遺跡探索
実際本当にコレが、古代遺跡かどうかは分からない。建物の空気でそう感じるだけであって、実際はもっと近代的な物という可能性もある。とてもそうは見えないけど。
「ほー……」
その建物には、入り口がある。ぽっかりと開いた、穴。すぐそこが階段になっていて、どうやら地下に続いているっぽい。その奥は真っ暗闇なので、入り口からはそれくらいしか分からない。
さっきの、幽霊?はこの中だろうか。でも、中真っ暗だよね。さすがに灯りもなしにこの中に入るのは、危険すぎる。
様子を伺うため、試しに中に何歩か入って階段を下りてみる。でもそれだけでは何も分からない。そこに幽霊がいる訳でもないし、たった数歩入っただけでもう何も見えなくなってしまったので、これ以上は危険だ。引き返そう。
そう思った時だった。突然地響きがおきたかと思う、私がたった今入って来た出入口が、岩の壁によって封鎖されて行く。岩の壁は引き戸のように地面を滑り、私をこの中に閉じ込めようとしているのだ。
「まずっ……!」
と思って階段を駆け上がろうとしたけど、扉が閉まる方が速かった。私は閉じ込められ、本当に、本気の真っ暗闇に閉じ込められてしまった。
かなりの絶望的な状況。杖──アロンを持って来れば、これくらいの岩ならもしかしたら破壊できるかもしれない。でも忘れた。さすがに素手でこの重厚な扉を破壊するのは無理だろう。というか、こんな大きく重そうな扉が、どうして自動的に閉まったりしたのさ。どういう原理ですか。教えてください、偉い人。
暗闇の中で、必死に冷静にない頭でここから出る方法を考えていたら、突然周囲が明るくなった。何事かと思うと、壁に設置されたランタンに火が灯っていた。先ほどまではついていなかったのに、自動的についたのだ。
「……行くしか、ないか」
出入口は塞がれていて、ここから出る事はできない。ならば進むしかないだろう。幸いにして、灯りはあるんだ。これがどういう原理で自動的についたのかは分からないけど、灯りがある方が非常に助かるので気にしない。大丈夫。きっとどこかに出口はある。私は自分に言い聞かせ、階段を下り始めた。
階段は、予想以上に深かった。ただ、私が進んだら進んだだけ壁のランタンに火が自動的に灯り、しっかりと照らしてくれる。真っ暗闇よりは、全然良い。でもね、すんごい怖いよコレ。なんか、奥へ奥へと得体の知れない何かに導かれてる感じ。
で、ようやく階段が終わったかと思えば、次は廊下だ。周囲は、ぼろぼろだけど重厚な石の壁と地面と天井。奥の方はまだ火が灯っていないからよく見えないけど、どこまで続いているんだろうか。それを確認するため、再び歩き出す。
「こ、これがゲームなら、ダンジョンを守るための魔物が出て来そうだなぁ」
恐怖心を誤魔化すために、わざと声に出して呟いた。その声は廊下に反芻し、あまり大きな声で喋った訳でもないのによく響く。
でも魔物なんて、本当に出る訳がない。ここはゲームの世界じゃないからね。軽い冗談である。冗談のはずだったんだけど……。
「っ!?」
突然廊下の奥から、ガシャガシャと騒がしい音が聞こえて来た。それは足音のように聞こえるけど、人の足音ではない。
足を止め、目をこらしてその音の方を見ていたら、暗闇の中からそれは現れた。現れたのは、骸骨だ。手にはボロボロの剣を持ち、ボロボロの服を纏った骸骨が、こちらに向かって歩いて来る。
本当に出てしまった。こういう事は、思っても言うべきではなかった。
「カッ、カカカカカ!」
骸骨は私を発見し、顎を鳴らして高笑いを浮かべるような仕草を見せながら、こちらに向かって走り出して来た。剣を振り回しながら、である。明らかに敵意がある。
「ぎゃああああぁぁぁぁ!」
私はそれを見て、叫んだ。骸骨と遭遇するだけなら、まだいい。それが私を見つけた瞬間、嬉しそうに笑いながら突っ込んでくるんだよ。恐怖もんだよ。そりゃ叫ぶよ。
でも逃げ出しはしなかった。私は素手で骸骨の剣を受け流すと、拳でその顔面を殴り飛ばす。骸骨の骨は予想以上に脆くて、それだけで首から上が砕けて身体から離れ、残った首から下はその場に倒れ込んだ。
「……」
首から上を失った骸骨は、倒れ込んで動かなくなった。まるで、元からそこにあった白骨死体かのように転がっているのを見ていたら、いきなりその身体が光の粒子となって消え去った。その後には代わりに黒く小さな宝石が残っているけど、なんだろうコレ。
でもコレで死んだ、のかな。いや、元から死んでるんだろうけども。でもどうして、骸骨がひとりでに動けるのさ。
などと考えている場合ではなかった。
「カカッ」
骸骨がやってきた奥の方から、また骸骨が現れたのだ。それも、一体や二体ではない。たくさんだ。そして彼らもまた、私を見つけると顎を鳴らしてこちらに突っ込んでくる。
「ぎいぃぃやああぁぁぁぁぁ!」
私は叫んだね。叫びながら、その骸骨たちを素手で殲滅した。
「──はぁ、はぁ」
私は骸骨達を殲滅したあと、息を僅かに切らしながら歩み進める。息が切れているのは、戦いのせいではない。叫び疲れたからだ。骸骨はさほど強くはなかったから、殲滅は容易だった。
私は今後、どんなに怖いホラー映画を見たとしても、驚きはしないだろうと思う。元々驚く系の人じゃなかったけど、余計にだ。
こんな所、もう嫌なので私の足は先ほどまでよりも速くなっている。駆け抜けるようにして廊下を進み、やがて小さな部屋にぶち当たった。
部屋の中央には棺が置かれ、灯りはあるけど光量が少なく薄暗い。しっかりとした石で蓋をされた棺には、何か文字が書いてあるな。でもそれはこの世界の文字なので、読む事はできない。
でもなんとなくその文字に触れてみると、その時文字が光り輝き出し、紋章が浮かび上がった。紋章は真っ赤で、私と棺を含んで強く光り輝く。少し身の危険を感じるけど、逃げ場はない。あまりの光の強さに目を開いていられなくなって閉じ、しばらくして目を開くと、紋章は消え去っていた。
「……なんだ、今の」
そう呟いてから、両目に酷い違和感を感じた。
「あ、え……?」
おかしい。視点が合わない。全てが二重にも三重にもみえ、視界が揺らぐ。更に、鋭い痛みが目を襲い、目を開いていられなくなった。
「あ、ああぁぁぁぁ!」
痛みに叫んで、うずくまる。
コレは、まずい。何が起こったか分からないけど、私は身の危険を感じる。
「せ、セカイ……!痛いよぉ、助けて……」
セカイに助けを求めたけど、近くにセカイがいない事は分かっている。
もしかして私、ここで死ぬの?真っ暗闇なこの中で、私に襲い掛かって来た骸骨たちのように白骨化した自分の姿が思い浮かぶ。そんなの、嫌だ。嫌すぎる。
「──ハル!」
「へ?」
そう思っていたのに、名前を呼ばれた。そして直後に、身体を抱き締められる。胸に抱きしめられ、とても温かい。
「セカイ……?」
「そうじゃ!一体どこに行っておったのじゃ!?目が痛いのか!?誰にやられた!?」
矢継ぎ早に質問され、私も色々と聞きたい事があるけどそれは後にしよう。全てを差し置き、優先的にしたい事がある。
「おしっこが漏れそう」
かなり拍子抜けな訴えだろう。自分で言って、そう思った。
でもだって、そもそも私が夜中に起きたのは、それが目的だったから。幽霊やら遺跡やらのせいで忘れてたけど、セカイの声を聞いたら安心したのか、唐突に思い出しちゃったよ。尿意の存在を。思い出したら、もうおしまいだ。決壊しそう。
「排尿か。よし、ここでして良いぞ。一人ではできなそうじゃから、ワシが手伝おう」
「え、あの……一人で出来るから……」
「遠慮するでない。さぁ、服を脱がすぞ」
「ちょ、あの……ぎゃあ!?」
セカイは私に構わず、服を脱がしにかかって来た。私は目が痛くて目を開けず、されるがままだ。
そして私はその日、親以外の人に初めて、排尿する姿を見られてしまった。当然だけど、この年になってからは初である。私の恥辱にまみれた叫び声が周囲に響き渡り、私はこの日、お嫁にいけない身体にされてしまったのだった。