捜索クエスト発生
食料の買い出しは中止。ルティアちゃんの捜索クエストが発生した。
ゲーム風に言うとそうだけど、実は一大事である。だって、年端も行かない女の子が一晩帰ってきてないんだよ。私達と別れたあの後、彼女の身に一体何がおこったのか心配だ。
「ルティアはとても真面目な子です。お使いを頼むと、寄り道もせずに真っすぐお家に帰って来て、お手伝いもよくしてくれるんです……」
「ルティアちゃん、孤児院の子だったんですね……」
「はい。幼い頃に両親が魔獣に襲われて死んでしまい、身よりもなくうちで預かる事になりました。今では他の子達の姉のような存在で、良い子に育ってくれました。そんなルティアの行方が分からなってしまい、施設の子達もとても心配しています。私も心配です。もしあの子の身に何かあったら、私は……!」
「大丈夫ですよ、シスターさん。私達も協力しますから!」
「ありがとうございますっ……!魔術師様が協力してくださるのなら、とても心強いです!」
「……ワシらは、王都に向かう途中じゃぞ」
私は協力する気満々だけど、セカイは協力を渋っている。ちょっと不満げに、私に訴えかけるようにそう言って来た。
「村を無事にでたけりゃ、黙って協力しろクソガキ。こちとら孤児院の子供が突然いなくなっちまって、心配なんだよ。分かんだろ」
「この女、危険じゃぞハル。やはり関わらん方が良い」
先ほども垣間見て気のせいだと思っていたけど、気のせいではない。
シスターはドスのきいた声でセカイを脅すように言って、協力を迫っている。
セカイの言う通り、シスターのその姿はとても危険だ。チンピラに絡まれて脅されているようである。関わらない方が良い。
「で、でも……ルティアちゃんが心配だよ。お願い、セカイ。一緒にルティアちゃんを探して」
シスターはともかく、ルティアちゃんがいなくなってしまったというのは、本当に心配だ。私が声を掛けてしまって、帰りが遅くなったのも原因かもしれない。だから、放っておく事はできない。
「……仕方がないのう。ハルがそう言うなら、共に探そう」
「ありがとう、セカイ!」
「ありがとうございます。貴女方に太陽神のご加護があらん事を願います」
シスターは元のおしとやかな女性に戻った。この人の二面性は凄いと思う。
「時に、お二人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか。共にルティアを探す仲間として、名を聞いておかなければ不便かと思いまして。ちなみに私は、エーヴィアと申します。エヴィとお呼びください」
「私はハルカ。こっちはセカイです」
「ハルカさんと、セカイさんですね。よろしくお願いします」
「では、さっさと終わらせよう。ルティアの行方について、心当たりはあるのか?」
「ありません。あの子が行きそうな場所は、大抵の場所は私が探しましたし……」
この村を、たった1人で探し回っていたと言う事だろうか。それも、朝の早い時間から。エヴィさんのその行動が、やっぱりルティアちゃんをとても心配している事が伺える。
「家出ではないのか?例えば施設での暮らしが嫌になり、逃げ出したという可能性は?」
セカイは聞きにくい事を、ズバリと口に出して尋ねた。
「うぅ!確かに、ルティアにはお手伝いをよくしてもらっていました。それがあの子にとって負担で、それで施設から逃げ出してしまったのかもしれませんっ!私はお洗濯が苦手なので、あの子に押し付けるようになっていましたし、お掃除だって、お料理だってそう!やっぱり、私のせいなんですねっ!うわーん!」
シスターが顔を両手で覆い、泣き出してしまった。後悔するような事を言っているけど、その内容を聞く限りでは本当に家出かもしれない。
だって、洗濯もお掃除もお料理も押し付けられてたんだよね。あの年端もいかない女の子に。そりゃあ逃げ出したくもなるよ。
「……お話し中、すみません」
とそこへ、妙齢の女性が話しかけて来た。
私達は往来の中で話していたので、泣き出してしまったエヴィさんはよく目立つ。もしかしたら、私達がエヴィさんを虐めているように見えてしまったのかもしれない。それはマズイ。
「なんじゃ」
「実は今朝、私の知り合いの奥さんに、娘が私の家に泊まりに来ていないかと尋ねられまして……聞けば、昨日から娘さんが家に帰って来ていないようなのです」
「そういえば、オレの知り合いも同じような事を言ってたな……」
更に話を聞いていた男性が続いた。
どうやら勘違いされていた訳ではなく、ルティアちゃんと同じように消えてしまった子がいるらしい。
「となると、集団的な人攫いという可能性もあるのう」
「ひ、人攫い……!」
「お、オレ、憲兵団に言ってくる!」
「私も他に攫われた子がいないか、知り合いを当たってみます!」
セカイの何気ない言葉で、事態は大事となってきた。男性も女性も、それぞれの役割を自ら買って出て去っていき、これからもっと大きな騒ぎとなるだろう。
「では、ワシらに出来るのはここまでじゃ。あとの事は憲兵に任せよう」
「集団的な人攫い……だとしたら、大きな組織が関わっているはず。とても危険です。ですが、旅の魔術師様のお力添えがある私達にとって、恐れる事ではありません!心強いです!」
立ち去ろうとしたセカイの頭を掴みつつ、エヴィさんが力説した。
要約すると、事が終わるまで逃がさないと言う事である。言葉遣いは丁寧なのに、強制力が半端ない。
「はぁ……」
セカイはため息を吐くと、エヴィさんの手を払いのけてトボトボと歩き出す。
「どこへ行くのですか?まさか、ばっくれるつもりじゃねぇだろうな?」
「違う。どうせハルは、ルティアの無事を確認するまで手伝うと言うのじゃろう。ならばワシにできるのは、さっさとこの事件を解決する事じゃ」
「でも、ルティアちゃんの行方が分からないんじゃどうしようもないよ……」
「それは分からぬが、人攫いをするような連中には心当たりがある。お主も昨日、薄々感じていたのではないか?」
「……それってまさか、傭兵の人達の事?」
「その通りじゃ」
セカイはニヤリと笑って私に答えた。
確かに私は傭兵さん達をみて、ロロアちゃんを攫おうとしていた男の人たちと重ねてみていた。でも彼らと傭兵さん達が同じ種の人間だと、確信を得ていた訳ではない。だけどセカイは、確信を得ているようだ。
「失礼ながら、傭兵さん達は王国から派遣されている、正規の軍のようなものです。実際この村は、盗賊や魔獣の被害に悩んでおりましたが、彼らが来てくれてからというもの、被害はピタリとやんでおります。これまでも特に目立った事件はありませんでしたし、彼らが人攫いのような真似をするとは、考えられません」
「お主の目は節穴か?お主と比べて宿の女の方は、奴らについて理解し警戒しておったぞ」
「しかし、傭兵の方々が何故人攫いなど……」
「ワシの憶測じゃが、奴らはエルフを攫うための拠点としてこの村に滞在しておる。しかしそちらは上手くいかなかった。エルフは簡単に攫われるような連中ではない。見立てが甘かったのじゃろう。じゃが、成果を出す必要がある。そこでエルフは諦め、攫いやすそうな村の娘に狙いを変えたと言う訳じゃ」
「……あり得ません。村のために働いてくださっている傭兵さんたちが、そのような悪行をする訳がないのです。セカイさんの憶測に、私は怒りを覚えています。今すぐ取り消してください!」
「ワシの憶測が本当かどうかは、今から直接聞きにいけば良いまでじゃ。行こうではないか。傭兵達がいる場所へ」
「いいでしょう……でももし傭兵さん達が無実だったら、しっかりと謝ってください」
「ああ、謝る謝る」
セカイは依然としてニヤニヤと笑っており、エヴィさんを茶化すような態度をとっている。よほど自信があるんだろうね。傭兵さんを庇うエヴィさんとそんな約束までしちゃって、大丈夫かな。ちょっと不安になってきた。