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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
異世界──冒険──
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実力比べ


 とりあえず、スープを飲み終えるまでは待ってもらえた。

 でも勝負はする事になった。強制だった。拒否権はなかった。

 セカイに軽く挑発されたリリアさんは、やる気満々で私を家から連れ出すと、家のある木の下にやってきた。周囲には木があるだけで障害物はない。戦うには丁度いい空間だ。

 いや、待って。戦うの?本当に?マジで?


「お姉ちゃん、がんばれー!」

「ハル。お主の実力を見せてやれ」

「えーっと……」


 リリアさんは木の剣を構え、私は世界樹の枝を手にしている。それぞれの武器を手に、今まさに戦いが始まろうとしているのだ。

 そんな私達を見守る観客は、2人。ロロアちゃんと、セカイ。2人とも面白そうに見ていて、リリアさんもやる気満々で剣を構えている。この中でやる気がない人……というか、成り行きでこの場に立たされているのは私だけで、何故こうなったという感じ。

 だって私、剣とか本当に分からないんだよ。それなのにセカイが勝手にリリアさんをたきつけて、戦う事になってしまった。私が一体、何をしたというのだ。


「安心しろ、ハルカ殿。加減はする。いつでも、どこからでも打ち込んでくるが良い。私の落花一心流が世界最強だという事が、すぐに分かってもらえるはずだ」

「それが、不安なんだけどなぁ……」

「私の剣の実力が見たいのだろう?ならば戦うしかない。臆せず、斬りかかって来い!」

「いや、私が見たい訳じゃなくてね?セカイが勝手に──」

「くどいぞ、ハルカ殿!」

「やれ、ハル!」

「がんばれー!」


 あ、これ何言ってもダメなやつだ。……仕方ない。やるしかないかぁ。

 でもリリアさんも、少しは覚悟してほしいな。だって私、たった1人でロロアちゃんを誘拐しようとしていた男3人を撃退した実力者だよ。


「あ。男達から受けた傷が痛い。だから戦えないかも」

「たかが矢が突き刺さっただけで何だと言う!今更何を言っても、この私をたきつけた責任はとってもらう!さぁ、打って来い!さぁ!さぁ!」


 リリアさん。興奮して、やる気満々です。

 なら、ベッドの上でその興奮をおさめてあげるよ。そう言おうとしたけど、引かれそうだからやめておいた。というか子供も見ているから。思ったけど、口に出す訳にはいかない。

 私という存在に対し、年齢制限がかけられるのは嫌だから。


「あー、もう、分かった。分かりましたよ。はい、じゃあいきますよ!」

「どこからでも──」


 行くと宣言したその瞬間に、私は地を蹴った。そうしてリリアさんとの間合いを縮め、木の枝を上段から片手で振り下ろす。


「っ!?」


 私の木の枝は、リリアさんの木の剣によって防がれた。というより、受け流された。私の木の枝は勢い衰える事無く軌道だけを変えられ、地面に一直線。バランスを崩してしまった。

 そこに、リリアさんの剣が襲い掛かろうとしている。私はその事を察知し、踏ん張るのをやめた。地面にそのまま倒れこみ、リリアさんの剣を回避。地面に片手で手をつくと、リリアさんの足に向けて枝を振りぬいた。

 私の枝は、空を切る。リリアさんはジャンプして回避したのだ。

 その事を理解した私は、すぐに立ち上がってリリアさんの着地した瞬間を狙おうとした。でも、周囲にリリアさんの姿がない。


「おー……!」


 ロロアちゃんが歓声をあげて、空を見上げている。セカイも同じように空をみている。

 そんなバカな。私はそう思いながら空を見上げると、そこにリリアさんがいた。そして私に向かって降ってくる。


「とらんぽりんっ!」


 私はそう叫びながら、リリアさんが降って来ながら私に振り下ろして来た剣を受け止めたね。

 だって、ジャンプ高すぎ。トランポリンがなければダメな跳躍力を見せられたんだもん。

 私に仕掛けた一太刀が防がれると、リリアさんは退いて私と距離をとった。


「とらんぽりん?とは何だ?何かの技の名前か?」

「……そう。とらんぽりんとは、一瞬にして相手の衣服だけを斬り刻んで素っ裸にしてしまう、恐ろしい技。私の世界に伝わる、伝説の妙技だよ」

「素っ裸になっていないが?」

「ふふ。運が良い。とらんぽりんは十回に一度だけ発動しない時がある。その一回に当たったんだね。危うくリリアさんはこんな場所で素っ裸になって、『きゃー!変態ー!見ないでえっちー!』てなる所だったんだよ」

「嘘だろう」

「はい。嘘です」


 私は一瞬で嘘を見抜かれ、素直に認めた。思わず出てしまった言葉だけど、そういう事にしておけば良い駆け引きになると思ったんだけどなぁ。そんな技がある人と、戦いたくないからねぇ。


「……確かに、中々の実力のようだ。剣の知識はない。型もない。構えは隙だらけ。それなのに私と剣を交える事が出来るのは、元のスピードとパワーに加え、センスがいいからか」

「え、えへへ」


 褒められて、照れた。

 と言っても、結構必死だったんだけど。何せ、誰かと剣を交えるのは初めてだから。

 いや、レイコの練習に付き合って、剣道で遊んだ事はあるよ。その時もレイコに褒められたけど、経験としてはそれくらい。


「ハルカ殿の実力は、大体分かった。では、次は私の攻撃をうけてもらう」

「へ。攻撃?リリアさんが、私に?こういうのもなんだけど、リリアさん最初受け身な感じじゃなかった?」

「甘えるな。最初だけだ」


 ひどい。そもそも私は自分の意思で闘っている訳ではないのに、加えて攻撃してくるなんてひどすぎるよ。


「心して受けろ。下手をすると……死ぬぞ」


 そう言いながらリリアさんに睨まれ、私は鳥肌がたった。リリアさんの本気の警告だ。本気で受けなければ、この身が危ない。

 言いたい事はたくさんある。こんな素人に、何をしようとしてるの?とか、私ロロアちゃんの恩人だよ?恩人に何をしようとしてるの?とか。でもそんな事を訴える暇がない。喋っていたら、やられてしまう。


「──落花一心流奥義・月揺らぎ」


 リリアさんが徐に、私に向かって剣先を向け、地を蹴った。たったの一蹴りで私との距離を一瞬にして詰めてくるのだけど、その姿が何故か定まらない。まるで、空からふわふわと落ちて来た花びらのように私の目に映り、例え剣を受け止めようとしてもひらりとかわされてしまいそう。

 どうする。どうすれば、この剣を止められる?考えている暇はない。いや、むしろ考えないほうがいいか。ここは私の得意技。考えないでやる作戦で行こう。

 私は木の枝を構えると、向かって来るリリアさんの剣に向かって振りぬいた。けっこう強めでやったためか、空気をきるいい音が周囲に響き渡る。

 実際、枝は空をきった。リリアさんの木の剣を、感覚的にはとらえたはずなのに。なのに、なんの手ごたえもない。

 そして何故か私の枝をかいくぐったリリアさんの剣が、真っすぐ迫ってくる。今からそれを枝で受け止めるのは不可能だ。

 かといって、避ける事もできそうにない。だってそれはもう、私のすぐ目の前にまで差し迫っているから。下手をすると死ぬぞ、というリリアさんの言葉を思い出す。いや、ホント。このままでいたら、死んじゃうかもね。


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