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恋星の伝説

「ねぇ、恋星ハートスターの伝説って知ってる?」

「はーとすたぁの伝説……? なにそれ、聞いたこともないんだけど」

「この辺りでは有名らしいよ。なんでもたくさんの、恋に迷える子羊たちを導いた者は、どんな願いでも一つだけ叶えることの出来る神秘の魔法を恋愛の神様から授かることが出来るんだって」

「えーっと……恋愛成就のサポートをたくさん成功させたら、神様が褒賞をくれるってこと?」

「だいたいそんな感じかな。どんな願いでも、なんて素敵だよねー!」

「そうかなー……なんか絶妙に胡散うさん臭いんだけど」

「胡散臭い?」

「神様も魔法も、所詮は人間の拠り所として生み出された架空の概念だしね。それらが絡んでる時点で察し」

「むぅ……相変わらず雲雀ひばりちゃんは夢がないよね」

「寧々《ねね》が夢見すぎだからそう思うだけで、普通よ普通。だいたい、そんな子供騙しな伝説追っかけてる暇あるなら自分の恋にちゃんと向き合いなさいよ。ねっ、恋する乙女な寧々ちゃん?」

「そ、それは言わない約束ぅ……」


 恋星ハートスターの伝説──うら若き乙女たちの渦中にあったそのワードを俺、朝霧遠利あさぎりとおりが初めて耳にしたのはいつのことだったか……。この天城あまぎ市に在住する一部の恋愛好きな学生たちの間で古くからぼんやりと語り継がれている、まさに夢みたいなお話である。

 一応諸説はあるらしく、歴史と伝統を重んじる由緒正しき名門校として世間一般に名の知れ渡っているここ、私立星天城学園が発祥の舞台とされているようだ。


 その始まりは、数年前まで学園に実在していた『恋愛相談部』とやらの部員がある日、歪な形をした石を拾った時のこと。

 不思議なことにその石は、部が恋愛相談を行い活動実績を着実に上げていくに連れて、みるみる赤い光りを帯びていったそうな。

 そうして輝きがいつしか頂点へと達し、石が忽然こつぜんと消滅してしまった年……星天城学園は未曾有みぞうの進学実績を叩き出し、一躍世間の注目の的となった──とかなんとか。

 調べてみたがこれはどうやら事実のようである。


 さて、一体今の話のどこに不思議な石と神やら魔法やらが関係していたのかについてだが……。


 石を発見したとされている部員は当時進路指導委員という任意性団体に属しており、それもあってか、全員が希望の進路を掴み取れますようにと石に願いを込めたんだそうな。

 パワーストーンのプログラミングに極めて近いその行為に至った経緯こそ定かではないものの、前例のない進学実績は石によるものだという見方が、願いを込めた張本人を中心として有力。

 その神秘的現象を神様や魔法と結び付けることで話をロマンチックにいろどった、というのが一部正否のはっきりしない伝説の概要とされている。


 一見すると眉唾まゆつば物以外のなんでもない話だが、一連の流れを辿ってみるとそう簡単に切り捨てられるものではないとは薄らとお分かりいただけるだろう。

 もっとも、進学実績と石の効果の相関を示す具体的根拠がないために、一部の人間には一蹴されかねないものとなってしまっているのもまた、事実ではあるが。


 因みにその石は当時の部員たちによって、恋星ハートスターの欠片と命名されたらしい。

 石自体、星が半分欠けたような形をした剥片はくへんだったというところと、願いを叶えるためには恋愛相談で成果を上げることが必要になってくるという部分が由来となっているようである。


「うっし、やっと書けたわ。待たせて悪いな。帰ろうぜ」


 俺の後ろの席、窓際の最後列というベストプレイスを陣取っている短め茶髪の男が、親指をグッと立てて学級日誌を書き終えたことをアピールしてきた。

 こいつは高校入学以来仲良くしている友人の、牧野和宏まきのかずひろ。身も蓋もなく言ってしまえば、バカである。

 もっともそれは、成績が悪いとか知能が低いとかそういう意味ではなく。いや、そういう意味も極僅かながら包含ほうがんしているかもしれないが……。

 とにかく良い意味でも悪い意味でも自分にバカみたいに正直で。

 だからこそ、一緒にいて楽しいと思えるき友人なのだ。


「うーっす。今日はいいのかよ、()()


 そう、彼には彼女がいる。名前は橘晴香たちばなはるか

 2年B組の、大和撫子やまとなでしこという言葉が非常に似合う黒髪ショートヘアーが素敵な女の子で、何度かお顔を拝見させてもらったのだがこれがまたとてつもない美少女なのである。


「ああ、今日は部活だってさ。へへ、頑張ってるよなぁ」

「へ、へぇ……」


 鼻の下を伸ばしている和宏に、俺は若干引き気味で返す。

 聞くところによると、橘は弓道部に所属しているらしい。なんでも、県内でトップクラスの実力者だとかなんとか。要するに文武両道系美少女というわけである。

 ちょっと羨ましすぎて歯軋りが止まらない。和弘お前、橘を泣かせたら容赦しないからな。


「いいなぁ俺も彼女ほしいなぁ……」

「そういや遠利って全然女の子関係の話聞かないよな。誰か好きな子とかいないのか?」

「今はいないかな。けど、好きっていうか可愛いなって思った子は今までに沢山いる」

「ふーん……その子たちにアプローチとかは?」

「したよ。それこそ告白なんて数十回とやってきたさ。だが結果は全滅。玉砕祭りのオンパレードだ」

「おおぉ、そりゃまた気の毒なもんで……一応聞くが、成功しない原因に心当たりは?」

「いやそれがあったら苦労しねーよ。なんでかねぇ……俺って結構かっこいいし? 高スペックだし? 基本なんでも出来るし? 普通に彼女がいてもおかしくないと思うんだけどなぁ……あっ、もしかしてあれか。俺がカッコ良すぎて逆に相手が、自分なんて不相応なんじゃないかと自信を失くしてしまって、それで告白を受け入れられないとかそんな感じ? いや違うか。はぁ……」

「……」


 本当に、なんでモテないのか。

 顔は女子たちがこぞって好みそうなさわやか系でこそないものの、悪くないどころかかなりイケてる自信があるし、学力も県内偏差値トップの星天城学園で上位に名を連ねる程度の実力はある。

 それに運動神経だって、球技は苦手だが陸上競技は自信あり。握力なんて学年どころか学園で……いや、県内で一番の自信があると言っても過言じゃない。

 加えて、料理も上手く出来て趣味だって豊富。我ながら総合的に高スペックだと自負している。

 だというのに……未だに彼女いない歴イコール年齢族。それどころか、柔道部のむさ苦しい男子共にばかり言い寄られる始末である。なんでだよおかしいだろ。


 因みに和宏は一年の頃に橘含めた三人から告白されているらしい。殴ってもよろしいか?

 マジ一度でいいから告白とかされてみてぇ。


「なぁ遠利、俺が思うにお前がモテない原因はな……」

「モテない原因は?」

「……な……いや、やっぱなんでもない」

「あ? 最後まで言えよ。気になるだろうが」


 いつも正直にモノを言うこいつが言いよどむなんて珍しい。今日は嵐でもやって来るのか?


「知らねー知らねー。ちっとは自分で頭働かせてみるんだな。さっ、帰ろうぜ」

「あっ、おいっ……たく」


 和宏は俺の追及を華麗にいなして、帰路に就くべく先陣切って歩き出す。

 俺はもやっとした気持ちを胸に抱えながらも、仕方なくその背中を追いかけたのだった。

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