第109話_自然魔法石
振り返ると、竜種と戦いながら元気に動いている二人が見えた。生きてるー。っていうかコルラードすごいな、今、剣で竜種の吐いた炎を斬り裂いて防いだぞ。そんなことできるんだ。よく見えなかったけど素早く三回くらい振って、剣圧で退けたのかな。もう一度言うけど、そんなことできるんだ。
と、見蕩れている場合ではない。さっさと助け出してあげよう。急いで接近して、彼らを囲む竜種らを雷魔法で一掃した。
「アキラ様!」
少しほっとしたような顔で私を見上げた二人。コルラードは尚も素早く周囲を確認している。流石は頼れる騎士団長様。しっかりしていて安心だね。
「お疲れ〜。無事?」
「はい、大事ありません。アキラ様は」
「無傷だよ〜、ああ、でもこのローブ助かったわ。これが無きゃ、ちょっと火傷するとこだった」
数回、破壊光線が肩とか腕を掠めているからね。回復魔法で治せるとは言え、痛いのは嫌だ。しかし「大事ない」と言う二人は別に無傷ではないらしく、ちょっと怪我をしている。無断でこんなところにポイしたのは私だから、治してさしあげよう。回復魔法を二人にまとめて掛ければ、たちまち傷は消えてなくなった。
「ありがとうございます」
「いいよー。全員、無事で良かったね。さて、あれの原因を探すから手伝って」
折角だからこき使いましょう〜と思って二人を連れてドラゴン跡に戻ったんだけど、原因らしいものはすぐに見付かった。
「なんだ。探すことも無かったな。これかな」
手の平サイズの、ぎらぎらした鉱物が、ドラゴン跡にぽつんと落ちている。まずは触らずに一歩離れた場所で屈んで見つめる。私が触らなかったからか、二人も近付こうとしなかった。魔法陣の時みたいに、人体への影響を懸念していることが伝わったようだ。二人が賢くて助かるよ。
「これは、魔法石でしょうか」
「みたいだね、天然ものだ。逆に初めて見たなぁ」
私の作るものとは違い、これは発掘されてきたものであるようだ。歪な形をしている。タグの方にも『テグラン地方の自然魔法石』と記載がある。へー。ちなみに私の魔法石は、ラターシャからあれを魔法石って呼ぶんだって教えてもらって以来、『クヌギアキラの魔法石』って書いてあった。私の名前を勝手に付けるな。
「ねえ、テグランって何処?」
「……まさかこれは、テグランの魔法石なのですか?」
「みたいだよ」
私の言葉に二人は同時に険しい表情を見せる。怒りに近い感情が湧き上がってから、慌てて抑え込んだみたいな、妙な顔だ。
「それは我が国ではありません。隣国の奥地を指す地名です」
「あはは。国際問題にならないと良いねぇ」
そういうことか。他国からの悪意かもしれない――と考えて、まだ証拠は無いからと打ち消したんだ。まあでも知らん知らん。政治のことはそっちでやってくれ。
さておき、この魔法石が持っている効力は『成長促進』ではない。主な効力は『成長限界の排除』だ。二人にもそう伝える。
「生物としての活動を維持するのに適した大きさってのはある。あいつは巨大化してたせいで飛べなかったし、前足を素早く動かしていた割に、あまり自由に動き回れている様子が無かった。あれじゃいつかは食糧が枯渇して死んでただろうね」
しかも限界を排除されているんだから、食べても食べても身体が大きくなる一方で、更なる食糧を欲し続ける。最後にはどれだけ食べても栄養失調だ。
「ベルク、何か紙を頂戴。この術式を転写する」
「はい、こちらに」
魔法石には妙な文様が刻み込まれていた。これは多分、丸くない魔法陣だ。前回同様、ベルクが渡してくれた紙にその文様を転写しておく。
「このまま持ち帰るのは危ないから、術を抜くよ。いいよね」
「……はい。お願いします」
少し迷った様子だったが、私の提案にベルクは頷いて了承してくれた。本当ならそのまま持ち帰って研究したいだろうとは思う。だけどどうやらこの魔法石は触れている間、その効果を受け続ける。竜種は多分この魔法石を飲み込んでいたから、永続的に効果が続いてしまったんだろう。流石の私もしっかりと手に魔力を籠めて防いでおかないと触れない。布に包んだ程度じゃ貫通する可能性もあるし、これを安全に持ち帰るのは難しかった。
って感じのことを考えつつも説明しないけど、まあ、ベルクは察してくれているだろう。私はいつもの要領で魔力制御を奪い、術を消した。刻まれた術式も削り取る。出来るだけ魔法石に損傷が無いようにね。
作業が終わると、タグは『テグラン地方の自然魔法石』であるという記載だけを残し、効力の記載が消えた。解呪完了。
「はい、これでオッケー。回収」
拾った魔法石をベルクに投げる。彼はかなり慌てた様子で受け止めていた。ああ、そっか。私にはホイホイ作れるものだけど、貴重なんだったな。うっかり落として割らなくて良かったね。
「これで任務完了になるかなぁ? 原因は取り除いたけど、此処から逃げちゃった竜種はあちこちに飛んだかもしれないね」
何処に向かったのかも分からない竜種らを全部追い掛けて狩るような真似、いくらなんでも出来ないぞ。
そう告げる私に、ベルクは少し考えた顔を見せたものの、そんなに憂えた顔ではなかった。
「例の山間部に集中していた可能性が高いと思いますので、他の場所への甚大な被害は考えにくいでしょう。あの場所が此処からは最も近い、豊かな森でしたから」
「あー、なるほどね。なのに竜種が期待したほど、あの頂上付近には魔物が居なかった。そのせいで腹を空かせた竜種が、魔物が多かった麓に向かったんだね」
で、結果的に麓にあった街にも危険が迫った。街の結界を壊すことが容易くないと知っていても、中に多くの食糧があると分かっているんだから、飢えていたなら躍起になったかもしれないな。
「頂上には、魔物が少なかったのですか?」
「うん、何度も確認したけど、麓が一番多くて、上の方はほとんど居ないよ」
「なるほど……それで」
先程私が告げた全容をようやく理解した様子でベルクが頷く。
私達の考えをまとめると、あの街の防衛が終われば一旦、この件は解決したと見て良さそうってことだ。少なくともベルクがその判断なら、王様が強く否と言うことも無いだろう。かなり信頼されているみたいだからね。ベルクほど優秀ならそれも納得だが。
なお、ベルクから『エルフの里』という言葉が出てくる気配は無かった。魔物の居ない森の理由がエルフの里の結界だってことは、私もラターシャに聞いているから知っているけど、普通の人は知らない可能性が高いよね。
「とりあえず、戻ろうか」
あんまり長居しても、今度は私達が脅威になって魔物らが森の外に出て行きそうだ。再び飛行し、問題の山間部へと戻った。




