第26話_魔物狩り
いやぁ。大漁、大漁。
今日は街の外をお散歩したのだけど、思っていたより色んな魔物が、しかも数多く出てきてくれた。お陰で大いに素材が集まった。街の傍にはほとんど気配が無くてどうしようかと思ったものの、一定距離を取ったところで出るわ出るわ。城下町もそうだったけれど、大きな街にはそれだけ大きな魔物除けの結界が張ってあることで、結界の外にも多少、影響があるらしい。
「こういう魔物除けの結界、小さい集落にもあるのかな?」
「そうじゃなきゃ暮らすのは難しいから、あると思うけど……私も詳しいことは」
魔物が闊歩しているこの世界は、街に魔物除けの結界が張られている。私も何度か使用している結界魔法の、大規模なやつ。目的や機能は少し異なるものの、系統は同じだ。しかし、全ての街にそれが出来る術者が居るとは思えない。街を守るほどの規模だ。おそらく、一人の術者では作れないだろう。
「アキラちゃん、結界魔法は、常に魔力を注いでいるの?」
「最初だけだよ。その後は解くか解かれるまで、半永久」
「それなら、そういう、結界を張る為の機関があるのかなぁ」
ラターシャの考えが正解に近そうな気がした。一度張ってしまえば、術者はいくらでも場を離れることが出来る。結界魔法に長けた者で構成した政府機関があれば、国内を定期的に巡回することでこれは成り立つはず。まあ、私達が今滞在しているローランベルほど大きな街であれば、一人くらい、補修担当の術者が居そうだけれど、小さな集落や村には難しいだろう。
「王様の善政であれば、いいけどねぇ」
さてそれはそれとして、一度、街へと戻りましょう。ラターシャを引き寄せ、街の近くまで魔法でひとっ飛び。その後は何事も無かったような顔をして、街の門を潜った。
「先に武器屋のおじーちゃんところ行くかぁ」
「え、どうして?」
「雑談しに〜」
「……邪魔じゃない?」
本当はすぐに素材を換金したかったんだけど、その前に私は昨日、弓を購入した武器屋に直行した。ラターシャからの正論の指摘はとりあえず聞き流しておく。
「こんにちはー」
「おお。どうした、何か入り用か?」
「ううん、ちょっと聞きたいことがあってさー」
幸い、店内には私達しか居なかった。
けれど此処もそれなりに大きな店なので、ずっと無人ではないだろう。ラターシャが言うように、雑談で長居して邪魔するつもりはない。
「素材いっぱい取ってきたんだけど、何処で換金したらいいと思う?」
「……お嬢さんは何をやっても規格外だな」
私が袋の中身を見せたらおじいさんは苦笑いを浮かべた。多分、どうして私がこんなことを聞きに来たか、もう理解してくれている。察しが良くて助かります。
「こんなものまで……ううむ、こりゃお嬢さんが行けば、何処で換金しても目立つぞ」
「ええー」
やっぱりそういう話になっちゃうか。
城下町ではどうせ見張られてたから目立ってもいいやって気持ちで近場で全部換金していたけれど、城の人を撒いた後まで目立ちたくない。『妙に強い魔術師』程度の噂であっても、城に届いてしまえばすぐに勘付かれるだろう。
「目立つもんだけ、わしが買い取っておこう」
「いいの?」
「構わんよ。わしが換金する時には『武器を買いに来たやつが代金代わりに置いて行った』と言い訳が出来るからな」
「ああ、なるほど」
確かに、武器を買いに来るような客だったら、強い魔物の素材を持っていてもそこまで不自然ではない。有難い申し出を受け入れると、おじいさんは手早く素材を仕分けして、『目立つ』ものの鑑定をしてくれた。
「こんなもんか。全部で金貨二枚と、大銀貨六枚でどうだ」
「異議なし。おじいさんって、素材の目利きも出来るんだねぇ」
おそらく物体の種類によってそれぞれ鑑定スキルは別物のはず。だけどおじいさんが提示した結果はタグが示すのとほぼ変わらなくて感心した。私の言葉に、おじいさんが可笑しそうに笑う。以前に会った時よりも、何処か砕けた笑顔を見せてくれた。
「わしが若い頃はまだ、物々交換が多かったもんでな」
武器のような高価な品を扱っている場合は特に、魔物の素材が交換対象になっていたようだ。どの街でも広く貨幣を扱うようになったのはまだほんの五、六十年前であると言う。そのように変えてきたのが、今の国王と、その先代とのこと。
「おじいさんから見て、今の王様は良い王様?」
「ふはは。どうだかな。武器ばっかり見てきたようなわしには、何とも言えん。だが昔と比べて、幾らか便利になっとるのは間違いないな」
「そっか」
おじいさんがそう言うなら、会いに行って殴るのは一旦、保留にしておくか。
前の時代がもっと悪かったのを、変えている途中という可能性もあるわけだから。それでも気に入らない部分は気に入らないけど。私を召喚したことも許さないけど。
「じゃ、ありがとう! 仕事中にごめんね〜」
数名の客が来店してきたタイミングで話を切り上げ、店を出る。おじいさんは「いつでも来い」と静かに返してくれた。
「……雑談じゃなかった」
「あはは」
私が明確な理由と用件を持っていたことに対して、ラターシャが不満そうだ。どうせすぐ分かることだし、説明が面倒くさかったんだよねぇ。あ、怒られてるのはこの点か。うーん、ごめんってば。今回ばかりは撫でてみても……あ、ちょっと笑った。可愛い。




