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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
異世界──冒険──
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もてなし


 リリアさんが作ってくれたのは、野菜たっぷりのスープと、サラダの盛り付けだった。他にも、大根の煮つけみたいな物や、黄色いこれは……たくあん?のような物もある。全部この里で育てて取れたものらしく、美味しそう。というか机の上に並べられる前につまみ食いさせてもらって、美味しかった。


「リクエストには応えられないが、自慢の食材を使った料理だ」


 そう。机の上に出て来たのは、私がリクエストした肉ではない。肉の欠片すら見当たらない。

 と言うのも、エルフには肉を食べるという習慣がないらしい。むしろ肉を見ると気持ち悪いと思うのが普通らしく、人間がそれを美味しそうに食べるのが信じられないのだとか。ベジタリアンってやつだね。

 そうとは知らず、肉を要求してしまってちょっと恥ずかしい。


「全然大丈夫!私、野菜も食べられるから!」

「お姉ちゃんは料理が得意なの。だから、どれも美味しいんだー」

「そうなんだー。うん、本当にどれも美味しそう。それじゃあ、いただきまーす」


 嬉しそうにお姉ちゃん自慢をしてくるロロアちゃんに笑顔にされつつ、私は野菜のスープをスプーンで口に運んだ。うん。野菜のだしがたっぷりと出ていて、鼻を突き抜ける香りがとても良い。上品で、味わい深い一品だ。

 続いてパンをちぎり、それを口に運ぶ。硬めのパンは歯ごたえがあるけど、少し甘みを感じる。生地に甘くなる物を使ってるのかな。こちらも美味しい。

 更には、新鮮な野菜の盛り付け。こう言うのもなんだけど、素材が良いので美味しいに決まってる。しゃきしゃきで、瑞々しく、いくらでも食べれちゃいそう。


「どれも美味しいー。ロロアちゃんの言う通り、リリアさんは料理が上手なんだね」

「えへへー」


 私が料理を褒めると、ロロアちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。

 ロロアちゃんも私達と同じご飯を口に運んでおり、美味しそうにリリアさんの料理を食べている。セカイも、あまり喋らないけどキレイに食べていて、偉い。

 いや、偉いっていうのは私の感覚なんだけどね。ほら、昨今は野菜が嫌いな子が多いから。小さい子が野菜を食べているのって、なんかそう感じてしまう。


「……ところで、リリアさん。他に家族はいないの?」

「ああ。父は不慮の事故で死んでしまい、母はロロアを生んですぐにかかった病で、亡くなってしまった。それ以来、ロロアと二人暮らしだ」

「そっかぁ」


 それはなんか、寂しい。私で言うなら、私とアキしか家族がいないという事だ。

 でも、2人を見れば分るよ。悲しみを乗り越えて、たくましく幸せに生きているんだ。そんな2人をあわれむ必要なんて、どこにもない。


「リリアに質問じゃが、この世界に異世界から来た者がいるのは普通なのか?」

「いいや。普通ではない。しかしない事もない。昔話になるが、おおよそ三百年ほど前。魔族の軍勢に攻め入られて全滅の危機に瀕した人間が、苦肉の策で異世界から勇者を召喚した事がある。勇者の活躍により、魔族は押し返され、それどころか当時の魔王に深手をおわせるに至ったとか……」

「その勇者とやらは、強かったのか?」

「強かったのだろう。何せ、勇者の登場により戦況がひっくり返ってしまったのだからな」


 なんだそりゃ。勇者とか、魔王とか。もうゲームとか物語の話になってきた。いやエルフとか出てくる時点でもうそんな感じなんだけど、物語みがその単語によって更に増したよ。


「時にリリアよ。お主は剣士か?」

「そうだが。何故分かった?」

「お主の格好を見れば誰でも分かる。その腰につけている物は飾りか?」


 セカイの言う通りで、リリアさんは腰に剣を着けている。というより、刀?鞘から抜いたところを見てないのでなんともいえないけど、反り具合とかで察するに片刃だ。

 それを腰につけながら料理をする姿は、黙っていたけど少しシュールだった。

 それにしても、この世界の人って武装してるのが当たり前なのかな。エルフの人たちも大人は皆武器を持っていたし、ロロアちゃんを誘拐しようとした人たちも武器を手にしていた。

 比べて私は、木の枝を装備している。カッコがつかない。


「……一応は、落花一心流を心得ている。この里の中では、私の剣の腕に敵う者はいない」

「な、なんか強そう……!」

「お姉ちゃんは、男の人にも負けないの。凄く強くて、たまに弟子にしてください!て言われてる。あと、好きです!て言われたりもしてる」

「後半は関係ない」


 ホント、関係ない。でもリリアさんは美人さんだから、そりゃあ告白くらいされるよ。それに加え、ロロアちゃんという可愛いオマケつきだ。放っておく人の方が少ないはずである。


「その流派がなんなのかは知らんが、きちんとした剣技を身に着けているのだな?」

「自慢ではないが、落花一心流を極める事は、剣の道の究極を行くという事。数ある剣の流派の中でも、落花一心流は無類の強さを誇るのだ。落花一心流の始まりはとても古く、今から約五百年ほど前になる。落花一心流の創始者の名は──」

「歴史など知りたくはない。お主が剣を知っているなら、ハルに剣を教えてやってくれ」


 のりのりで語り出そうとしたリリアさんの言葉を遮って、セカイがとんでもない事を言い出した。

 私は別に、剣の道とやらに興味はない。剣道部のレイコなら食いつきそうな話だけど、私は帰宅部である。剣を振るって身体を鍛えたくはないし、技もいらない。早く帰って遊ぶか寝たい人だ。


「すまないが、私は弟子をとらん。落花一心流の奥は深く、その道は果てしなく続く。私の腕はまだまだ未熟だ。そんな中途半端な状態で弟子に技を教えるなど、落花一心流の名に傷がついてしまう。だからそれは勘弁してくれ」


 セカイに話を遮られたのが気に入らないのか、リリアさんはむすっとした表情で毅然と断った。

 それでいい。私は別に教わりたくないし。


「断るのか?ロロアの恩人である、ワシの頼みを」

「そ、それとこれとは別だ。私に出来る範囲の事ならやるが、剣を教える事はできない」

「……もしかして、本当は大した腕前ではないのではないか?」

「なに?」

「弟子をとらないのではなく、とれないのじゃろう?今お主が自分で言ったように、腕が未熟すぎて相手より弱く、自信がないから断っておるのではないか?」

「そんな事はない!確かに落下一心流の道は長いが、それと実力がないのとは別問題。自慢ではないが、私の剣の腕は大陸中に響き渡っているのだぞ。凄く強いのだぞ。凄いだろう!」

「そこまで言うなら、勝負してみるがよい。ハルと」

「ひょえ!?」

「いいだろう!ハルカ殿、表に出よ!私の実力を見せてやる!」


 私は弟子になりたいだなんて一言も言っていないし、勝負するとも言っていない。最後に喋ったのは、『なんか強そう』である。私の意思は、2人にやり取りの中には存在しない。

 とりあえず、野菜のスープを飲もう。冷めたらもったいないから。でも、戦うぞって言う熱は冷めて欲しい。私今、上手い事言った。


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