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PASTIME!!!  作者: 暮
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第27話_夜遊び

 夜、お風呂を済ませた後で、私は再び外出用の服装に着替えていた。

「お湯ありがとう、アキラちゃん……あれ? 何処か行くの?」

「うん。それよりラタ、湯冷めしないように温かくしないと」

 袖の無い涼しそうな服装で上がってきたラターシャに、長袖の羽織を手渡す。本人は苦笑いでそれを受け取っているが、ラターシャはいつも腕周りが薄着なんだよね。多分エルフの文化だろうし、寒さにも強いのだろうけれど、私としては見ていて心配になる。

 ちなみに宿の風呂場にお湯を出す機能は無い為、お湯は私が魔法で出していた。それでさっきの「ありがとう」だ。毎日のことなのに、ラターシャはいつもちゃんとそう言ってくれる。良い子で可愛い。非道なエルフ共の中で生きていたにも拘らずこの育ちの良さは、きっとお母様が素晴らしい人だったに違いない。その後任が私という悪党である罪悪感は、無いわけじゃないんだけど、まあ、それはそれです。

「これからちょっと夜遊びに出てくるから、ラターシャは部屋から出ないで寝てて」

「え、でも……大丈夫? 何だか、物騒だって」

「そうだけど、ま、確認の為にもね」

 正直、この世界の治安になんて興味は無いが。この街の夜の空気も知っておきたいし、夜にだけ得られる情報もあるだろう。特に今夜は何となく『外に出たい気分』が湧く。前の世界でもそうだったが、こういう夜は決まって何か『面白い』ことに遭遇するのだ。

 勿論そんな雰囲気が無くても近い内に夜遊びは出るつもりだったけどね。お酒も飲みたいし、夜に歩く女性らにも出会いたい。

「これは私にしか効かないんだっけ……」

「ふふ」

 ラターシャが見つめる先には、彼女の首から下げられている守護石があった。もしもそれが誰に対しても有効なものであれば、お守りに渡したかったのだろう。何の為に作ったと思っているんだか。可愛くて優しいラターシャの頭を、今日だけで何度目になるか分からないけど、繰り返し撫でる。

「守護石よりも私は強いよ。心配いらない。あと、部屋にも結界を張っていくね。ラタは安心して眠ってて」

 過保護な私にラターシャは少し目を丸めるものの、物騒かもしれないこの街では用心を重ねるに越したことはない。夜の内に必ず帰ってくることを約束し、そして夜更かししないように言い含めて、私は部屋を出た。


「――普通だったな。東京の方がまだ治安が悪いね」

 四時間後。私はそんなことを呟きながら夜道を歩いていた。

 最初に行ったのは、宿のご主人が教えてくれた比較的『安全』な酒場。確かに昼時に街を歩いているよりは厳ついお兄さんやおじさんが多かったが、店員以外にも女性は居たし、ちょっとした争いがあっても周りが宥めたら終わる程度のものばかり。一人で居る私に男性や女性がちらほらと声を掛けてきたけど、薬のようなヤバい話は全く無かった。

 中でも特に気さくな人達と一緒にもう二軒回ったが、何処も同じような感じ。今のところ、危険そうな雰囲気は何も見つからない。

 さておき、夜のお仕事をしてそうな女性も何人か居て、それはちょっと良かったな。機会があれば相手をしてほしい。今日は他のお客の相手をしていたので邪魔するのは止めておいたものの、隙を見てちゃっかり店だけは聞いた。中央から少し東に外れたところに、そのような店が立ち並んでいるらしい。私が今日お酒を飲んでいたのは中央で、宿はやや南西にある。

「さーて、今日はもう帰るか。あんまり楽しいと時間を忘れちゃう」

 部屋に可愛いラターシャを寝かせたままだし、夜の内に帰るって約束したもんね。お酒が回ってしまう前に切り上げて、一緒に飲んでくれた陽気な人達に別れを告げてきた。

 そうして、宿へと戻る道中で。遠くから伸びてくるタグ。えぇ。今からですか?

「……『取引』って。如何にもだねぇ」

 私に関係あるかなそれ。別にこの街の裏で起こっているあれこれに関わりたいだなんて少しも思ってないけど。

「いや、待てよ」

 ふっと頭を過る可能性に、私は躊躇いをすぐに消し去ってタグの方へと歩みを早める。自分の身体を消音魔法で覆う。これでもう、急ぎ足で進む足音も、呼吸音も何もかも、外部に漏れることは無い。

 そうして出処を探って歩くこと三分。この街で私が一番求めていた『探し物』を見付け出して、思わず口元を緩めた。

「当たりだ。いいね、タグ、最高の仕事するじゃん」

 裏路地、光の少ないその場所で、男女が向かい合って何かを話している。男性は少し早口に、焦った様子で言葉を続けていて、女性はまるで機械のように丁寧に淀みなく受け答えをしている。ややあって、男性はほんの少し声を震わせると、女性に小さな袋を押し付けて立ち去って行く。残された女性はその中から銀貨か大銀貨と思われるコインを数枚取り出して確認し、また袋へと戻した。

 その背後へと、私はゆっくり近付く。光源は彼女の正面にしかない。音を遮断すれば、魔力感知に長けている者でもない限り、私の接近には気付かない。三歩程度の距離で私が立ち止まったのと、彼女が振り向いたのは同時だった。

「……っ!」

 振り返った瞬間に見付けた私の影に、彼女は酷く驚いて目を見開く。口元を押さえ、悲鳴を飲み込んだのはむしろすごいと思った。可愛い()()()()()()()()が、彼女の感情を示していつもよりも大きく膨らんでいた。

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