第116話_王城晩餐会(3)
「で、現代の魔王さんは見付かったの?」
「……いいえ」
低い声で応えた王様は複雑な顔で眉を顰める。良いのか悪いのかってところだな。見付かったとしても、私が素直に戦うかは分からないもんね。私も分かんない。
「だけど私が最初に思ってた以上に、この世界の人は弱いね。魔族とは、まともに戦えてるの?」
魔法が使えるファンタジーだからもっとドーン、バーンって軽く魔物を吹き飛ばしていくと思ったら、魔法が扱える人はほとんど居ない。元の世界で見たような手軽な銃も無く、剣とか弓とかで頑張っているのがほとんどだ。
「一体の魔族と、それが率いる魔物に対し、我が軍の中隊が一つ以上、大砲は三十門以上が必要となります。犠牲は二割から、三割ほど」
「数の利か、なるほど。魔族は数が少ないんだね」
「はい」
向こうもそれが分かっているからか、そう頻繁に攻めてくることは無いと言う。だが、魔王が生まれれば話は違う。魔王の下、おそらく全ての魔族らが一斉に立ち上がり、人類へと牙をむく。それまでの数百年が、彼らには準備期間なのかもしれない。
そして最近、魔物だけではなく『魔族』が人々を脅かすことが増えてきた。だから彼らは「もしや」と恐々としている。しかも救世主召喚が成功した為、記録上、既に魔王が生まれているのは確実だ。ならばいつか魔王側は今以上の軍勢で攻めてくるだろう。それは一体、いつなのだろうか。明日か、十日後か。それとも一年後か。
「それでまあ、アーモスみたいな強行に出ずにのんびり構えていられるね」
「……のんびりしているわけでは、ございませんが」
国の為に彼なりに一生懸命やってるんだろうから、私の言葉にもっと憤ってもいいと思うんだけど、王様が抵抗を垣間見せたのはこの程度だった。
「アキラ様のご主張は尤もです。我々は何よりも尊い存在として崇めていた救世主様を、身勝手な理由で呼び寄せ、盾にして平和を守ろうとしていた」
初日、私に怒られてから本当に反省したらしい。少なくとも私がその身勝手さに怒り、素直に協力するわけじゃないってのはしっかり受け止めたようだ。
「しかし我々の戦力が足りないのもまた事実であり、今もアキラ様を頼りにさせて頂いてしまっています。ですが一方で、我々の力だけでも何とか魔王らに対抗するべく、全力で知恵を絞っているところです」
私を見失ってからは、そうせざるを得なかった、とも言えるだろう。国をあげて私を捜索して捕まえようとしたって、魔王に勝てないのに救世主に勝てるわけもない。結局、魔王か私のどちらかに勝てなければ、もう生き残れない状況だってわけ。
それに、彼のその選択が必要となるのは何もこの代に限ったことではない。この先の人類の未来を思うなら、彼らは早くそちらへ舵を切るべきだった。
「賢明だ。今の話を聞く限り、おそらく救世主はいつか呼べなくなる」
救世主しか戦う手段が無いようじゃ、この世界の終わりはもう見えている。むしろ何千年も文明が続いた中でまだこの程度しか戦う力が無いのも、救世主って切り札に頼ってしまったが故なのかもしれないねぇ。勝手な想像だけどさ。
「ところでさっきの初代の話でもう一つ気になったんだけど。あの流れでどうして世界は『一つ』にならなかったの?」
ウェンカイン王国は一つになったが、この世界には『他国』がある。それはどうしてなんだろう。
折角の食事の席なのに静かになっちゃったから新しい質問をしたんだけど、別にこれも明るい話題にはならないだろうな。私は美味しい食事を普通に堪能しているけど、王族さん達、味は分かっているのだろうか。
案の定、王様は険しい表情で完全に沈黙してしまう。そんな中で口を開いたのは、ベルクだった。
「父上、お話ししましょう」
「しかし……」
「アキラ様に偽りを申し上げても、見えてしまいます。ですが沈黙を通しても、アキラ様であればいつかお察しになるでしょう」
そう話すベルクの隣で、クラウディアも心配そうな顔で成り行きを見守っている。王様は少しの静止の後、渋々頷いた。了承を得た形で、ベルクが私に向き直る。
「国が分かれている理由について、我が国の記録には、明確な記述はございません。ですがおそらくその理由は、救世主を呼び出したのが『人族』であったこと。そして、その初代が国王となり、『近しい』者は好待遇となる一方で、それまでに酷く敵対していた者達は、冷遇されたのだと思われます」
「あー、他国は別の種族が主体だったり、ウェンカイン初代と不仲だったりするわけだ。分かりやすい」
納得が出来る理由だ。けれどそうなってくると、ウェンカイン王国が自国で呼んだ救世主をあっさりと支援の為に他国へも送ったっていうのが逆に信じられないな。私がそれを告げれば、ベルクが苦笑を浮かべる。
「魔王軍と争う場合に関しては、多くの支援を各国から頂いたようです。……支援の内容によって、優先を決めた可能性はあるでしょう」
なるほどなぁ〜。
ウェンカイン王国からわざわざ要求をしなくても、助けてほしい各国は競ってウェンカイン王国に金を積む。そもそも魔王を倒さなければウェンカイン王国も最終的には困るので、魔王の所在によって向かうべき場所も変わるし、入れてもらえないと困る。その辺りは国と国が頑張って駆け引きしてるんだろう。
「ちなみに国ってどれくらいあるの?」
「正式に国を名乗っているのは我が国を含め、四か国になります」
そこで一瞬言葉を止めたベルクが、徐に隣のクラウディアへと目を向けた。
「……あまり喋る機会の無いクラウディアに説明させましょうか」
「ありがとうございます」
クラウディアはベルクの言葉に可笑しそうに目尻を下げて礼を述べている。私もちょっと笑った。そうだね、今のところ、王様とベルクしか喋ってないもんね。
「では私から失礼いたします。まず一つ目、我が国ウェンカイン王国はこの世界で最大の国土を持ち、最も多くの種族が共に暮らす国です。種族間での偏見も他国に比べ、無いに等しいと自負しております」
初っ端から、面白い情報だと思った。
話を聞く限り、救世主を有するウェンカイン王国が一番大きい国だってのは「そうだろうなぁ」って思うけれど、種族間の偏見が最も小さいのは初耳だ。実際、私も町中を歩く中で色んな種族は見ている。種族を越えた性愛は無いらしいものの、友人や仲間としては獣人と人が普通に仲良くしているし、ナディア達を見ているとエルフに対しても驚きだけがあって、嫌厭する気配は少しも無い。あれはこの国の文化であって、この世界の当たり前ではなかったんだなぁ。
そういう意味では、私の旅にとっても此処は都合のいい国だったのかもしれないな。




