。それでいい。そのまま手をあげろ」

「女子供相手に、人質を盾にして征服か?見上げた根性じゃねぇか」

「コレに失敗したら、オレ達の命が危ないんでね。背に腹はかえられねぇんだよ」

「命、ね。てめぇらを動かしてるやつは、相当ヤバイ奴と見た。教えてくれよ。てめぇらのボスの名前をさ」

「おとなしくしてれば、じきに分かる事だ。いいから黙って手をあげろ。ガキが死ぬぞ」

「……」


 エヴィさんは、言われた通りに両手を上げた。


「このまま拘束して、新品のまま渡したい所だが……可愛がってくれたお返しは、しないとダメだよなぁ」

「……へへ」


 リーダーの声で、男達に元気が戻った。動ける人たちは下卑た笑みを浮かべ、ジリジリとエヴィさんや私とセカイに迫ってくる。

 少し、状況が悪くなった。ルティアちゃんを人質に取られている限り、下手な抵抗をする事はできない。

 そして好き勝手やったせいで、彼らの私達に対する恨み度は高い。何も抵抗できないまま、何をされるかなんて想像もしたくない。

 まぁ何かされるのは嫌なので、ここはちょっとだけ本気を出しておこう。私は軸足を踏ん張ると、地面が抉れる勢いで地を蹴り飛ばし、一気にルティアちゃんを人質にとっている男に向かって突っ込んだ。


「──へ」


 ルティアちゃんのを抱き締めていた男の顔面に、私の杖がめりこんだ。たぶん、何がおこったか理解もできなかったんじゃないかな。それくらい無抵抗に男は杖を顔面に受け入れ、そして鼻血を噴き出して倒れた。

 ルティアちゃんは、無事だ。それまで彼女を抱いていたむさくるしい男の代わりに、私が抱きしめて身体を支える。


「大丈夫、ルティアちゃん」

「は、ハルカさん。一体何が……」

「もう大丈夫だから、安心して。さて。人質はいなくなったけど、どうする?」

「……決まってんじゃねぇか。パーティは、続行だ」

「ひ、ひぃ!」


 ついに、兵士の1人が逃げ出した。私達と一緒にこの場所にやってきた、傭兵も後に続く。


「ま、待て、てめぇら!逃げるんじゃ──……へへ。どうやら、再逆転だな」


 逃げ出した男達に慌てたリーダーだけど、逃げていく男達の方向を見て、まるで勝ったかのような笑みを浮かべた。

 はいはい、次はなんですか。私もそちらに目を向けると、そこには馬がいた。そしてその馬に乗っているのは、騎士だった。


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