第108話_討伐
この山間部の防衛はしばらく現地兵に任せることにした。私が少し減らしたこともあって、すぐに大きな被害が出ることはないだろう。多分。まあ何にせよ原因は取り除かないといけないからね。頑張って。
「道中でも狩るから、飛んでいくよ。いいね?」
転移魔法なら早いだろうけど、向こうの状況が分からないから、ちょっとね。私の懸念も汲み取ってくれて、ベルクとコルラードが躊躇なく頷いた。
場所としてはそんなに遠くない。ただし私が最速で飛んで五分だから、二十キロくらいは離れている。途中で十数体の竜種を落とした。異変らしいものは、向かう間には何も無かったけれど。
「ねえ、あれだよね、原因」
「……そうとしか、思えません、ね」
到着したら、何かもう、一目だった。
私達がさっきまで戦っていた竜種の十倍くらいの大きさの竜種……いやもう伝説のドラゴンじゃないのか? ってくらい大きい奴が、居るんだけど。今もまさに竜種が一匹捕まって食われているし、そりゃ逃げるよな。
「羽が小さいな。多分、身体だけが大きくて、飛べないんだ」
あれが自由に空を飛んだら、人類はたまったもんじゃないけどね。幸いだったと思うべきか。
「自然と大きくなったわけではないのでしょうか」
「違うだろうね。無理やり大きくさせられて、あの身体で生命を維持する為に、身近な同族を食ったんじゃないかな。真偽のタグ使うか。今のであってる?」
「『はい』」
確定しました『本当』です。
私がそれを告げるとベルクとコルラードが微妙な顔をした。原因が分かった安堵もあるけれど、私達はこれからあれを排除しなければならないし、また、あんなことを『何者か』が介入して故意に起こしているという事態がそもそも問題なんだよ。
「まずはあれを始末してから、原因を探ろう」
一つずつ着実に解決していくしかないからね。
「……勝てますか」
「多分ね。悪いけど守る余裕は無いから、二人は離れてて」
「しかし」
「問答無用〜」
私は二人を遠く離れた場所に下ろして、自分だけドラゴンに向かって飛行した。遠くで二人が私を呼んだけど、だから、私は二人を『守らない』って言ったからね。君ら、その辺の普通の竜種は自分で何とかしろよ。幸い二人は自らが置かれた状況にすぐに気付いて、上空の竜種を仰いでから慌てて剣を抜いていた。がんばれー。あ、結界くらい張ってあげても良かったかな。ま、いっか。
「さてとあの巨体、飛べない状態でどう攻撃してくる――どわ!」
早速、近付いた私に向かって炎を吐いた。散らばるような炎じゃなくて、怪獣の破壊光線みたいなやつ。ビビった。ちょっと掠ったものの、王様が用意してくれた上等なローブのお陰で無傷だった。ひえー、危ない危ない。
「よいしょっと!」
私もすぐに反撃。幸いにも此処は随分と人里から離れているし、まだ日も暮れてないから雷魔法を使っても問題なさそうだ。楽勝だな――って気持ちで、そこそこ大きめの魔法をぶつけたんだけど。
「は? マジかー」
胴体にぶつけた雷魔法が全く効かなかった。反応なし。外皮を滑った感じがしたなー。あいつ、魔法防御力が馬鹿みたいに高いんじゃないか?
「うえ、見たことないステータスしてんな」
目を凝らせばタグがドラゴンのステータスを教えてくれる。
攻撃や防御の各数値が他の魔物とは桁違いだ。私は魔法関連は高いけど体力や物理攻撃力は普通の人間のそれなので、その辺の魔物より弱いし、私とあいつでどっちが強いとかは比べられるものじゃない。
「あー、外皮の魔防が高いのね……つまり本来は傷を負わせてから魔法だな」
可能なら物理攻撃だけで倒すんだろうけど、あのデカさで人間が剣を刺したところでな。なんて、呑気に呟いているが私もかなり余裕が無い。距離を詰めれば猫パンチみたいな勢いで前足を伸ばしてくるし、離れれば破壊光線ぶっ放してくるし。ひと息吐いてたら死ぬだろう。
ただ、今しがた吐き出した炎で実験したが、私の結界は破壊できないようだ。
「問題は、結界の中から放つ攻撃魔法は威力が落ちるってことね」
自分から離れた場所に魔力を送って、そこで練って攻撃魔法を発動する場合、通常の攻撃力の三分の一以下になる、と思う。体感では。通常の魔物ならその程度の攻撃でなんら問題は無いが、あのドラゴン相手だと厳しいな。
「あ、物理攻撃も結界で防げそうだね。どっこいしょ」
実験を済ませた私は強めの結界を張って、空中で胡坐の姿勢を取る。はー、さて、こいつをどうしましょうかね。がんばって猫パンチならぬドラゴンパンチを炸裂させてくれているが、今のところ結界は何ともない。私には魔法攻撃しかないので、外皮を何とかする方法を考えなきゃなぁ。うーん、岩……落とすか……?
考えていると、ピシ、という音がしたのでぎょっとした。あ、やべ。
「わ、マジかコイツ!」
いつの間にか私の結界を手で握り潰す作戦に出ていたドラゴン。大丈夫だろうと放置してたら結界に明らかな亀裂が入る。ドラゴンと逆方向に小さな穴を作って脱出し、危機一髪。後方で、私の結界が粉々になる音を聞いた。切ない。
「だらだら考えてる暇は無いな、手頃な岩もちょっと遠いし」
少し離れた場所には岩肌が顕わになった部分があるんだけど、私が今此処を離れたら、流石にベルク達もターゲットになるだろうし、それは幾ら何でも助かりようが無い。
「……これしかないか」
少し距離を取る形で飛び、二度、ドラゴンからの破壊光線を避ける。少しだけ肩に掠ったが、またしてもローブが守ってくれた。
「いいよ、来い」
三度目の破壊光線。タイミングをしっかり計った上で、ドラゴンが私に光線を吐こうと、腹部で魔力を練り、口を大きく開ける。
「――雷閃!」
ドラゴンの炎と似た形の攻撃を、私の雷で再現する。光の方が当然、圧倒的に速い。私に炎が到達するより早くドラゴンの口元まで迫ったそれ。ドラゴンがビビって口を閉ざすより早く、奴が吐き出そうとしていた炎を貫くように、喉の奥まで到達した。
「はあ。ハハ、危ね」
コンマ数秒遅れていたら失敗しただろうな。ドラゴン、ちょっと口閉じかけてたもんね。しかし何とか成功しました。ドラゴンは断末魔を上げて倒れ込み、そのまま、霧状になって消えた。
さて。放置していた王子達は生きてるかな? こんなこと言ったら本来は不敬罪とかで捕まりそうだけど。




