魔法の杖
はい、という訳で私とセカイは着替え、今までの服とおさらばする事になりました。
まず私の服は、今まで来ていた制服と少し似ている。シャツを着て、アクセントに首元にはネクタイに似た、赤い紐を垂らしている。下はロングスカートなんだけど、スリットが大胆に入っているので動きやすい。中には膝上まであるズボンを履いているので、従来より露出は少ない。上着として黒のローブを着ると、その姿はまるで魔法使いのよう。実際は、リリアさんよりも強い剣の使い手なんだけどね。
セカイも、そんな私と似たような服装だ。上下一体化したワンピース型の白を基調とした服を着て、首元には私と同じように赤色のリボンを結んでつけている。その上から黒のローブを羽織り、その上でとんがり帽子も被せているので、こちらは本当に魔法使いのよう。
あと、靴も買った。本人は鬱陶しいと嫌がっていたけど、こちらも私とお揃いのブーツという事で受け入れてくれたよ。どんだけ私とお揃いが良いのさ。可愛いなぁ、ホント。
「二人とも、よく似合っているぞ。こうしてみると、まるで仲の良い姉妹のようだ」
服屋さんを出て、次は武具化してもらっている枝の様子を見に行こうという道中。リリアさんが私とセカイを見てそう言ってきた。
「そうか?そう見えてしまうか?ふむ……そうか」
そう言われて、セカイが嬉しそうに自分の服を見ている。
私も嬉しいよ。セカイが喜んでくれているのと、セカイみたいな可愛い子と姉妹と言われて。
でも、そう考えると本物の妹──アキの事が脳裏に浮かび、その安否が心配になってしまう。アキも、この世界にいるのかな……?いてくれたらいいな。もしいるなら、何か困ったりしてないかな。あの子は可愛いし頭もいいけど、割と要領が悪いから心配だ。いやむしろ、可愛いからこそ心配だ。変な虫がついたりしてないだろうか。
「私が、選んだんだよ!」
「うん。凄く可愛い服を選んでくれて、ありがとうロロアちゃん。大切にするね!」
「えへへー」
「良かったな、ロロア。と、ついたぞ」
服屋さんから、目的地は割と近かった。木と木の間を通る橋を歩いて行き、2本渡った所だ。その木にある家の扉は開かれっぱなしになっており、外には看板も置かれて何かのお店だという事が分かるようになっている。
ちなみに、文字は読めない。でもよく考えたら言葉は通じる。何故だろう。
「失礼する」
「おう、リリアじゃねぇか!」
お店の中に入ると、エルフにしては汚い系のおじさんが出迎えた。金髪は金髪なんだけど、どこかくすんだ色の金髪のおじさんは、無精ひげをはやしている。そのひげもくすんだ金色で、肌の色は茶色く焼けている。
お店の中には、様々な武器が並べられていた。剣や弓に、鎧に盾に棍棒。様々な武器が所狭しと並べられていて、ちょっと怖い。けどなんかわくわくする。
「この間頼んだ世界樹の枝だが、調子はどうだ?」
「まだ仕上がってねぇよ」
「そうか……」
「急ぎじゃないんだろう?」
「いや、この方がその枝の持ち主なのだが、明日旅立つ事になってしまってな。突然急ぎになってしまった」
「あ?ああ……例の人間か。形だけはできてるんだが、肝心の魔力水晶がまだ届いてねぇ。あとは一緒に合成するだけだから、簡単だ。そこだけは適当な武器屋に持って行ってつけてもらうって事はできると思う。それでよければ、持って行ってくれ」
「待て。何故魔力水晶が必要になる?」
「何故って……魔法の杖には必須アイテムだろうが。俺は世界樹の枝と、最高品質の魔力水晶を使って、最高の杖を作り出そうとしてたんだぜ。何せ、世界樹の枝なんていう超絶レアアイテムを使っての武器精製だ。一生に一度あるかないかの経験で、他の材料をケチる訳にはいかねぇからな」
「……」
嬉しそうに語る鍛冶屋のおっちゃんをよそに、リリアさんが頭を抱えて青ざめてしまった。
「どうしたの、リリアさん」
「……すまない。作る武器の指定を、忘れていたようだ。そうだな。普通に考えれば、木はまず杖にする。何故失念していたんだ、私は。バカだ……バカすぎる……」
どうやらリリアさんは、世界樹の枝が魔法の杖とやらになってしまった事に、深くショックを受けているようだ。
別にいいじゃん、魔法の杖。カッコイイ。何が問題なのだろうか。
「問題ない。その杖を見せてくれ」
「あ?ちょっと待ってな」
店主がそう言って店の奥の部屋へと入っていき、戻ってくるとその手には杖が握られていた。
それは、元の枝の時にあった粗っぽさがなくなり、キレイに加工された杖だ。長さは、元の物と同じくらい。所々が角張り、枝の名残を残しながらも真っすぐで全体的にツルツルになっている。先端は不自然に丸い形をしていて、そこに何かが組み込めるようにスペースが空いている。それが、さっき言っていた魔力水晶とやらを嵌めこむためのスペースなのだろう。
「……良い杖じゃ」
店長から杖を受け取ったセカイが、杖をまじまじと眺めてそう呟いた。
魔法の杖を手に持つ、ローブを羽織った銀髪の少女……。もう完全に、ただの魔法使いである。
「ふ。分かるか?分かっちまうよな?この、洗練されたデザイン。そして何よりその性能!武器に加工された事により、世界樹のエネルギーが溢れ出るようになった。コレに魔力水晶を嵌めこんで魔法をうってみろ。賢者も驚いて腰を抜かすような、すげぇ魔法をうつ事ができ──」
「これなら、普通に振り回して武器として利用できるじゃろう。ハル」
「あ、うん」
セカイから杖を受け取って手に持ってみると、ずっしり重い。枝の時は軽かったのに、どうして形が変わっただけで重さまで変わるのだろう。謎でである。
でも問題はない。ぶんぶん振り回してみると、空気をきる良い音が響いて軽く風が巻き起こった。
「待て待て!最高の杖ができんだぞ!?振り回して、武器として利用するだぁ!?魔法使えよ!すげぇ魔法使えるからさ!」
「ハルに、魔法はいらん」
「じゃあ、セカイが使う?すげぇ魔法使えるってよ」
「杖を介した所で、ワシの魔法には影響せん。そもそも世界樹は、ハルにコレを寄越した。よってコレは、ハルが持っているべきじゃ」
「そっか……分かった。私、コレを振り回してセカイの事を守ってみせるよ!」
「ワシは別に良い。自分の身を守れ」
「すまない。私が前衛向けの武器を作るようにと、言い忘れたせいで……」
「問題あるまい。ハルなら使いこなせるはずじゃ」
「それはそれで、問題が……せっかく私が剣技を教えたのに、武器が杖とはどうなんだ?」
「似たようなものじゃろう」
「いや、全く違うのだが、私のミスで招いた事だから強く言えない……!」
まぁセカイの言う通り、あまり問題はない。杖も振り回せば、剣のような物だよ。
私、リリアさんに教えてもらった剣技を、この杖で活かしていきたいと思います。
「ハルカお姉ちゃん、カッコイイ!」
「よく似合っているぞ。中々に迫力がある」
「えへへ。ありがとう、ロロアちゃん。セカイ」
杖を構えて見せると、ロロアちゃんとセカイが褒めてくれた。
一方で、店主とリリアさんが呆然と見守っている。
2人の思惑とは少し違う形で、私は武器を手に入れる事になった。手に入れた武器は、魔法の杖の魔力水晶がないバージョン。名前はアロンと、セカイが名付けた。