第113話_報告
私は沢山頼んだはずだけど、かなり素早く全ての料理が運ばれてきた。さっきのことを給仕の人にも謝られたので、優先で作ってくれたみたい。ラッキー。早速もりもり食べていれば隣のルーイがニコニコと笑って私を見つめる。
「なに、ルーイ?」
「ううん、アキラちゃんがいっぱい食べてて嬉しい」
いつもそうじゃん? 私が目を丸めると、ラターシャが笑う。
「アキラちゃんが元気で帰ってきて安心してるんだよ」
なるほど、そういうこと? みんなは本当に優しいね。元気を示すように、ルーイへ笑みを向けた。
「ありがと。本当に心配いらないよ、楽勝、楽勝」
まあ、ドラゴンに破壊光線みたいな炎を吐かれた時と、結界を握り潰された時はちょっとビビったけどね。心の中だけで付け足して、口にはしない。ただでさえ心配性な子達だから、これ以上の負担は掛けたくないんだ。元気よくご飯を口の中へと放り込んだ。
「ところでアキラちゃん、武器は弓だけ使えるみたいなこと言ってたと思うんだけど、短剣……」
「え、そんな目で見ないでよ。嘘じゃないよ」
徐にそう指摘したラターシャから、めちゃくちゃジト目で見られている。ほらもう。ガロが一流とか大袈裟なこと言うからだよ! 多分違うね、言い掛かりだね。
「夜歩きする時の飾り用に買ったんだ。武器もなく一人で歩いてると、無防備なアホに見えるみたいだからさー」
実は腰にぶら下げて歩くのは、レッドオラムの夜に一人で歩き始めた初日からやっている。でも使ったのは今日が初めてで、みんなに見せたのも初めて。
「本当に剣の扱いは知らないよ。でも、無手の武道ならちょっとだけ習ったことがあるんだよね」
正式なものじゃなくて、兄から教えてもらった合気道の話ね。合気道の当て身は危ない急所攻撃が多くて実戦的だから、この世界じゃ丁度いい。得物を持っていても極論、間合いが変わるだけでやることは一緒だ。その間合いの差も出来るだけ小さくするべく短めの武器を選んでいる。とは言え、小さ過ぎても威嚇にならない為、刃渡り三十センチ弱の短剣になった。
更に言えば、これくらい立ち回れる程度は身体能力と動体視力が無いと、そもそも私は魔物とだって戦えていない。魔力だけが強くても仕方が無いのだ。よって、生まれ持ったそれに追加して補助魔法で少し底上げをしている。だからガロから言わせれば『武闘派ほどではない』身体でも、急所にさえ当てればさっきのような大きな男も一撃で止められる程度の力がある。……魔法の話になるから、これは後で補足しようかな。
「人目に付く場所でもみんなが守れそうだなーって実験としては悪くなかったけど。みんなは怖かったよね、遅くなってごめん」
「ううん、アキラちゃん格好良かったよ〜」
リコットの言葉にラターシャとルーイも何処か嬉しそうな顔で頷いてくれる。大事に至らなくて本当に良かった。ちょっと異常なくらい、綺麗な子達が揃っちゃってるからなぁ。ボディーガード犬でも飼ったらいいのかな?
「……犬は、ちょっと」
「ふふ」
夕食を終えてみんなで部屋に戻ってすぐ、犬について提案してみたら、ナディアがいつになく弱い声でそう言った。苦手らしい。猫系だからかどうかは分からないけれど、話が出ただけで怯えてぺたんと下がった耳が愛らしかった。本人はばつが悪そうな顔をしているが、彼女らを守る為に余計に怖い思いをさせては本末転倒だ。この案は却下ということにしよう。そう言えば明らかにホッとした顔をするのも可愛いよ。
「明日の夕方にはまた城に行くけど、朝には帰るからねー」
「ああ、女の子を貰うんだったわね」
「そうそう」
ナディアからは棘のあるお言葉が返ったが、否定するところが無いので笑顔で頷いておく。
「あと……うーん」
「えー、なに。また何か重大発表する?」
煽ってくれるじゃないですか、リコットさん。余計に言いにくくなった。言葉を選ぼうと思って沈黙してみたものの、今じゃなくても良いかなぁって逃げの思考が前に出てきてしまう。
「明後日に帰ってきたら話す――」
「今すぐ言って」
退路を塞がれました。最近、女の子達が厳しい。溜息を挟んでから、諦めて白状する。
「……爵位と領地を貰うことになりました」
「アハハハハ! すごい話になってるー!」
リコットがお腹を抱えて笑ってくれた。釣られてみんなもちょっと笑ってる。
とりあえず、山中で見付けた隠れ集落についてみんなには包み隠ざす説明した。そしてその山を丸ごと私の領地としたことを。静かに話を聞いてくれたみんなだったけど、リコットが未だ笑いの残る顔でナディアを窺えば、期待に応えるみたいにナディアが口を開いた。
「また人助け?」
「ふふ、どうかな」
集落の人々の命を守ったことは、そう呼んでいいのかもしれない。だけどあそこを私の領土としたことは、果たしてそう呼べるのかな。曖昧な回答でお茶を濁してから、私はみんなが飲み込むのを待たずに話を切り替える。
「それよりみんなにちょっと教えてほしいことがあったんだけどさ」
徐に紙とペンを取り出して、机に向かった。素直なみんなは首を傾けて、私の動きを見守る。
「これ、なんて種族?」
私が紙に描いたのは、ケイトラントが持っていた角と尻尾だ。瞬間、みんなが目を見張った。
「えっ、嘘。何処で会ったの?」
「その集落」
「……そういう集落?」
ああ、なるほど。そういう可能性もあったか。
だけど私が最初に出会った女性、ロマはどうみても人族だったから、違う可能性の方が高いかな。
「あなたが会ったのはおそらく竜人族よ。エルフの次に、この国ではまずお目に掛かることが無い種族だわ」
「ほ〜〜〜、なるほどねぇ」
竜人か。その情報だけで、あの強さに納得できる気がした。
たった一人で、一本の槍だけで、あの集落を竜種から守り抜いていたケイトラント。私が見た限りでもあの集落には結構な竜種が集っていたのに、私が下りる頃には大きな一体しか残っていなかった。残りは全部あの槍の餌食になって消えたんだろう。怪我をしたのは不運な事故か想定外があっただけに違いない。全快の状態での一対一なら、彼女はあの超級ドラゴンとも良い勝負をしそうだ。そう思ってしまうくらい、圧倒的なオーラを纏っていた。
彼女ほどの強さがあるなら、麓の魔物を突破し、あの安全圏まで他の住民を連れて行けたのも不思議ではない。
「次に会うのが、楽しみだな」
本気の彼女にもう一度、あの槍を向けられてみたい。――なんて。流石に女の子達も理解してくれないだろうから、飲み込んでおいた。




