天然のシャワー
シキが集めてくれた枝を利用して、セカイが火を起こしてくれたので、この豪雨の中で私達は焚火を手に入れる事が出来た。雨は冷たく、気温をだいぶ下げているからね。火があるのは、明るさを手に入れるのと同時に暖も取る事ができて、とてもありがたい。
日没まではもう少しあるのに、雨のせいか薄暗くなっちゃったんだよね。やっぱ明るいと、安心できるよ。
「ふー」
私は焚火に当たりながら座り込み、安心して息を吐いた。
一方でセカイは、エルフの里から背負って来たリュックの中身をチェックし出している。
色々と持って来たけど、そのリュックの重さはだいぶ軽くなっている。この三日で、私とセカイが食料を食べて消費したからだ。
荷物が軽くなるのはいいけど、ご飯が減っていくのは問題だ。でも食べるのはやめられない。人間の性だね。
「シキのおかげで、予定より進みが早い。食料の問題はなさそうじゃな」
「いや、ホント。シキさまさまだねぇ」
シキは本来、私達と一緒に行く予定ではなかった。それをふまえて食料を用意していたので、食料に余裕があるのは当然といえば当然だ。だって、シキの足は速いから。
本当に、助かったよ。私とセカイは馬に乗れないから、移動は歩きで荷物は自分で背負うしかないんだよ。そんな状態でエルフの里を出るとか、今思えば無謀な試みだったと思う。
「セカイも、こっちに来なよ。焚火、あったかいよ」
「……うむ」
セカイは私に促され、焚火の近くに腰を下ろした。でも、私とは少し離れた場所なので、妙に距離感を感じてしまう。
なので私は、四つん這いで焚火を迂回しながらセカイの隣に移動して、その場に居座った。
「凄い雨だねぇ……」
「そうじゃな。寒くはないか?風邪をひかんように、暖かくするのだぞ」
「セカイ、お母さんみたいだー」
「からかうでない。お主が風邪をひいたら、この先の旅路に影響が出る。それを心配しているだけじゃ」
そういうセカイだけど、絶対に私を心配してくれている。
セカイは絶対に認めないだろうけど、常に私を気遣って心配してくれている。それがセカイだ。
ホント、ありがたいよ。セカイがいてくれたから、私はこんな右も左も上も下も分からないような世界で、それなりに上手くやっていけているのだ。
「メイ達、元気かなぁ。早く会いたいなぁ」
「……まだいると決まった訳ではない。何かの間違いである可能性の方が高い」
「でもさ。私の知る人達の名前がずらりと並ぶとか、そんなのあり得ないって」
「そうかもしれんが、実際に見るまでは分からん。そもそも、そんな事はあってはならないのじゃ。でなければ、ワシは何のために──……」
「何のために?」
「……」
セカイは、途中で黙り込んでしまった。雨が強く地面に打ち付ける音が響く、騒音の中での沈黙。うるさいのに、とても静かだ。
「えーと……そういえば村長さんが、勇者を召喚するには色んな人の魂が必要とか言っていたけど、もしかして私もそうなのかな?」
私は沈黙を打ち破るため、話題を変えた。
「お主がこの世界に来た時、そのような痕跡はなかったじゃろう。お主はワシが、ワシの力でこの世界に連れて来た。生贄など必要ない」
「えっと、それはー……セカイはなんのために、私をこの世界に連れて来たの?」
「……」
セカイは再び、沈黙してしまった。セカイはたまに、私の事を無視して質問に答えてくれない時がある。
無視されるのは、前の世界での事関連かな。特に、どうして元の世界から私だけをこの世界に連れて来たのか、とか、そういう事は完全に無視である。
この質問も、無視されると分かってした事だ。気になるじゃん。どうして私だけがセカイに連れられてこの世界にやってきたのか……絶対に理由があるはずだ。でもセカイは、私がそれを知る事を拒んでいる。
「とりゃ!」
「……なんじゃ、突然」
私は再び沈黙を破るために、今度はセカイの肩に手を回して抱きしめた。セカイの体温を肌で感じながら、匂いを堪能する。
うん。凄く良い匂い。暖かいし、こりゃたまらん。
「嫌?」
「嫌ではない」
即答だった。私の手に、小さな自分の手を乗せてぎゅっとする仕草が、たまらなく可愛い。
「はぁ、はぁ」
「息が荒いぞ、ハル。まるで変態のようで、襲われている気分じゃ」
「ご、ごめん……」
「いや、別に良い。お主はワシを、好きなようにする資格がある。……お主が望むなら、何をしてもかまわんのだぞ」
「……」
そしてセカイはたまに、自分の身体を軽んじる事がある。私に、セカイの身体を好きにしていいとか……そんな事言われたら、この美少女を本当に好きにしたくなってしまう。
いや、しないよ。私は獣じゃない。私には好きな人がいるし、それ以前にセカイの嫌がる事を無理矢理するなんて事はしない。セカイ以外にもそうだよ。欲望に任せて襲うとか、それは犯罪だ。
私はそれを拒否するかのように、黙ってセカイを抱き締めたまま黙り込む。こうしていられる時間が、ただそれだけで幸せだから。これで充分だ。
「……そろそろ夕飯にしよう。腹が減ったじゃろう」
そのまましばらく時間を過ごしていたら、いつの間にか日が暮れて辺りが真っ暗になっていた。私達の前には焚火があるから明るいけど、この窪みの外は真っ暗。でも激しく打ち付ける雨だけは健在で、騒がしいままだ。
そしてセカイがそう言った瞬間に、私のお腹が鳴った。まさに、グッドタイミングである。
「どうやら、良いタイミングのようだな。すぐに準備しよう」
「う、うん。ありがとう」
名残惜しいけど、セカイとくっついている時間は終わりだ。私はセカイから手を離すと、セカイは荷物が置かれているリュックの方へと歩いて行った。
さっきも言った通り、食料はエルフの里からたんまりと持ってきている。他にもシキが木の実を取って来てくれるので、食べる物には今の所困っていない。移動はほぼシキの上に乗ってるだけだし、雨が降る前は文句を垂れていた私が言うのもなんだけど、割と快適な旅生活を送っている。
でも強いて言うなら、シャワーでも浴びたい所だな……と思った時だった。外を見て、私は殺人的に良いアイディアを思いついた。むしろ、何故そうしないでボケっとしていたんだと思う。
「セカイ、ご飯は後でいいから服を脱いで!」
「な、何じゃ突然?気が変わって、ワシを襲う気にでもなったか?」
「違うよ、シャワーだよ!シャワー浴びよう!」
「シャワー?……ああ、そういう事か。ワシは別に良い。食事の準備をしておくから、一人で──」
「いいから、脱いで!」
セカイだって、私と同じでエルフの里を出てからお風呂に入っていない。四の五の言ってないで、このチャンスで水浴びくらいはすべきである。
だから私はセカイの服を脱がして、自分の服も脱ぎ捨てて窪みの外へと飛び出した。すると天然のシャワーが私達の全身に打ち付けて、歓迎してくれた。
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