世界の中心に
神様のその笑顔の意味が分からず、混乱してしまう。
笑顔だから、会えるって意味なのだろうか。それとも、無理に決まっているだろうの笑顔なのだろうか。分からず、私はただおどおどとして神様が言葉で返してくれるのを待つしかない。
「──会えますよ。貴女が大切に想ってくれている彼女は、この世界の中心にいます。そこでこの世界の神様にお願いしてみるといいでしょう。貴女がお願いすれば、きっと受け入れてくれるはずです」
「この世界の、中心……?」
「貴女がこの世界に現れた場所。この世界の全ての生物が還る場所。始まりの地」
「……世界樹!そこに、セカイがいるの!?」
神様が示した場所に、心当たりはそこしかない。
「はい」
そして神様は、ハッキリと頷いた。
そこにセカイがいる。また、セカイと会える。嬉しくて、私はまた涙を流した。今日は何回涙を流せば済むんだっていう話だ。
「行かないと!馬借りるね!」
私は駆け出し、カゲヨとケイジが乗って来た馬に飛び乗る。と、馬を驚かしてしまったようだ。でも頭を撫でると落ち着いてくれて、すぐに体勢を整えてくれる。
「行くって、世界樹にか!?あそこは危険だぞ!」
「分かってる。でも大丈夫。友達もいるし、問題ない!」
世界樹に向かうと聞き、ケイジが心配してくれたけど本当に大丈夫。あの森には私の大切な友達や、師匠に、師匠の妹もいる。知り合いだらけである。ほぼそれだけだけど。
「それじゃあね、皆!後はよろしく!」
「気を付けてくださいね、ハルカさん!」
セカイに対する私の想いを知っているカゲヨが、笑顔で私に声をかけてくれた。
セカイとまた会えると知った私の気持ちを、カゲヨは理解してくれている。止めるのではなく、見送ってくれようとしている。
「ハルカ──行く前に、もう一度だけ謝らせてくれ!本当に、すまなかった。自分を見失っていたとはいえ、友にあんな事をして友の大切な人の命を奪ってしまった事に変わりはない」
「確かに、凄く痛かったなぁ。コレはちょっと、レイコに色んな事をしてもらわないと割に合わないね」
「っ!も、勿論だ!お前に赦されるためなら、なんだってする!赦してくれなくとも何でもするぞ!」
実際胸に風穴があいたし、その後はセカイを失うと言う衝撃的な出来事が訪れて、心身ともにズタボロにされたのは事実。でも、怒ってはいない。
冗談で責めるように言ったんだけど、レイコにそんな冗談は通じなかった。
何でもしてくれるって、エロい事でもいいんだよね。レイコの身体を自由にできる──それはとても魅力的で、私の中の欲望をくすぐられる。けど首を振って欲望を振り払った。
必死にそう言ってくるレイコに、ちょっと配慮が足りなかったね。ちょっと反省。
「冗談だよ。でもそうだなぁ……セカイを連れて帰るから、そしたらセカイと友達になってあげて。きっと二人も仲良くなれるから」
「……ああ」
レイコは物足りなそうに頷いたけど、それだけでいい。
私は生きているし、セカイともまた会える。だから、レイコが責められる必要はない。
「くらちんは任せておいて!ハルっちはセカっちゃんを、ちゃんと持ち帰ってね。でも、ホント気を付けて」
「うん。クルミ、ありがとうね。セカイと結託して味方してくれて、嬉しかった」
「それはうちの台詞だよ。くらちんを止めてくれて、ありがとう……」
クルミも笑顔を見せて、私を見送ってくれる。
「……戻ったら、飯を奢ってやる」
続いて静かにそう言って来たのは、ケイジだ。
「本当!?それじゃあ最高級のお肉が食べたい!」
「おい、どんだけ食いつくんだよ……。だがまぁ、いいだろう。奢ってやる。すげぇ良い肉をだ」
「やった!」
帰ったら楽しみが出来た。セカイと一緒に、ケイジに奢ってもらってお肉を食べるという楽しみだ。
私は良い友達をもったなぁと、皆の顔を見渡してしみじみとそう思う。タチバナ君さえいなければ、皆本当にいい意味で普通で、元の世界でもこんな風に過ごせていたんだな。
それは、この世界に来なければ分からなかった事だ。この世界に来てタチバナ君に皆で立ち向かい、勝利した今だからこそ分かる。
失った物は多すぎるけど、せめてセカイが戻ってきてくれればまだ希望はある。だから私は馬を走り出させ、世界樹の方へと向かった。
でも方向が分からない。適当だ。でも合っていると思う。神様も、誰も呼び止めたりはして来ないしね。
進んでからしばらくして、辺りが霧に包まれた。この現象には見覚えがある。迷いなく霧の中を突き進んでいくとやがて霧がはれ、そして気づけば目の前に巨大な木が立ち並ぶ森が出現した。その森の向こうには、更に巨大な木──世界樹の姿を見る事が出来る。
「……ありがとう、神様」
朝を迎え、大地を明るく染める太陽に向け、私はお礼の言葉を呟いた。
向かう方向など、どこでもよかったのだ。神様の不思議な力により、私は普通なら数日はかかりそうな道のりをたったの数十分で通り抜けてしまった。
セカイに早く会いたくてうずうずする私の気持ちを、神様が察してくれたんだと思う。神様のサービスを無駄にしないためにも、私は迷いなく森の中へと突っ込んだ。
「──シキ!お願い、来て!」
そして友達の名を呼ぶ。
と、意外にもすぐにその巨体が姿を現わし、私の声に応えてくれた。
馬が驚き立ち止まると、私は馬から飛び降りてその巨体に駆け寄る。
「久しいな、ハルカ。どうしたのだ、そんなに慌て──」
私はシキに抱き着いた。久々のシキのもふもふを堪能しつつ、でもそんな場合ではないと首を振って正気に戻る。
「シキ、お願い!私をセカイの所に……世界樹に連れて行って!今すぐに!駆け足で!全力で!」
「世界樹に、セカイがいるのか?よく分からん。我は気づいたらこんな場所にいて、そこでハルカと久々に出会ったのは偶然か?」
偶然じゃない。たぶんシキがすぐに迎えに来てくれたのも、神様がしてくれた事だ。
「説明は後!いいから、お願い!」
「……分かった」
シキはそう言ってくれると、まず私が乗って来た馬に付けられた鞍を、爪で切り裂いて外してあげた。
「自分の家へ帰れ。出来るな?」
馬に向かってシキがそう語り掛けると、馬が鳴いてから走り出す。たぶん、自分の家に帰って行ったんだと思う。
シキ、優しい。
「乗れ!全力で行くぞ!」
「うん!」
私がシキに飛び乗るのと同時に、シキが駆けだした。
荒々しく、でも私が振り落とされないように衝撃は最低限で、急いで世界樹の下へと向かってくれる。説明も、何もしていないのにね。ホント私、良い仲間に恵まれているなと思う。