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PASTIME!!!  作者: 暮
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第24話_弓の指南

「まずねぇ、弓はそのまま単純に引くんじゃなくて、こう引く」

 武器屋で買った防具をラターシャに身に着けさせた後、私はまず実演する形で、型の説明を始めた。

 弓は普通に引くと男性の力でも(つる)が引っ張れないことがある。和弓、日本の弓道で使用するような弓はそれが特に顕著で、それと比べればこの弓は軽いので強引に引くことは不可能ではないが、それでも本来は腕の力ではなく、胸や肩や背中、上半身全体を使って引くものだ。

「もう一回、今度は説明しながらやるね。両方の拳の高さは、一連の動作でずっと同じだから、よく見ていてね」

 上方向や下方向に射るなら高さを変えることになるけれど、今はそんなこと考えず、基本の型を身体に馴染ませる。基本さえ身に付ければ、どう身体を使ったら上向きや下向きの型に移行できるか、自ずと分かるようになる。そのような説明を付け足しながら、更に何度も動きを繰り返して、各動作での注意点や、力が入っている部分について説明をした。

「次に、射た後の動作も大事だよ。当然、右手は反動で逆側に弾かれる。左手も外側や下方に動きがち」

 握っていた弦を離した時、言った通りに私の身体が動くのを観察して、ラターシャがうんうんと頷いている。さっきから目がくりくりしてて可愛いんだよなー。撫でたい。後で撫でよう。

「右手は衝撃を流しながら水平に。左は特に注意が必要で、反動に負けて外に開いたり下に落としたりすると矢の方向が変わるから、完全に矢が離れて行くまでは、しっかり構えを保つ」

 勿論それも、左腕だけで堪えるものではない。しっかりと背筋を伸ばし、足腰を据えて、身体全体で左腕と弓を支える。この辺りはやりながら覚えてもらった方が良いかな。口ではこの程度の説明が、私には限界だ。

「まずはイメージトレーニング。弓を持たずに、型を真似て動いてみよう。こっちおいで」

 私に背を向ける形で立たせ、両肩に手を置く。さっき、準備運動で柔軟させてた時にも思ったけれど、ラターシャの身体は軟い。弓を練習していく内に必要な場所には自然と筋肉が付くだろうけれど、変な筋肉を付けさせないように気を付けなきゃいけないなと思った。まだ成長期だろうし。

「両肩は楽に、力抜いて、もう少し落とす感じ。そうそう」

 弓を持っているイメージで両拳を胸の前で構えさせ、上にあげて、私がさっき教えた形で構えさせる。

「この動作は、この辺りの筋肉で胸を開くイメージを作ってね」

 背後から肩甲骨の間に触れ、もう一度同じ動きをさせる。そうそう、ちゃんと使えてるよ、上手だねぇ。今度は手が空いてるので撫でよう。ぐりぐりと頭を撫でると、「アキラちゃん、そんなにいちいち、撫でなくていいから」と言われた。撫でなくていい……? そんな悲しいこと言われたらどうすれば……。でも頻繁に撫でられたら型も崩れるし邪魔なのは分かる。仕方ない。練習後にまとめて撫でることにした。「はーい」と言う返事にそんな気持ちが含まれていることは、きっとラターシャは少しも察していない。

 改めて。弦を離した瞬間の動きもイメージさせてみて、右手の動き、その間に左腕を支える力の入れ方を丁寧に教える。

「型の説明はこれくらいかな。しばらくイメージを繰り返してみて、心の準備が出来たら弓を持ってみよう。さっき私がやったみたいに」

 傍を離れながらそう言って、弓を壁へと立て掛ける。ラターシャはちょっと考えるように首を傾けて、一度頷いた。

「もうちょっとイメージ続けてみる」

「うん、また声掛けてね」

 再び頷いたラターシャを横目に、私は今日買ってきた本を全て机の上に置く。自分で見付けてきた六冊は軽く中を見ているけど、ラターシャが見付けてくれた本はちょっと目次を見た程度だ。先にこちらの中身から見ておいた方が良いだろう。そもそも、この内容が優先だって自分で言ったんだから。

 そうして私が本に意識を移してから、十五分くらい経った時、ようやくラターシャが弓を触ってみたいと言った。真面目だな。イメージするだけってすぐに飽きて、二、三分が限度な子が私の周りには多かったんだけど。

「イメージは完璧?」

「うーん……なんかアキラちゃんとは違う気がする……」

「あらら」

 なるほど、ラターシャは自分の身体の動きを確認するだけの『イメージ』じゃなくて、私の動作を真似ようとしていたから、それに時間を掛けられるんだな。うちの子はどうしてこんなに可愛いんだ。今後もラターシャの前では綺麗な型を心掛けることをここに誓う。

「ま、弓を持ってない違いかもしれないよ。やってみよう」

 弓を手渡すと、ラターシャはわくわくしている反面、不安そうな顔も見せた。弓は武器だから、少なからず怖いと感じるのが正しい。矢が無くても、弦の離し方が悪ければ、それだけで自分や誰かを傷付けることもあるのだから。

「左手でしっかり持って。握りはこう……ラタ、ふふ。手ちっちゃいね」

「うう……」

 何度か握ったことがあるので小さいとは思ってたけど、弓を持たせると更に分かりやすい。ラターシャは恥ずかしそうに眉を下げて唸っていた。まあ、手の中で持て余しちゃうよりはしっかり握れるんじゃないかな。

「矢と合わせて持つ時の弦の握りはまた別なんだけど、今は気にしないで。弦もグーでしっかり握って」

「うん」

 よし準備オッケー。私はラターシャの正面、少し離れて立つ。いつでも良いよと合図をすれば、ラターシャが一つ頷く。緊張しながら、私が教えた通りの動作で弓を引く。弓の両端が、弦を引かれるのに従ってしなり、弦を離すと同時に勢いよく同じ形状に戻った。

「いいよ! ちゃんと引けてた!」

「……うーん、でも」

 思わず大きな声で褒めちゃうくらいだったのに、ラターシャは悲しそうに眉を下げ、何処か肩を落としている。

「慌てて離しちゃったし、左腕、かなり動いちゃった」

「分かってるなら更に上出来。大丈夫だよ、初めて引いたと思えないくらい、本当に上手だった」

 これは本音だ。しっかりイメージを叩き込んでも、弦をきっちり引けるまでもっと時間が掛かる人は沢山居る。ラターシャは随分と飲み込みが早い。多分、身体の動かし方が上手なんだ。弓を引く練習はしていなくても、元々、身体は動かして生活していたんだろう。

 彼女の言った通り、確かに弦を離すのは少し早かったし、反動でかなり身体が持って行かれていた。だけどその前。手を離す前の動作はすごく上手だったのだ。私は丁寧に一つずつ、出来ていたことと、これから改善すべき点を説明した。

「ゆっくり引くことをまず意識しようか。さっきよりも遅い動作で引いて、引ききったら、三秒静止してから離す。これを繰り返していこう」

「分かった、やってみる」

 やる気もあるし、これは私が思った以上に早く上達していくかもしれないな。むしろ練習過多で身体を壊さないように、私がちゃんと見ていてあげる必要がありそうだ。

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