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PASTIME!!!  作者: 暮
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第81話_東の塔

 ちなみに、ラターシャが人族とのハーフであることも間違いないようだ。寿命に関しても嘘は無いようだし、心の底から安堵した。

「以前はね、病気のお母さんを置いて行くんじゃないかって不安だったけど。今はもう、これで良かったなって思うの。……アキラちゃんもみんなも居ない世界に、一人だなんて嫌だから」

 私の袖を握る力が少し強まる。握り返してあげられないのはちょっともどかしいけれど、笑みを向ければラターシャも少し頬を緩めて応えた。

 もしもラターシャにエルフと同じだけの寿命があったら、エルフが共に生きてくれない世界では、誰もがラターシャを置いていってしまうのだろう。元を辿れば長命の特性を失うことを『毒』と呼んで嫌ったのだから、同じ寿命があればハーフエルフを受け入れていた可能性もゼロでは無い。ただ、それは低い可能性である気がした。きっと彼らは、湧き上がった嫌悪に尤もらしい理由を付けただけだ。寿命が同じなら次は別の『違い』を見付けて『毒』と呼んだに違いない。……実証しようのないことではあるが、何となくそう思う。ラターシャの言葉に「そうだね」と返してしまうには「命の長さ」の話は軽くない。けれど正直、私も同感だった。

「見て、アキラちゃん、塔の入り口、見えてきたよ」

「本当だ。そんなに混んでなさそうかな?」

 ちょうど東の塔に到着して、私達の会話は一度終了した。私は消音魔法を解く。掛けたままで特に支障はないが、盛り上がって喋っているのに音が聞こえなかったらそれはそれで目立つのでね。道中はそんなに人が傍に居なかったから良かったけど。

 そして塔の入り口は、数名の観光客が居るだけで、列などは無かった。日の出や日の入りの時間は時期によっては混むこともあるそうだけれど、今はその時期でも時間帯でもない。ゆったりと観光できそうだと予想した通り、中に入り込んだ私達が人ごみに揉まれることは無かった。

「わぁ、高い! ふふ、ねえ、端に立つと、アキラちゃんと飛んでる時みたいだよ」

「そんなに乗り出したら落ちちゃうよ、ラタ」

 塔の天辺へ出ると、見晴らしが良くて、絶景だった。確かに私が空を飛んでいる時の高さに近いかな。場所によってもっと高く飛んだり、低く飛んだりと高度は変えるけれど。ラターシャは消音魔法を使えないから、飛ぶ、という言葉はこそっと私に耳打ちするように告げてくる。可愛いねぇ。

 屋上には安全の為の柵が設けられているが、胸より下の高さだ。あんまり身を乗り出せば本当に落ちてしまう。私が注意してもラターシャは聞こえてないみたいにぴたりと柵に寄り添って、真下の様子を見るなどちょっと危なっかしい。ただ、こうして高い景色を喜ぶ様子を見る限り、空を飛ぶ時に少し怯えるラターシャは、高い場所じゃなくて足が地面に付いてないのが怖いんだな。空飛ぶ絨毯の形にでもすれば安心するのだろうか。そういう問題でもないか。

「アキラちゃん、ねえ、あっちにね」

「うん」

 塔に入ってからずっと、ラターシャがはしゃいでいる。アキラちゃん、アキラちゃんって私を呼んでは、何かを指差して笑う。二人きりで居た頃と比べて少しずつ、彼女は子供らしい振る舞いが増えた。ルーイが傍に居ることもあるだろうし、誰かと共に過ごす日々に慣れてきたこともあるだろうし、頼ることを覚えたせいもあるかもしれない。何にせよ、私にとっては嬉しくて愛おしい変化だ。

「ラタは最近、ルーイと遊んでることが多いね。二人で何を話してるの?」

「え、何って言うほどのことは無いんだけど……」

 三姉妹が旅に加わった最初の頃は、ぎこちなくもラターシャの方から積極的に三人へと声を掛けていたと思う。彼女なりに、まだ私や周囲に怯えている三人を気遣ってくれていたんだろうな。私はラターシャに脇腹を抓られるほど悪党みたいなことしか言えないし、代わりに彼女が三姉妹へと柔らかく接し、優しい言葉を掛け、そして私の発言を一つ一つ窘めてくれたことは、本当に助かっていた。私にとってと言うか、多分、三姉妹にとって。

 さておき、そんな彼女は最近、特にルーイと二人で過ごしていることが多いように見える。勿論、普段は全員一緒に居るんだから完全に二人きりになっているわけではないものの、一緒に行動していたり、二人で何か熱心に話し込んだりしていることが多かった。

「私はちょうど、リコットとルーイの真ん中の歳でしょ? 今は十六歳だから、少しリコットに近いけど」

「そうだね」

 リコットとは三歳差、ルーイとは四歳差になる。まあ、ナディアとも四歳差だから、姉二人と末っ子の間になるかな。

「でも、何だか三人共ちょっと大人びてて、ルーイが一番、私と精神年齢が近いのかな、話しやすいっていうか……」

「あはは! 可愛い理由だった」

 思わず笑ってしまったせいで、ラターシャがちょっと恥ずかしそうに頬を染めて項垂れている。

「私が子供っぽいのかなぁ」

「いや、ラタも大人びてるよ。三人は、そうだね、きっと今までの環境が悪過ぎたんだね」

 ルーイはそれでもかなり子供らしく『振舞って』いるけれど、それは姉二人が彼女を子供扱いして、世話をしたがるのを受け止める意図も感じられた。勿論そんな二人の教育と愛情が上手く働いて、ルーイの中にはまだ綺麗な形での『子供らしさ』も沢山ある。

 ラターシャもエルフの里ではお母さん以外に頼れる相手はおらず、そんなお母さんも病に臥せってしまってからは支える為に子供では居られなかったに違いない。その一方で、おそらくお母さんはラターシャを沢山、愛してあげていたんだろう。ラターシャの中には十六歳にしては珍しいくらいの無垢さがある。

 ルーイとラターシャはどちらも、そんな風に、子供でありつつも歪に大人でいなければならなかった心があって、ただの子供でも、ただの大人でもないからこそ、近い価値観と波長があるのかもしれない。外に多く触れていた分、ルーイの方がちょっと世俗に慣れているだけだ。

「嬉しいね」

 私の言葉にラターシャは少し沈黙して、ふわりと笑みを浮かべた後で、噛み締めるように「うん」と言った。

 歳の近い「友達」なんて、無縁だっただろうから。三姉妹を迎えたことは百パーセント私の都合だったけれど、ラターシャにとっても少なからず喜びがあるというのは、幸せなことだと思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1/10までに子供の寿命が削られるのは流石にキツイよね、そしてそれは村にまで伝染する!
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