第22話_本屋
さて切り替えまして、次は本屋。
城下町をうろついてた時から分かっていたが、文字が読めるのは幸いだった。見覚えの無い文字なのに、何となく分かる。これも異世界から飛ばされた人間への救済措置なのだろう。ありがたい。勿論、一番は飛ばさないでほしいんだけどね。
「何の本を探すの?」
「直近の目当ては魔法に関する本と、スキルに関する本かな」
他にも興味が引くような本があるかもしれないから、一通りは確認するけどね。
今の私にとって知識はあるだけ助かる。なので本音を言えば片っ端から読みたいんだけど、流石にそれを本屋でやろうと思ったらお店を丸ごと買わなきゃいけない。私には魔物の素材集めっていう確実な資金源があるだけで、手持ちにそこまでの大金は無かった。だから本屋よりも『図書館』を求めていたんだけど。ま、無いものは仕方が無い。
そこでまず、欲しい知識として選んだのが魔法とスキル。私が出来ることがどれだけ『特殊』であるかということを明確にする為にも、基準となるべき知識が欲しかった。
「存在する属性とか、色んな魔法とか、スキルもそうだね。ざっくり簡潔にまとめられている本があれば良いなぁ」
「まずは一つを細かく知るんじゃなくて、全体を広く知りたいってこと?」
「そうそう。ラターシャは賢いねぇ」
撫でよう撫でよう。ぐりぐりと帽子の上から頭を撫でると、ちょっと恥ずかしそうにしつつもラターシャは満更でない様子だ。可愛い。そういうわけでラターシャも探すのを手伝ってくれるらしい。
「でも何かラタが気になる本があったら、そっち優先で良いからね」
私の言葉に何処か可笑しそうにラターシャは笑っていたけれど、彼女は彼女で、閉鎖的な世界を生きていた子だから。私と同じように色んな知識を求めているかもしれないと思った。
入り込んだ本屋はそれなりに大きかった。聞いたところ、此処が街で一番大きな本屋だと言う。賢そうなおじさんや、主婦っぽいおばさまなど数名が各々、本棚の間を歩きながら本を吟味している。さっきの武器屋みたいに客が私達だけだとじっくり本を探すにも居心地が悪くなったかもしれないので、先客が居るのは有難い。
入り口付近には、雑誌のようなライトな読み物が多いようだ。ファッションに関することから、この街、および近隣の街の物件情報まで。ふむ。この世界の物件ってどんな感じなのかしら。物件情報誌を手に取ってパラパラと捲っていると、早くも脱線している私をラターシャが笑う。そして彼女はそのまま、奥の方へと進んで行った。多分、私がこの調子だと全く目的の本を見付けないと予想して、先に見ておいてくれるつもりなんだろう。そうだね、確かにこんなことをしていたらキリが無いね……。名残惜しいが雑誌を棚に戻して、私もちゃんと目当ての情報を探すべく、少し奥に進む。
その後は、結構な時間を掛けて本を確認した。というか、時間の感覚が消失していた。気付いたら昼を大きく過ぎていて、あ、やべ。また昼食時を逃してしまったとハッとした。ラターシャがお腹を空かせているかもしれない。慌てて店内で彼女の姿を探す。
「ラターシャ……あ、ごめん何か読んでた?」
「う、ううん。平気。アキラちゃん、ふふ、沢山抱えてるね」
「あはは、いやー、ついつい」
私の腕には六冊の分厚い本が抱えられている。だって。気になったんだもの。手伝おうとしたのか、ラターシャは私の抱える本を三冊取り上げる。代わりに、私はさっきラターシャが熱心に読んでいた本の方へと手を伸ばした。棚に戻してしまっていたけれど、彼女が持っていたモスグリーン色の背表紙は近くにこれだけだったから、間違いない。ラターシャはちょっと慌てていた。
「えっと、魔法の本じゃないよ、ちょっと見てただけで、アキラちゃんが言ってたような本なら、こっちに」
「これは――エルフの本?」
「……ええと、その」
表紙には、『エルフ一族の全て』という大袈裟なタイトルが記載されていた。こういうのってツッコミどころが多い内容になっているのが常なんだけど、こっちの世界ではどうなんだろう。ちらりと窺うと、ラターシャはちょっと肩を竦める。
「多分、人族が書いたんだと思う。かなり勝手な想像も含まれていて、ちょっと面白かったから」
「へえ」
楽しみ方が玄人だな。自分の種族が好き勝手に書かれているのを、怒るでも悲しむでもなく、どうやら楽しんでしまっていたようだ。そんなの、里で暮らしていた張本人の意見を聞きながら読んだら、絶対に楽しいやつでしょう。
「ねえこれ買っていこうよ、私も気になる」
私が考えたことが分かったのか、ラターシャも可笑しそうに頬を緩めて頷く。それからラターシャは、私の為に探しておいてくれたという、魔法とスキルの本を一冊ずつ見せてくれた。魔法学の初級編と、スキル辞典だった。大正解のやつじゃん。うちの子が偉すぎる。大好き。撫でよう……手が塞がっているので空いたら撫でよう。
結果、この本屋で私は九冊の本を購入した。
店の外に出ると同時に、収納空間へ本を放り込む。当たり前だけど、ほとんどの場合、店内は『収納空間』の魔法を禁じる術が敷かれている。これがあったら盗りたい放題だもんな。今回のように重たい買い物をする時には店内がちょっと辛いけれど、致し方ないことだ。
「じゃー、お昼に行こうか。昨日のカフェでも良い?」
「……店員さん、ナンパしないでね」
「あはは。了解〜」
じとりと疑いの目が向けられているけどそんな顔しても可愛いだけでしょ。あ、忘れてた撫でよう撫でよう。突然私に撫でられたラターシャは「何、どうしたの」と困惑の声を漏らしていても、大人しく撫でられてくれるのが可愛いんだ。「本探してくれてありがとうね」って言うとようやく撫でられている理由を理解した様子で、「もういいから」と照れ臭そうにしていた。




