第34話_処分
黒髪の子も、あいつらを殺すって言葉には驚きを見せつつも、反対する様子は微塵もなく、また、見ることも望みはしなかった。やっぱり私もそれが良いと思うよ。
二人からの確認を終えると再び三姉妹には待機しておくように告げて、私は男共の部屋に戻る。
今度はもう、無駄な攻撃魔法は放たれてこなかった。ただ、拘束から逃れようと暴れた形跡があって、笑ってしまった。最期なんだから静かにお祈りしてれば良いのに、お陰で私が付けてない新しい怪我までしてる。
「あはは、頑張るねぇ」
私は必死に生き延びようとする彼らの様子を見て、ただ笑う。だってこいつら別に、同情の余地が無いから。例え組員も歯車の一つで主軸でなかったとしても、叩けば確実に埃は出る。少なからず、あの三姉妹を傷付けるような行動の一つや二つ、あるでしょ。言うなれば私怨ってやつ。『正義』じゃないから、君らの言い分も事情も興味ないよ。
「じゃあ、行こうか」
そう言うと、私は男達と自分の足元に黒い沼を出現させた。上階に残して来た四人の組員も同じ。客は一旦放置して、男達を全て沼の中に飲み込んで、自分もその中へと入り込む。
これは『転移魔法』だ。
多分、めちゃくちゃ高位の魔法だと思う。何処でも自由に、望んだ場所に飛べる。今すぐウェンカイン王城の玉座の間に飛べって言われても行ける。此処まで自由度が高いと、流石に使えるのは私だけなんじゃないだろうか。
だってこんな問答無用の魔法が使える人間が他に居たら、暗殺も侵略もやりたい放題だ。これを防ぐ術っぽいものも、今のところ気配の欠片すら確認していない。
さておき、私はそれが使える。ただ、私以外の人間を通した時に心身に影響がないとは断言できなかったから、倒れているラターシャを見付けた時には使えなかった。でもこの男達はどうせ殺すんだから実験として利用するには最適だ。行き先は――地図を見た時から気になっていた場所。この国にある中で最大の火山、デイラガウフ。
「おー、良いねぇ。見える? あれが溶岩ってやつだよー」
巨大な火口を見下ろす位置に転移して、男達も一緒に浮遊させる。火口から、真っ赤な溶岩が見えた。宵闇の中で生きているみたいに蠢いている。
この火山については城下町やローランベルの酒場で何度か話題に上がったから少しだけ知っている。活発な溶岩湖があり、あまりの危険性から、立ち入る者は居ないと聞く。そもそも標高がかなり高い。簡単に登ってこられるものではないだろう。
「さてと」
浮遊している男達の命乞いはまだ続いていた。元気そうだな。タグでも一通り健康状態を確認するものの、転移魔法による影響を受けた様子は無い。つまり、あの魔法は私以外を連れて移動するにも使えるということだ。
緊急時には取れる手段と思っておこうかな。そもそも、折角の旅にこんな魔法で移動するのは情緒が無いし、それに――ああ、それも今は良いか。先にこいつらを始末してしまおう。
私は彼らを浮遊させていた風魔法を解いて、火口へと男達を落とした。
「ばいばーい。溶岩到着まで結構あるから、落ちる前に気を失えるよ。だから、苦しむことは無い」
かなり上空から落としたからね。何か叫んでるけど、何も分からないわ。
男達の姿が溶岩の中へと消えて、当然、浮上してくるようなことも無くて、静かに命の気配が消えたことを感じ取る。
「処分完了っと」
私は空を飛んだままで再び黒い沼を自分の足元に出して、元の場所へと戻った。
拷問もしたし、男達も暴れていたので、部屋はあちこちが汚れている。うーん、もう一度あの三姉妹にも此処に立ち入ってもらいたいので、綺麗にしておこうかな。部屋全体を浄化して、血の跡も消しておく。
「残るは、客かぁ……」
あの小さな子、ルーイの怪我を思えば同じく殺してしまいたい。だけど、彼女らの客は今の二人だけではなく、おそらく傷付けられた経験なんて一度や二度でもない。それこそきっとキリが無いことだ。軽く頭を振って、客についてはこれ以上、傷付けることは止めた。魔法を使って昏睡状態とし、此処から離れた裏路地に捨てた。酔っぱらいが寝ているように見えるだろう。本人達も、昏睡魔法の影響で今日の記憶は曖昧になるはずだ。
全ての処理を終えて、再び無駄に鼻歌を聞かせながら歩き、三姉妹の待つ部屋の扉を開けた。幸い、まだ照明魔法は解けずに部屋を照らしていた。
「終わったよ。客も屋敷から出した。此処に居るのは私達だけ。出ておいで、少しこの屋敷を案内してほしい」
そう言いながら、さっきまで男共が居た奥の部屋へ進む。
私があいつらを殺したことを知っているナディアと黒髪の子が一瞬不安そうにした。遺体があるのだと思っていて、それを自らが見ること、そしてルーイに見せることを恐れているんだろう。
「大丈夫、もう捨てた。何も無いよ」
そう教えて、付いて来るように促す。大丈夫と聞いても恐る恐るという様子で部屋を覗いた三姉妹は、本当に一切の痕も人影も無いのを見て、まるで化かされたみたいな顔をしていた。




