第117話_王城晩餐会(4)
「次に、我が国の北方に位置するセーロア王国。これは四か国の中では最も国土の小さな国ではございますが、竜人族が治め、国民の大半が竜人族である為、高い武力を有します」
「へえ」
またしてもタイムリーに楽しい話題。
竜人族についてナディアが「この国では」お目に掛かれないという言い方をしていたのを思い出した。なるほど、セーロアなら珍しくはないんだ。
「お恥ずかしい話ですが、実はセーロアと我が国は何度も戦争をしており、長い争いの末、ようやく五年前に和平を結んだばかりなのです。今は友好な関係を保っておりますが、まだまだ竜人族に対し、恐れを抱く国民は多いようです」
ほう。それも初耳でちょっと意外。あの集落をケイトラントはすごく大切にしていたし、ロマさんも彼女をとても頼りにしているようだった。ナディア達も嫌悪する顔は……していなかったと思うけど、確かにちょっと怖がる顔はしていたかなぁ。終戦が五年前だと、ルーイ以外は戦時中の記憶もはっきりしているせいかもしれない。
だけど友好関係を結んでからは、竜人族が国境付近で行商をしていたり、港で働いていたりする姿も見られるらしい。それが「エルフの次に」希少だと言われる理由か。エルフは他種族との関係を今も断絶してるみたいだからね。
「三つ目の国は、ダラン・ソマル共和国。こちらは四百年ほど前、ダラン王国、ソマル王国、その他の多くの小国らが手を取り合い、一つの国となった経緯があります」
つまりそれまでは、この世界も四か国のみではなかったんだな。
獣人族を含め、少数民族が集まった国であるようで、人族も居るものの、その中でも少し肌の色が異なるような人種が多いようだ。それならラターシャみたいに褐色の肌を持つ人は、この国じゃ少ないけど、共和国内には多いのかもな。
「最後に、マディス王国。こちらは我が国と同じく人族が治める国ですが、他の種族をあまり受け入れることがありません。そして『呪い』が盛んです」
聞き慣れない言葉に、眉を寄せる。クラウディアもその部分だけトーンが少し落ちたので、楽しい意味じゃなさそうだ。
「魔法じゃなくて、呪い?」
「はい。厳密には呪いも魔法の一つなのですが、特に魔道具や魔法陣など、何かしら媒介を用いて間接的に魔法を行使することをそう呼んでおります」
そういう意味では救世主召喚なんかも魔法じゃなくてそっちに属するんだな。魔道具での通信もそうか。納得してうんうんと頷いていると、更に感情を希薄にした声でクラウディアが続きを述べた。
「マディス王国の呪いの知恵と技術は、世界でも群を抜いており、我が国もその全容を理解できるものではありません」
ふーん。なるほど? なんか嫌な予感がするねぇ。
「ねえベルク、テグラン地方って、さあ」
「はい、マディス王国内にある地名です」
「あはは」
クラウディアのトーンが下がった理由もよく分かった。あのドラゴンを生み出した魔法石の発掘元であるテグラン地方。それがマディス王国にある地名で、そしてその国は呪いが得意かぁ。私の思考を理解した様子で、ベルクが神妙に頷いた。
「まだ確証はございませんが、度重なる魔法陣や魔道具による被害が、某国に関係があるのではないか、という声も、確かに上がっております」
そりゃそうだよな。今の話を聞いただけの私でも思うのに、マディス王国を良く知る人達なんかは、魔法陣の被害があった時点で勘繰っておかしくない。それが今回は、その国から発掘された魔法石が原因だ。これだけで『戦争』を言い出すくらい好戦的な派閥もあるだろう。きっと苦労しているんだねぇ、王族さん達。
少しの間を取ってから、クラウディアが空気を読んで説明を続ける。
「国は以上となりますが、どの国にも属さないエルフ一族や、四か国のいずれも開拓が出来ていない地域について、独自の文化を有する民族が残っている可能性もございます」
「未開拓な場所は、開拓が困難な、うーん、地形?」
「はい。そのような場合が大半です。中には、『魔族の住処』と考えられる地域も」
確認できていないものの、そちらに向かうと必ず道中で魔族や魔物との大きな交戦が始まって、兵力が削られてしまい、結局、目的地には辿り着けない――という地域がいくつかあるらしい。面白そう。以前、アンネスから見た廃城も似たような話だったかな。
「ありがとう、クラウディア。丁寧で簡潔で分かりやすかったよ」
「身に余る光栄です」
美しい笑みと共に軽く会釈をしてくれる動作が全て洗練されていて綺麗だ。流石は王女様。
「それに、長い話はやっぱり女性の声で聴く方が楽しいね。ベルクの英断に感謝するよ」
「アキラ様にとって心地よいものであれば何よりです。……私個人としては、少々複雑ですが」
王様とベルクが同時に苦笑いを零した。うん、でも、君らの声を長々と聴くことを不快とは思わないものの、やっぱり別に楽しくはないよ。ごめんね。これは好みの問題だから仕方が無い。
尚、食事は順調に進んで今は肉料理が出ている。口直しの前に出た魚料理はあっさりしていて癖の少ない白身魚とソースだったので、いや、それも勿論とても美味しかったけれど、今出ている肉料理が逆にがっつりと濃い味で個人的には嬉しい。そして口に放り込んだ傍から、肉はほろほろと解けていくような舌触りで最高。
「これはすごい。調理方法かな? お肉がすごく柔らかいし、臭みも全くないね」
ソースの香りを強くして誤魔化しているというわけでもなさそう。肉の旨味がしっかりと出ている。私が舌鼓を打っていると、ベルクが「クラウディア」と優しい声で隣の妹を呼ぶ。クラウディアは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「はい、ええと、こちらのお料理は母の故郷で昔から伝えられている調理方法で」
「へえ」
「どうしてもアキラ様に召し上がって頂きたいと私から提案し、恥ずかしながら私も調理場に赴いてほんの少しだけ指示を」
ひょっこりとクラウディアから『嘘』のタグが伸びて、私は思わず声を上げて笑った。
「『ほんの少し』は嘘だね、しっかり君が監修した料理ってわけだ」
指摘をすると、ぱっと顔を上げたクラウディアが、手を口元に当てて頬を染める。私に真偽のタグが見えていることを思い出したらしい。慌てた様子はちょっと幼く見えて、愛らしかった。
「し、失礼しました、そうですね、シェフに嫌われていないと良いのですが」
「ふふ。だけど百点満点以上の美味しさだよ。頑張ってくれたシェフにもお礼を言っておいて」
このレシピを盗むのは情緒が無いし、何より調理方法まではタグも教えてくれない。食べたくなったらクラウディアにお願いしないといけないな。




