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PASTIME!!!  作者: 暮
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第79話_ラターシャの誕生日

「――ところでラターシャは本当に何も、欲しいものは無いのかしら」

「え、急になに、ナディア」

 新しく運ばれてきた食事の感想を言い合っている内にいつの間にか先程の話が流れ、穏やかな空気になった頃合い。突然ナディアから向けられた問いに、ラターシャは目を丸める。

「物じゃなくたって、そうね、何かお願いとかでも良いのではない?」

「おねがい……」

「アキラちゃんに直してほしいところとかー?」

「それただの文句だよね?」

 続けられたリコットの提案に思わず声を上げる。私に文句があるのは構わないんだけどせめて日頃から言ってほしい。本人の誕生日にまとめてぶち撒けられるのは辛いでしょ。そんな私の訴えには楽しそうに笑った後で、ラターシャは考え込むように視線を少し上に向けた。それから数秒後に「あ」と言って、すぐに「いや」と言う。絶対に何か思い付いたじゃん。掻き消しちゃったよ、どうしてよ。

「どうしたの、ラタ。言っていいよ」

「いや、うーん、でも」

 渋る彼女に、三姉妹から「何?」と口々に追撃を受けてしまったら、ラターシャは見る見るうちに赤くなっていく。ラターシャって困った顔が可愛いんだよな。誕生日の彼女を困らせている状況なんて大変良くないのに、そんなことも失念して私はのんびりとその様子を眺めていた。追及に耐えかねたラターシャが、喉の奥で少し唸る。

「……アキラちゃんと二人で、ゆっくりお出掛けしたい」

 うちの子がめちゃくちゃ可愛くて叫びそうだ。

 今日も昨日も散々一緒にお出掛けしていますが、二人ではなかった。最近はみんな一緒に行動することが多く、二人きりでのんびり過ごすことが少なくなっていたから、少しラターシャは寂しかったのだろうか。そんなに恋しく思ってもらえる要素が私にあるのかは分からないけれど。

「その、みんなと一緒なのが嫌なわけじゃなくて、何て言うか」

「大丈夫よ、ちゃんと分かっているわ」

 何処か慌てたように補足するラターシャに、ナディアが柔らかな声でフォローをしている。リコットとルーイも頷いていた。

「ラターシャとアキラちゃん、当日は二人で出掛けてきたら? 宿での誕生日パーティーはいつでも良いじゃん」

 そうですね。みんなでパーティーは後夜祭として誕生日の翌日に開催するとして、当日は私がしっかりお祝いしますか。今日もお祝いはしたけど、食事以外は完全に私の趣味に走っていたからね。

 私が諸々を快諾したら、三姉妹が何故か保護者の顔で満足げに頷いている。ルーイまで……。私、そんなに日頃からラターシャに構ってなかったかなぁ。一日一回は欠かさず撫でているし、弓の練習もちゃんと毎日見ているのに。多分、そういうことじゃないんだろうな。反省しよう。

「誕生日の当日くらいは余所見をしないで、ラターシャのことだけを見てあげるのよ」

「あはは、勿論だよ」

 ナディアから念を押されてしまって笑う。ラターシャは少し、照れ臭そうに視線を落としていた。

 その後、上質な生クリームをふんだんに使ったケーキが運ばれてきて、みんなで舌鼓を打って満足したところで、本日のラターシャお誕生日会は終了した。勿論、宿までの道も馬車で送ってもらう。慣れないヒール付きの靴で、長々と歩かせるわけにはいかないからね。


 そして二日後、ラターシャの誕生日。みんなで朝食を取ってから、私とラターシャは出掛ける準備をしていた。

 ラターシャの装いは先日私が新しく購入した可愛いワンピース。よく似合ってる。三姉妹からも口々に褒められて、ラターシャの可愛いとんがり耳が真っ赤になっていた。

「じゃ、行こうか。昼も夜も外で食べてくるよ」

「分かったわ。楽しんできてね、ラターシャ」

「うん、ありがとう」

 三姉妹に見送られて、揃って宿を出る。そんな三姉妹は今日どのように過ごすのか何も聞いていないが、まあ、守護石もあるし、三人は今までの経験から危機管理能力が長けている為、心配は無いだろう。大通りに向かいながら、宿に残してきた彼女らのことを思考から避けて、隣を歩くラターシャを見やる。二人で歩くの、本当に久しぶりかもしれないね。

「手でも繋ぐ?」

「えー、嫌」

 流石に「嫌」は酷くないですか? しかもすごく爽やかな笑顔で言われてしまった。がっくりと肩を落としていると、くすくすと笑ったラターシャが「でも」と続ける。

「袖、持ってていい?」

 私の肘の少し下辺りの袖が、ラターシャの小さな手できゅっと掴まれる。手を繋ぐより可愛いんだけど。思わずデレデレと緩む頬をどうしても抑えきれない。

「勿論。だけど、手もいつでも大歓迎だからね」

「はいはい」

 呆れた返答だったのに、顔は笑顔だった。今日のラターシャはご機嫌だな。私と二人で出掛けることの何をそんなに嬉しく思ってくれるのかは分からないが、可愛くって堪らないな。これは余所見なんて出来そうにもない。

「じゃあ露店でも冷やかしながら、街の東の塔に向かいましょう」

 今日のデートコースは私のお任せと言われた為にこうして一方的に目的地を述べているのであって、今日も今日とて身勝手に振り回そうとしているわけではない。ラターシャが目的地に反対することは当然無く、ただ、不思議そうに首を傾ける。

「東の塔?」

「うん、昨日、宿の女将さんに聞いたんだけどね」

 レッドオラムには西と東にそれぞれ立派な塔が立っており、魔物などに対する見張り台として使用されているとのこと。ただ、東の塔に限り、見張り兵が待機している部屋以外は一般公開されている。街中や周囲が一望できるとあって、私達みたいに他の街から来た旅人もよく観光として訪れるらしい。それに東側にはお洒落なカフェも立ち並んでいるそうなのでね。お昼はその内の一つで取ってもいいだろう。

 私の提案にラターシャは無邪気な笑顔で頷いて、私の袖をきゅっと強く握った。可愛いなぁ。今日のラターシャがどんなに可愛くて仕方が無かったかって話、三姉妹の誰なら、最後まで聞いてくれるだろう。

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