第83話_美人
ラターシャとのデートを終えた私は如何にラターシャが可愛かったのかを五人部屋で語ろうとしたのだけど、本人に止められたので叶わなかった。仕方ないか。私の心だけで留めておこう。
翌日は予定通り、みんなで小さな誕生日会を開いた。ルーイと一緒に作ったフルーツケーキは、欲張ったルーイのお陰でフルーツがちょっと零れんばかりだったけれど、みんな楽しそうに笑っていたから良かったのかな。
そうしてのんびり日々を過ごしていたある日の昼下がり。私が本屋に行くのにみんなが付いてくると言うので、五人で街中を歩いていた時。
「おーい、アキラ!」
大きな声で私の名が呼ばれて振り返れば、大柄な男四人の集団が居た。迫力あるなぁ。
「ガロ、久しぶり。連絡よりも更に早かったね?」
みんなに「ちょっと待ってね」と目配せをしてから、ガロの方へと歩み寄る。
「ああ。天候にも恵まれたお陰だろうな、今からケインの宿に行こうと思っていたんだ」
それは丁度良かった。入れ違いになっちゃうところだったね。まあそれならそれで伝言を残してくれたとは思うけれど、二度手間にならないに越したことは無い。
「それで報告なんだが」
「おいおいガロ、こんな美人なお嬢さんだったとは聞いてないぞ!」
突然、話し途中にガロの背後から、彼とあまり変わらないくらいの体躯をしたおじさんが覗き込んでくる。ガロは眉間に皺を寄せると、おじさんを強引に後ろへと追いやった。
「……すまん」
「ふふ。褒め言葉だから良いよ」
男四人とは言うけれど、賑やかそうなパーティーだな。ちょっと笑って、それから私達は今夜、街の東の端にある酒場で会うことを約束した。報告は手紙でも受けているけれど、それ以外にも色々話したいことがある。その酒場はガロの知り合いの店らしく、個室で飲むことが出来るそうだ。ゆっくり話すには丁度いい。しかもガロが私の宿まで迎えに来てくれるとのこと。魔術師を隠してしまうと、私はただの無防備な女だからだね。ありがたいね。
「じゃあまた夜に」
「ああ」
この街に到着した足で私の宿に向かってくれていたのだろう。まだ大きな荷物を抱えている。夜までゆっくり休んでくれたらいいけれど。離れて行く大きな背中を少しだけ見送って、待たせていたラターシャ達を振り返った。
「ごめん、行こうか」
「うん……えっと、アキラちゃんの知り合い?」
「そう。アンネスの町で会ったんだ。夜一緒に飲んでた『友達』だよ」
私の言葉にラターシャは話題を思い出した様子で「ああ」と声を漏らした。みんなを促して、改めて本屋に向かって歩き始める。しかしみんなはまだ離れて行くガロ達の背中を気にしていた。
「冒険者っぽかったねー」
「うん、そうだって言ってた」
「アキラちゃん、怖くないの?」
「あはは、ガロは優しいよ、大丈夫だよ」
そう返しても、ルーイは少し不安そうな顔で私の横にピタリと寄り添う。どうやら身体が大きなガロが怖かったみたいだ。まあ、組織の男達も大きかったもんな。大きな男は反射的に怖いって刷り込まれているのかも。大丈夫だよって改めて伝えるように、ルーイの頭を何度も撫でる。
「それにしても、美人ってこっちの世界で初めて……あれ?」
「どうしたの?」
ちょっと待って。そういえば私、こっちの世界に来て『美人』って言われたの初めてだな?
「もしかして私、……美人ではない?」
「いやいや、今さっき言われたばっかりじゃん。どうしたのアキラちゃん」
リコットが堪らない様子で噴き出して笑うけれど、私は真剣な表情のままで考え込む。だって美人ってもうちょっとほいほい言われてたよ。元の世界では。今まで考えてなかったが美醜の感覚がこっちと元の世界で違う可能性もあるのでは? 深刻な気持ちになり始めたところで、リコットが笑いながら続ける。
「アキラちゃんは美人だよ。ねえ?」
「うん、私も綺麗だと思うよ」
「初めて見た時、ちょっと怖かったけど、綺麗な人って思ったよ」
ラターシャとルーイも続いてくれた。ルーイが怖かったのは、まあ、あの騒動の中だったせいだね。あの時は驚かせてごめんね。みんなの言葉に『本当』のタグが出たのを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。
「あー、良かった。私の良いところなんて顔と頭くらいだから、片方無くなったのかと思ったよー」
「……自覚あったのね」
「うん、女の子はそれで口説いてきたからね!」
「嫌味が通じないところはバカだけれどね」
ん? 嫌味? 何が?
よく分からないけどナディアも私を美人とは認めてくれているみたい。良かった。元気を取り戻した私の表情を覗き込んできたリコットは、私の左の目尻を指先で突く。
「アキラちゃんのこの二つのホクロも、色っぽくて好きだよ」
「ありがとう! いいでしょ、二つ星。私もお気に入りなんだ」
私の左目の下にはホクロが横に並んで二つある。特徴的だし、今までも可愛いって色んな人が言ってくれたから私も『二つ星』と呼んで大事にしている。別に大事にしなくても消えたりはしないんだけどね。
「もう、リコットあまりその人を調子に乗せないで。早く本屋に行きましょう」
「はーい」
ナディアに注意されるなり、リコットが後ろ髪引かれる様子無く踵を返してさっさと離れてしまったこと、別に悲しくなんてないんだから。




