第77話_祝い
「でも今日、此処を押さえたのはもう一つ理由があってね」
「更に何か新しい話をしようとしてる……」
リコットが苦笑いと共に合いの手を入れてくる。これは緊張を見せた他の子らを和まそうとしている、彼女なりの気遣いだ。ありがたい。伝播してみんなも緊張の顔から呆れや苦笑いに変わってくれた。
空気の緩みに合わせて私も緩く伝えようとしたら、タイミング良く、食前酒と前菜が運ばれて来た。そうだね、乾杯する時であるのは正しいことだったかもしれない。
「言ってないことはこれが最後。ラターシャの十六歳のお祝いがしたかったんだ」
「あっ、そうか、明後日だ!」
私の言葉に先に反応したのはリコットで、一拍遅れて、ラターシャが目を見張った。
「ちょっと待って、リコット……アキラちゃんも、どうして知ってるの?」
どうしてって、ねえ。
確かに私はラターシャから『誕生日』そのものは聞いていない。けれど、出会ったその日に『来月』とだけは聞いていた。だからリコットに協力を仰いで確認したんだよ。真偽のタグで。そう告げれば、ラターシャが大いに脱力していた。「普通に聞いてもいいでしょ」と弱々しく訴えてくる。まあね、でもサプライズも楽しいかなと思って。勿論、私がね。
「当日は予約がいっぱいで取れなくて、今日になっちゃったんだけど。とにかく、十六歳おめでとうラターシャ」
三姉妹も口々にラターシャへと祝いの言葉を述べるのを聞いて、脱力したままでラターシャは照れ臭そうに眉を下げた。
「……ありがとう」
声の端っこがちょっと掠れていて、よく見たら目が潤んでる。だけど泣き出さないようにとラターシャが一生懸命に堪えているようだったから、これ以上突くのは止めておこう。
「最後にはケーキも来るから。みんなで食べようね。じゃ、乾杯〜」
とは言え、当日に何も無いのは寂しいから、明後日はまた私お手製のケーキでも焼いて宿で小さなお祝いにしようかな。そう提案したらラターシャは遠慮していたものの、三姉妹は賛同してくれた。ルーイも一緒にケーキ作りがしたいらしい。それは楽しそう。ついでに簡単なオードブルの盛り合わせでも作って、部屋での誕生日パーティーに決定だ。
「プレゼントも色々考えたんだけどね、ラタはあんまり物欲が無いからさ」
「ラターシャは、何か欲しいものは無いの?」
「今ならおねだりし放題だよ〜」
ナディアとリコットも追撃してくれるけれど、やっぱりラターシャは難しい顔で首を傾けて、少し沈黙してから「思いつかない」と返してしまう。食べ物にしたのは正解だったかもしれないな。ラターシャ用の練習弓も防具も買ったばかりだし、本も、私が読んでるものを借りられたら充分だと言った。本当に欲のない子だ。
「私なら〜、って言おうとしたけど、本当に買われちゃうから言えないね」
「あはは、よく分かってるね、リコ。で、三姉妹の誕生日はいつ?」
「この流れじゃ、言い辛いことこの上ないわ」
眉を顰めたナディアの言葉に、みんなが一斉に笑い出す。そんな意地悪を言わないで教えてよー。口を尖らせていたら、笑いながらリコットが最初に口を開いた。こういう時、いつもリコットが助けてくれるんだよなぁ。いい子だなぁ。撫でたいけど撫でたらナディアに大体睨まれるんだよなぁ。
「私は錆鼠の月だよ。四日目」
「えーと、……十一番目の月かな?」
「ああ、そっか、月の名前に馴染みが無いんだね、アキラちゃん。そう、十一番目であってるよ」
そうなんだよね。
元の世界と同じく一年が十二か月で一日は二十四時間でって、似てるところは沢山あるけどやっぱり全部じゃなくて、一か月は二十五〜三十五日で結構ばらつきがあるし、月の名前も一月とか二月って呼ばない。日本で扱う「睦月」や「如月」の方が主に使われているようなものだろうか。そしてリコットが言った「錆鼠の月」は、元の世界で言う十一月だった。この世界、いや国かな? とにかく彼女らが扱っている言葉では、全ての月に色の名前が付いている。ちなみに今は八番目の月で「桑染の月」と呼び、今日は十八日。つまりラターシャの誕生日は二十日であり、私とリコットは「ラタの誕生日ですか?」「はい」という問答を二十回繰り返して発見した。
「ナディの誕生日は?」
「私は十二番目の月、東雲の二日目よ」
「何番目か教えてくれるの優しい〜ナディのそういうところが好き〜」
本当に嬉しくて言ったのに、ナディアは何故か眉を顰めた。嫌な顔するのはやめようよ。そういうところも好きだけどさ。
そして最後にルーイの誕生日を聞こうと視線を向けたら、私と目が合うなり、ルーイは忙しなく瞬きをして、ナディアとリコットを窺うように見た。どうしたんだろう。
「ルーイは誕生日が分からないのよ。物心が付く前から転々としてきたようだから。四番目の、紫苑の月だとは聞いていて、いつも一日目に祝っているのだけど」
「そうだったんだ。どうする? 調べる?」
「……あ」
真偽のタグをみんな忘れがちだね!
でも紫苑の月は確か三十五日あるから、どうしようね。此処で最大三十五回の問答をするかどうか。しかも月がずれていたら前後合わせて合計百回近い問答をする羽目になるかもしれない。うーん、今度ゆっくり調べようか。という結論になった。後日ちゃんと調べたら、ルーイの誕生日は紫苑の月、十四日でした。
「アキラちゃんの誕生日は、こっちの暦では数えられないの?」
「そうだねぇ、向こうの世界では十番目の月の十六日だったんだけど、厳密には変わってくるかな」
毎月の日数が違うからねぇ。私が召喚された日とこっちの日を比べたら年の最初の日――つまり一月一日から数えた日数で一致した為、数えようと思えば数えられなくはない。でもなぁ、ずっと十月十六日って言ってたものを急に翡翠の月の何日って言われても。翡翠ってのは格好良いけど、日が変わるのは何となく嫌だよ。
「別に同じ日に祝えば良いんじゃない? 多少ずれてたって、祝う気持ちがあれば一緒でしょ。翡翠の月、十六日にお祝いしようよ」
って、それだと次に誕生日が来るの、私じゃないか。眉を下げて肩を竦めたら、みんな何処か楽しそうに笑っていた。今日は散々振り回したからね、当日、何をされることやら。祝ってくれるのは勿論すごく嬉しいけれど、多少の覚悟は必要そうだ。




