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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
ふりだし──これから──
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平和な一日の始まり


 あの日、セカイ達と出会ってからしばらくの時間が経過した。

 現在私は高校生となり、平和な学園生活を送っている。

 この日も朝起きて身支度を整え、学校に行くところである。

 ただ、今日はいつもと違う。私は基本朝に弱いので、いつも学校に向かう時間は遅くなる。でも今日は何故かいつもよりだいぶ早く起きて、身支度を整えた所だ。


「おはよー」

「……」


 部屋で着替えを済ませ、リビングへとやってくるとそこにいた私の家族一同が固まった。


「お父さん、遅刻!これお弁当ね!」

「あ、ああ、そうだな。それじゃ、父さんもういくから」

「私も行かないと!」


 次の瞬間、私の家族たちは急いで出掛ける準備を始めた。まだ出掛ける時間ではないのに、私が起きて来た事によって彼らは時間を見誤ったと勘違いしたのだ。


「落ち着いてよ、皆。まだそんな時間じゃないから」

「……あ、ああ、そうだな。そうみたいだ」


 お父さんが壁にかかっている時計やら、テレビの端にうつった時計を見比べてようやくいつもの時間だと気が付いた。

 慌てて席をたとうとしたその腰を再びイスの上におろし、安心したように息を吐く。


「ホントに慌てた……」

「一瞬何がおこったのかと思ったわよ」


 私の可愛い妹の秋帆──アキも、お父さんと同じように席に戻って机に突っ伏す。

 お母さんも、慌てて準備した皆のお弁当を机におき、ため息を吐いた。

 皆の反応からお察しの通り、私の朝の弱さは家族公認である。いつも遅刻ギリギリを攻めていて、時間ギリギリの無駄のない朝を過ごす女。それが私である。


「私だって、たまには朝早くおきる事くらいあるよー」


 言いながら、私は自分の席についた。


「ハッキリ言って、お姉ちゃんがこんなに早く起きて来るなんて奇跡に近いから。だからこっちは慌てたって訳。自分が奇跡をおこしたっていう自覚をもって」


 アキが不機嫌そうに抗議して来るけど、その姿もまた可愛い妹である。

 私はなだめるようにアキの頭を撫でてあげると、アキは黙ってなでなでを受け入れて少し落ち着いた。


「アキは相変わらずお姉ちゃんのなでなでに弱いわねぇ。ちょっと心配になるレベル」

「お、お姉ちゃんのなでなでが気持ちよすぎるのが悪いの!私のせいじゃない!」


 アキはお母さんに指摘されると私の手を払いのけるようにして立ち上がり、お弁当を手にした。


「ちょっとだけ早いけど、もう行くから」

「えー、もう?一緒に行こうよー」

「私と一緒に出掛けたかったら、もうちょっと早く起きないとね。そしたら一緒に行ってあげる」

「よーし、それじゃあお姉ちゃん、ちょっと頑張ってみようかなー」

「せいぜい頑張って。それじゃ、いってきまーす」

「いってらっしゃい、アキ。気を付けてね」

「いってらっしゃい」


 アキがお父さんとお母さんに見送られ、家を出て行った。私も手を振ってリビングから見送り、その間に自分の飲み物を準備しておく。


「それで?どうして今日はこんなに早く起きたの?」


 戻って来たお母さんが、私の朝ご飯を準備しながらそう尋ねて来た。

 勿論それには理由がある。昨日早く寝たとかそんな事ではなくて、もっとナイーブで、繊細な理由だ。


「夢を見たんだよね」

「夢?」

「うん。なんか凄い夢で、私が凄い力を持っていて、大きな狼にのって森の中を駆け抜けたり、友達を守るために戦ったり、何かあり得ない人が本当は凄い性格悪くて、襲われたりする夢」


 それは悪夢のようであり、でも悪夢ではなかった。その夢の中には私の大切な子がいて、私はその夢の中で見た旅の中でその子と出会い、その子の事をどんどん好きになっていく。

 中には堪え難い出来事もあったけど、でもその夢の中で大切な仲間もできた。

 でもそんな皆とお別れするのが嫌で、やっぱり悪夢っぽくなって目が覚めてしまったのだ。手を伸ばし、掴もうとした大切なあの子は目が覚めた時に傍にいてくれなくて……それが寂しかった。

 そして早く会いたくなった。


「なに、それ。あんた、ゲームのしすぎじゃないの?」

「そんなにしてないってぇ。友達に借りたり、オススメされた物をやる程度だっての。凄い人はホントに凄いんだよ」

「はいはい。でもやり過ぎないように」

「はーい」


 予想外の話になり、怒られてしまった。

 それから私も朝ご飯を食べ、お父さんが出かけていくのを見送り、私も家を出た。その足取りは軽く、いつものように急いで学校に向かう必要もないのに、軽く走りながら道を進んで行く。

 その途中で、私はその背中を見つけた。他にも同じ制服をきた同じ学校の生徒はいるんだけど、その中でその背中は一際美しく、輝いて見えてしまう。

 その原因は、初めて出会った時から私は彼女に惚れているからだろう。


「──おはよう、メイ!」


 その背中に声をかけると、彼女が振り向いた。そして驚いた表情を浮かべる。あまりに驚きすぎて、周囲を見渡してから腕時計に視線を落として時間を確認すると言う行動に出た。

 その辺の反応は私の家族と同じである。


「お、おはよう、ハルちゃん。驚いたよー」

「私の顔を見ただけで驚くとか、失礼じゃない?」

「だって……ね?」


 申し訳なさそうに言う女の子の表情が、もう可愛くてたまらない。

 この子は宮内 芽衣子──私はメイと呼んでいる。幼いあの日、セカイと共に同じ日に出会った人物で、私は幼いながらも彼女に一目ぼれ。出会ったその日に結婚を持ち込んだ、けっこうヤバイ黒歴史がある。

 でも後悔はしていない。あの日、私はそうせずにはいられなかった。心がざわめいて、自分の気持ちを素直に伝えたその行為を私は恥じない。それに告白したからこそ、私は彼女と仲良くなれたんだ。メイも最初は戸惑っていたけどなんやかんやで受け入れてくれて、どんどん仲良くなれて……あの時の告白をメイはもう覚えていないかもしれないけど、私達の距離は結構近い。


「はいはい、私がこんな時間に登校するとか珍しいですよ。アキには奇跡って言われたよ」

「ホントにアキちゃんの言う通りだよー。でも嬉しい。高校生になってから初めて一緒に登校できるね!」


 メイが本当に嬉しそうに笑顔でそう言うと、私の手を握って来た。私もその手を握り返し、手を繋いで歩き出す。

 メイの手、柔らかー。それと、あったかー。幸せ過ぎて、鼻血が出そう。

 これから学校に行かなくてはいけないという、憂鬱な朝のひと時を彼女は至福の時に変えてくれる。そういう存在だ。


「んぁ。おい、メイコ!それとハルカ!なんでこんな時間にいるんだよ!」


 そこへ、野太い声の持ち主が話しかけて来た。

 振り返ると、ガタイのいい男の子がいる。目つきが鋭いし見た目は怖いけど、私とメイと彼は幼い頃からよく遊ぶ仲であり、見知った顔である。

 彼の名前は大磯 啓二──彼は私の事をハルカと呼び、私も彼の事は名前でケイジと呼んでいる。


「私だってたまには早く起きる事くらいあるよ。まぁほぼないけど」

「早いったって、まぁ普通な時間なんだが……まぁいい!珍しい事だし、せっかくだから走るか!」

「誰が走るか!」

「お前が走らなくともオレは走る!それと、シュースケもな!」

「えええ!?」


 タチバナ君と歩いてやって来ていたタチバナ君がいきなり指名され、声をあげた。

 彼は立花 周介君。ひょろ長のメガネ男子で、髪の毛には寝癖がついているし気弱そうでだらしがなく、いまいち男らしくない。

 でもケイジの従妹の女性に幼い頃に惚れ、でもその女性が結婚してしまって他の男の物になった今も密かに彼女を想い続けており、そこは一途で男らしい。でも彼女は旦那さんととても仲良くやっていて子供も出来ており、付け入る隙がないので諦めた方がいいと思う。

 そんな彼ともケイジと同様私は幼馴染である。


「大変だね、タチバナ君も」

「そ、そう思うならケイジ君の暴走を止めてください!」

「無理」

「行くぞ、おらぁ!」


 私が笑顔でそう言うと、タチバナ君はケイジに手を引っ張られて無理矢理走らされ、去って行ってしまった。

 ケイジは相変わらず体育会のノリで、しかも子供っぽい。それに巻き込まれるタチバナ君を、私は幼いころから見て来た。かわいそうではあるけど、タチバナ君もケイジとのつるみを嫌がっている訳ではない。いつも最終的には仕方がないといい、付き合ってあげる優しい男の子である。


「二人とも相変わらず元気だなー」

「いや、一人は嫌々だけどね……?」

「そうかな?ああ見えてしゅーちゃんも、楽しんで自分からすすんでついて行っているんだと思うよ。それに二人は親友だし、何があっても離れる事のない固い絆で結ばれているんだよ」


 そう言い切るメイが、私の目には眩しく見える。私にはどうしても、タチバナ君がケイジと同じタイプには見えないからだ。私の目にはもしかしたらフィルターがかかっているのかもしれない。そのフィルターを外してみれば……この通り。走り去っていく2人の背景にバラが咲き、BL空間が出来上がってしまった。

 なんにしても邪な事になってしまう。諦めよう。


読んでいただきありがとうございました!

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