第114話_王城晩餐会(1)
翌日の夕方、王様に指定された時間に魔道具の場所まで転移する。王様と、もうすっかり顔馴染みになってしまった従者らが出迎えてくれた。応接間だった。
「お食事の前に、アキラ様の領土とする山について手続きさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「うん。もう準備できたの?」
「はい」
マジか。すごいな。権力。
並べられたのは上等な羊皮紙。今更だけど、あの山は『ヴァンシュ』って言うらしい。それが私『アキラ・クヌギ公爵領』だという正式な通知書だった。っていうか私にくれる爵位、公爵なんだね。王族を除けば貴族の中で最上位になる。彼らの私に対する配慮は分からなくはないけれど、公にはどう説明するつもりなんだろうか。それとも、この世界では『魔術師』ってそれに相応しいだけの尊い能力なのかな。
何にせよ、元々の持ち主だった両家は、未開発であったことも理由に容易く引いたそうだ。勿論それなりの駆け引きはあったことだろうが、私には関係ないので聞かない。
王様は続けて私の為に作ってくれたらしいクヌギの紋章も見せてくれた。おー、こんなものまで。格好いい。ありがたい。日本で言えば、家紋のようなものだね。気に入らなければ他のデザインも用意させるって言ってくれたが、いやいや、充分です。
「開拓の為に何か手が必要になる場合はいつでもお申し付けください」
「うん、ありがとう」
手続きらしいものはほとんど王様の方で済ませてくれていたようなので、私は三枚の書類にサインをするだけだった。あっという間に一通りの説明と手続きが終わり、晩餐の席へ。
案内された部屋は当然だけど、物凄く豪勢。元の世界で参加したパーティー会場も、流石に王城レベルではなかったなと思う。入れば既に二人がテーブルについていて、私を見て立ち上がってくれた。ベルクと、もう一人は若い女性だ。初めて見る顔ではあったけど一目で何者なのかは何となく分かった。
ベルクの向かいにある椅子を、王様が引いてくれる。流石に執事が引くと思ったよ。王様直々にエスコートしてくれるとはね。苦笑いと共に「ありがとう」と言って腰掛ける。ベルクと女性と、王様もそれぞれ着席した。
「先に言っておくけど、この世界のテーブルマナーは知らないから。でも間違ってたら教えてね」
「特にお気になさることはございませんが……」
「んー、知っておいても損じゃないから」
「承知いたしました」
そんな会話をしている間に早速、食前酒が運ばれてきて、王様が立ち上がる。長い挨拶をするのかな。まあ初回くらいは聞いてあげるけどね。
「度重なるアキラ様のご活躍に、ウェンカイン王国を代表し、心よりの感謝を申し上げます。本日は我が城の料理人が腕によりを掛けて、おもてなしさせて頂きます」
めちゃくちゃ短い挨拶に留めてくれて、すぐに乾杯の言葉が続く。テーブルが無駄に大きいので互いのグラスを鳴らす距離じゃない。みんなに倣って軽くグラスを掲げてから、口を付ける。うわ。このお酒、めちゃくちゃ美味しいな。
「そして、紹介が遅れましたが、ベルクの隣に座らせておりますのが、我が娘でベルクの妹にあたる、第一王女のクラウディアです」
だと思ったよ。視線を移せば、麗しい女性が私に控え目かつ上品な微笑みを向けてくれた。
「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。私、ウェンカイン王国第一王女、クラウディア・マルス・ウェンカインと申します」
「ご丁寧にありがとう。私はアキラ。ベルクによく似てるね」
私の言葉にベルクとクラウディアが同時に笑みを浮かべるから、改めて似てると思う。これだけ似ていたら血縁以外の何でもないよな。王様とはあんまり似てないけど、女の子の場合はそれで良かったと思う。まあ王様に似ていても美人ではあるだろうけどね。ちょっときつめの。
「クラウディアの下に、私にはもう一人、息子がおります。妻とその息子、そしてクラウディアも。普段は少し離れて暮らしているのですが、あいにく妻は身体が悪く……一人残しておくのは心配ですので、本日は三名を代表し、クラウディアがご挨拶に参りました」
私が女の子を好きだから王女さんを代表にしたのか、彼女が二番目だからそうしたのかは分からないけれど。そういう事情で、同時に全員と会うのは難しいらしい。っていうか、奥さん、居たんだね。いや子供が居るんだから居るだろうけど。まるで気配が無かったから、何かご事情があって離縁したか、お亡くなりになってるのかなって、失礼なことを思っていた。ごめんね。
「療養の為に城の外に居るの?」
「はい。病状が悪化してからは、妻の故郷の方へと。その方が、心が休まるのではないかと思い」
そっか。でも寂しくないのかね、王様は。なんて思ったけれど、他所の家のことは分からんから何とも言わん。家族にとって何が良いかなんて、結局のところ当事者である家族が一番考えているだろうからね。
さておき。突き出しも前菜も美味しいね。どれも食材がまず新鮮だわ。ソースも独特なハーブの香りがする。希少なものかもしれないな。名前にも見覚えが無い。
私がソースの材料を示すタグをじっと見つめていたら、ベルクが気付いて首を傾けた。
「何か気になるものがございますか?」
「いや、ソースのレシピ見てただけ。そういうのも、タグが教えてくれるからさ」
「アキラ様は、お料理をなさるのですか?」
クラウディアが続けて問い掛けてくるので、軽く頷いた。
「うん、好きだよ。店で食べたものを自分で再現して、更にアレンジして好みのものに仕上げていくのが楽しいんだ」
「多才なのですね、アキラ様は」
ちょっと料理を嗜む程度で『才』と言うべきことかは疑問が残るけれど、王族や貴族ともなると自分で料理をしないだろうから、珍しいのかもしれないな。曖昧に笑っておく。
「もしや本日のレシピも、凡そ記憶できてしまうのでしょうか」
恐る恐るという様子でベルクが尋ねてくる。竜種の生息地域、三十六箇所を一発で覚えていたのが余程気になっているようだ。王様もじっと私を見つめていた。
「まあ大体ね」
「その優れた記憶力は、元よりお持ちのものなのですか?」
「うん、生まれ付き」
クラウディアも記憶力の話は聞いていたらしく、三人から同時に感心の声が漏れて、しかも低・中・高音域って感じで綺麗にハモってくるもんだからちょっと笑う。
確かに私の記憶力は便利なものだ。ただ、子供の頃は周りの大人が何を不気味がっているのかよく分からなかったな。記憶できない人達のことも逆に理解できなかったし、私なりに周りとの擦り合わせには苦労をした。
っていうか、このまま放っておいたら無駄に褒め称えが続きそうだ。それはあんまり楽しくないから、私は話題を変えるべく思考を巡らせた。




