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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
再会──異変──
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今日の宿


 声を掛けた女の子は、セカイよりも大きく、私よりは小さな女の子だ。リボンでまとめて簡単におさげにした赤色の髪の毛に、露出の一切ない服装の女の子は、いかにも田舎の女の子という感じ。悪い意味ではなく、良い意味で。

 おつかいでもしていたのか、腕にはバスケットを抱いていて、そこにパンが入っている。

 私、こういう何も知らなそうな女の子、けっこう好き。自分好みにいい具合に染まってくれそう。ぐへへ。


「は、はい。何か御用でしょうか」


 女の子は驚きつつも足をとめ、話しかけた私に丁寧に返してくれた。


「さっき丁度、良いお店を見つけたんです。よかったら、一緒にお茶をしませんか?」

「ふ、ふえ!?お茶、ですか?」

「……突然道行く少女に話しかけたと思ったら、なんじゃ?お主はナンパをしたかったのか?」


 驚く少女と、呆れる幼女。両者の視線が私に刺さる。


「……ごめん、嘘。私達宿を探してるんだけど、どこにあるか知ってる?」

「な、なんだ、ちょっとだけ、驚きました」


 少女は胸を撫でおろし、安心した笑顔を私に見せてくれる。

 うーん、可愛い。そんな笑顔を見せられたら、本当にナンパしたくなっちゃう。


「聞かずとも、歩いていればその内辿り着けるというに……」


 私が少女を呼び止めた理由を知ったセカイは、若干不満そう。

 セカイってもしかして、効率が悪いのかもしれない。頭は良いはずなのに、どこか体育会の筋肉脳を感じる。


「宿でしたら、リゼッタおばんのお店がいいと思います。お部屋はキレイですし、ご飯もとても美味しいって評判なんですよ」

「じゃあそこにしよっ!その宿って、どこにあるの?」

「こちらです。丁度私もそちらの方に行くところだったので、よかったらご案内しますよ」

「ありがとう!是非お願いしたい!」

「はい。お願いされちゃいます」


 おさげの少女は笑顔で私達の案内役を買って出てくれて、私とセカイは彼女について歩き出す。


「私の名前は、ハルカ。こっちはセカイ。貴女の名前、聞かせてもらっても良いかな?」

「私は、ルティアっていいます」

「ルティアちゃんかー。よろしくね」

「よろしくお願いします。ハルカさん。セカイさん」


 おさげの少女は、ルティアと名乗った。

 年はたぶん……15歳くらい?これから身体に脂肪がついていき、成長していきそうな気配がある。具体的に言うと、胸が身体と歳の割に大きい。これは将来が期待できる事間違いなしである。未来を見る事が出来る魔眼を手に入れた、この私が保証する。実際はほんの数秒先しか見る事ができないけども。


「お二人は、旅人さんですよね?」

「あー、いやちょっと違くて──」

「その通りじゃ。ワシらはこの国の王都に用があり、この村に立ち寄った身。長旅で疲れておってな。今日はこの村で休み、それからまた王都に向かう度に出る予定じゃ」


 私の言葉を遮って答えたのは、セカイだ。こういう受け答えは、もしかしたらセカイに任せた方が良いのかもしれない。私、あまり喋らない方が良い事も喋ってしまいそうだから。

 実際、シキと初めて会った時はけっこうやらかした。その反省を活かして?こういう受け答えに関しては、黙っておこうと思います。


「そうなんですねっ。王都に……」


 その時、ルティアちゃんの歩きが妙に遅くなり、その表情に影がさした。


「大変そうですが、旅のご無事を祈っています!」

「あ、ありがとう、ルティアちゃん。旅、頑張るね」


 でも次の瞬間には元の元気な笑顔になっていて、その影は飛んでいた。気のせいかな。

 ルティアちゃんと軽く会話をしながら歩く事数分。ルティアちゃんがとある建物の前で止まった。

 木造の建物で、2階建て。建物の中に入るための出入り口には、スイングドアが設置されている。西部劇とかでよくみる、奥にも手前にも開き、自動で定位置に戻る小さな扉だ。そして中からはとても良い匂いがしてきて、食欲をそそられる。

 この匂いは、そう。肉だ。


「ここが、宿!?」

「はい!」


 ルティアちゃんは答え、先導して扉を開いて中へと入った。私とセカイも、それに続く。

 中に入ると、やっぱりお肉の匂いだった事が分かった。そこでは大勢の男の人が席に座り、机の上に置かれた料理を口に運んでいる。料理の中には美味しそうなお肉もあって、彼らはそれらを木のコップに入った飲み物と一緒に飲み込み、食事をしている最中だ。

 その男達は誰もが屈強な肉体を持っていて、傍らには武器を携えている。やっぱりこの世界って、武装しているのが当たり前なのかな。でもね、皆汚い。まるで、森の中でロロアちゃんを攫おうとしていた連中と同じレベルで、汚い。

 よくそんなんでご飯食べられるよね。私はちょっと無理。


「あの方々は、王国から派遣されている傭兵さん達です。森の魔獣や、野盗から村を守ってくれているんですよ」

「ふぅーん……」


 ルティアちゃんは、彼らに対して特に嫌悪感も抱かずにそう説明をしてくれた。その説明通りなら、確かに村を守ってくれる良い人達という事になる。

 でも私は、どうにも森の中で遭遇した人間の男と、彼らを重ねてみてしまう。彼らが汚いからだろうか。それだけじゃないと思うんだけど……。


「リゼッタおばさーん」

「なんだい、ルティア!」


 ルティアちゃんがお店の奥に声を掛けた時だった。丁度、料理の乗ったお盆を両手に持った大柄なおばさんが、大きな声で返事をしながら奥から姿を現わした。

 大柄と言うのは、背も体重もである。身長は、190センチくらい?横にも大きく、体重100キロ以上は確実にあると思う。この場にいる誰よりも大きく、迫力がある。


「はい、お待ち!」


 そして素早く歩いて行くと、料理を机の上に置いてから私達の方へとやってきた。


「リゼッタおばさん。旅の方が、今日泊まりたいみたい。お部屋は空いてる?」

「空いてるよ!この連中、飯だけ食いに来て宿は自警団の宿舎を使ってるからね。ガラガラさ。一泊銀貨二枚。夜食と朝食つき。代金は前払いね」


 おばさんは、大きな声でまるで傭兵さんたちに不満を訴えるようにそう言い放った。

 それに対し、周囲の傭兵さんたちは大笑い。冗談として受け止めて笑い飛ばす反応は楽し気で、雰囲気は悪くない。私もつられて笑ってしまった。


「ふむ。金は、コレで良いか?」

「コレは……タキルス通貨じゃないね。エルフ通貨かい」


 セカイが懐の財布から取り出した銀貨は、エルフの里で村長から貰ったお金だ。そこには木が描かれている。エルフ通貨と呼ばれているらしい。

 おばさんは、それまでの大きな声ではなく、小さく呟いてからすぐ手で隠すようにして握り込んだ。もしかして人間の生活圏とエルフの生活圏って、使われているお金が違うのかな。だとしたら、私達って一文無し?


「金は、コレでいい。だけど他でこの金を使うんじゃないよ。見せてもダメだ。特に、傭兵の連中にはね。泊まりたければ、そう約束しな」

「……約束しよう」


 セカイは神妙に頷き、おばさんとそう約束をした。そしてその約束を守るように、お金をすぐに懐にしまった。

 お金を見せたらダメとは、どういう事なんだろう。私には分からないけど、セカイがそう約束したから私もそうしよう。

 まぁ財布はセカイが握ってるんだけど。


「おばさん、今の──」


 追求しようとするルティアちゃんに対し、おばさんは口の前で人差し指をたてて黙るように促した。これ以上、この話題で話をするのは止めろという事だ。

 おばさんの圧力に屈し、ルティアちゃんはおとなしく黙って頷く。


「それじゃあ、私はおつかいの途中だからもう行きますね」

「うん。案内してくれて、ありがとう!」

「はい。それでは、コレで。おばさんも、またね」

「……」


 お店を後にするルティアちゃんに対し、おばさんは黙って頷き、私は手を振って見送った。

 さて。無事に宿が決まった所で、私にはすべき事がある。この匂いの中で、もう我慢は出来ない。


読んでいただきありがとうございました!

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