平和で楽しい学園生活
本日二度目の投稿。
最終話になります。
学校につくと、教室にはまだクラスメイト達が全員集合とはいかない。いつもは私が登校する頃には全員席についてホームルームが始まるのを待っているんだけどね。この光景は中々新鮮だった。
そしていつもより早い時間に登校してきた私を、クラスメイト達が物珍しい目で見て来る。朝から何度も繰り返されるリアクションに、もういいってのって感じだ。
「珍しいな、ハルカ。早起き……まさか、結婚か!?」
「まーたくらっちの早とちり推理が始まった……」
登校してきた私の席の周りには、2人の女の子がいる。
片方は背の大きなスラリとした体形の女の子で、名前は倉沢 令子。
もう片方は背の小さな女の子で、名前は藤堂 胡桃。
2人とも高校に入ってからの友達で、親友だ。
「しかしあり得る事だ。昨夜、家の都合でお見合いして、結婚する事になったのだろう?相手は大企業の役員の息子。まだ親から独立したてだがそれなりの地位についていて、稼いでいる。少々内面的な男だが、それが天真爛漫なお前と気が合い話は盛り上がる。そしてお互い惹かれ合い、婚約に至ったのだ」
「それと私が早起きするのと、どう関係あるの?」
「結婚前だが、昨夜は二人で燃え上がったのだろう?つまり、寝た。そして気づけば愛しの彼が出かける時間となってしまい、それを見送るために起きた。という訳だ」
「はは。くらちん、おもしろーい」
「誰がくらちんだっ」
レイコの突拍子のない推理には、もう慣れている。レイコの迷探偵ぶりは有名で、早とちりが凄いんだよねぇ。特に勘違いでクルミに彼氏が出来たと推理した時は、頭のネジが外れて壊れてしまった事もある。
他にも、いつだったかアレは背後から刀で──……刀?なんだっけ。
「もう、くらっち!適当な推理はやめなよ。はるちんは、めーちゃんと結婚するんだからね!」
「む。そうだったな」
「そうそう」
「ふ、二人とも変な事言わないで!私達はその……まだ高校生なんだから!だからまだ結婚しません!」
そんな2人に対し、顔を赤くしながらメイが反論した。
その反論には、色々と突っ込みたい事がある。高校生じゃなければいいんだ、とか、まだという事はこれから結婚するつもりでいるんだ、とか。
勿論私はとしては嬉しい限りである。メイとの新婚生活はそれはそれは楽しい物になるに違いない。
「はいはい、ごちそうさま。で、どうしてあのハルっちがこんなに早く学校にいるの?」
「何か変な夢見て、それで目が覚めちゃったんだよねー」
「ほう、夢か。どんな夢の内容か当ててやろう」
「遠慮しとく」
どうせまた変な推理が始まるだけだからね。だからここはキッパリと断らせてもらった。
「あ、あの、おはようございます、皆さん」
続いて私の席にやってきたのは、登校してきたばかりでカバンを両手で持っている小さな女の子だ。
クルミのように体格の小さな女の子だけど、眼鏡をかけた少しだけ地味目の女の子。だけど可愛い子で、彼女も私の親友である。
名前は、小峰 影夜。
「おっはよー、かげよん!」
「ああ、おはようカゲヨ」
「おはよーカゲヨちゃん」
「おはよー」
私達は口々にカゲヨに挨拶を返すと、カゲヨは笑顔を見せてくれる。この笑顔にやられた男は多い。
特に、今教室の窓から見える校庭でランニングをしているケイジが、心を射止められている。またカゲヨもカゲヨでケイジが気になっているようで、よくケイジの事を聞かれたりもする。
そう。カゲヨとケイジは両想いなのだ。どちらかが告白したら、絶対に上手くいく状況にある。
「ハルカさん、今日は早いんですね。ビックリです」
「夢を見て早く起きちゃったんだって。私も登校する時にハルちゃんに話しかけられて、ビックリしちゃった」
「やっぱり、しますよね」
「うん。するよねー」
『ねー』と、目を合わせて首を傾げる2人の女の子が可愛すぎてどうしよう。慌ててカバンからスマホを取り出して今のシーンを映像として収めようとしたけど、もうそのシーンは終わっている。
「おはようございます、皆さん。今日はシキシマさん、早いんですね」
「ホントだ……。珍しいね、シキシマさん」
続いて朝の挨拶にやって来たのは、男女のペアだ。
女の子方が成瀬 里奈さんで、男の子の方が八木 冬也君。
この2人、大体いつも一緒にいて実は付き合っている。たまに下校途中でちゅーをしているのを見かけるくらいの仲で、でもそういうのは目立たない所でした方がいいと思う。不純異性交遊がなんだとかうるさいからね。
「おっはよー!」
「ちょっと、アソウ君目立つから大きな声出さないで!」
「お前も出してるだろ」
大きな声を出して教室の中に入って来たのは、阿相 大輔君と、河合 朱里さんだ。
この2人も仲がいいけど……付き合ってはいなさそう。なんていうか、付き合いの長い友達って感じ。
その関係が今後進化するかどうかは、2人次第だと思う。
「……お、おはよう」
「声がちいせぇぞ、シバ!声張ってこーぜ!」
密かにアソウ君の隣を通り過ぎて教室に入って来たのは、柴 勝也君。
あまり目立ちたがらない男の子だけど、色々な事に詳しくて賢い男の子だ。
彼が登校してくると、彼にたかったのが工藤君と田島君。彼らはいつもゲームの話で盛り上がっている。
別のグループに目を向けると、海道君や太田さん。佐藤さんと山崎君と植松君がそんな様子を見て笑っている。
教室の隅では、あまり人と話したがらない明方 徹君がいるね。彼が黒髪でおとなしい男の子だと、何故か違和感がある。初めて会った時からそうなのに、不思議だ。
一見すると、いつもの平和な日常。でもいつもと違うのは、朝早くから私がいる事。その後も皆から私が早くからいる事をいじられ、段々とうんざりとしてきた。
そんな私を救ったのは、ホームルーム開始の合図であるチャイムだった。いつもだったら退屈で眠たい授業の始まる合図で聞きたくもない音だけど、皆が各々の席に戻って行って皆の質問責めから私を解放する合図となる。
いや、でもやっぱり嫌だな……。これで授業が始まらなければ最高なんだけど。
でもそういう訳にはいかず、教室の扉がゆっくりと開かれてこのクラスの担任である先生が入って来た。
金髪の、キレイな女教師。それがこのクラスの担任で、彼女が教室に入ってくるのと同時に麦の良い香りが鼻を通り抜けた。
──いや、待った。
このクラスの担任って、男の人じゃなかったっけ。それもこんなキレイな人じゃなくて、もっとこう……絵面の汚いおじさんだった。
「おはようございます、皆さん」
彼女がそう挨拶すると、元気よくクラスメイト達が挨拶を返す。
その姿に違和感はない。私も、確かこの人が担任だったと言う気持ちがある。というかおじさんよりもキレイな女の人が担任の方が嬉しい。だからその違和感はスルーしておこう。
「早速ですが、今日は皆さんに転校生を紹介します。入ってください」
先生がそう声をかけると、女の子が教室の中に足を踏み入れて来た。
銀髪の、美しくて幻想的な女の子。長すぎる髪の毛は編み上げた上でリボンで結んでいて、いつもと少し雰囲気が違く見える。同級生と言うには背が低く、幼すぎる気がする。でも制服はよく似合っていて、彼女の魅力を引き出している。
彼女はあの日、幼い頃に出会った少女そのままの姿だ。
「セカイ!」
私は彼女の名を呼んで立ち上がった。
彼女とは、ちょくちょく会って話をしている。ただ、驚いた。突然同じ高校生になるとか、そんなの聞いていなかったから。
私がセカイの名前を呼んだ事で、教室がざわめいた。驚いたのは私だけではない。セカイを知っているメイやケイジも驚いている。
そのざわめきは、先生が制して静かになった。
「では、自己紹介をしてください」
「ワシの名は、セカイ。いい加減ワシも自分の気持ちに嘘をつけなくなってきたのでな。ハルと同じ学園生活を送らせてもらう事にした」
「自分の、気持ち?」
「そうじゃ。ワシは、ハルを愛している!じゃからワシのおらん所で、ハルがメイとイチャついて独占するのは許せん!」
「ハルっちがまさかの三角関係!?」
クルミが大きな声でそう言って、教室中がざわめいた。そして皆の視線が私に向く。その目は私を蔑む目と、好奇の目が入り交じっている。
「……私とハルちゃんがイチャつくのが許せない?」
「め、メイ?落ち着いて。私は──」
「上等だよ!どっちがハルちゃんに相応しいか、勝負しよう!」
「望むところじゃ!」
「ていうかセカイちゃん、昔から姿形が全く変わってないけど同い年なの!?」
「そうじゃ!そういう設定じゃ!大体にして、ワシが先にハルに告白されたのじゃからな!お主のアレは、二番目じゃ!二番目は二番目らしく、遠慮してもらおう!」
「んなっ……い、一番とか二番とか関係ないし!問題は、愛の大きさだよ!」
「えー……」
メイがセカイに挑み、セカイもその勝負を受け入れた。
クラスメイト達は更に盛り上がり、そのボルテージはピークに達する。
私の気持ちは……もう決まっている。私もセカイが好きだ。メイも好き。どっちかなんて選べない。2人とも、愛してる。
2人がこの選択をどう受け止めてくれるかは分からないけど、でも私は嬉しい。こんなに可愛い女の子が私を想ってくれているんだよ。私は幸せ者だ。
そしてこれから始まろうとしている学園ラブコメに、心が躍る。どんな出来事が待っているのだろう。きっと……いや、絶対に……平和で楽しい生活になるに違いない。
これにしてこの物語は終わります!お付き合いありがとうございました。
そして少し疲れたのでしばらく充電期間に入ります……