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第8話 記憶喪失なんですよ。

捕虜です。


俺の今の状況を端的に言えばそうなる。


数人の兵士達に金属の棒を突き付けられながら城壁の中へ連行された。

多分あの棒は「魔法の杖」みたいなものなんじゃないかと思う。兵士たちの基本装備のようだ。自衛隊における89式小銃のような位置づけだろうか。見た目がただの棒だから全く脅威を感じないが、おそらくあの棒から、さっき見たような人の半身を一撃で消し飛ばす威力の魔法が放たれるのだろう。

形状は似たり寄ったりだが、ものによっては長さが違っている。


(短いのは「魔法の杖カービン」といったところか?それにしても…言葉が全くわからん。この手の話じゃ何故か言葉は通じるもんだろうが。そこはうまいことやってくれよ。転移するときに神様が現れてチート能力をくれたりもしなかったし、ちょっとやる気が無いんじゃないのか。)


状況が極まりすぎて逆にくだらないことばかり考えてしまう。


「×××××!××××××××××?×××!」

「いや、わかんないですよ」


何を言われているか全く分からない。


(見た目はバラバラ、肌の色も違う。単一民族の国家じゃなさそうだ。ファンタジーにありがちなエルフだとかドワーフだとかの異種族は居なさそうだな。言葉はドイツ語に近いか?でもドイツ語じゃないのは確実だ。小銃を指さして…これを渡せって言ってんのか?あまり手放したくはないが、仕方ないか)


89式小銃を指揮官っぽい奴に手渡すと、何か言った後に納得したような顔になった。


(いや、わかんねーよ。ちゃんと後で返してくれよ…実弾は入ってないけど気を付けて扱ってくれよな)


すると次は俺の腰のあたりを見て何か騒ぎ始める。今度は何に反応しているのか明白だ。


「あー、はい。銃剣ね。いいですよいいですよ。もう弾帯ごと持ってってください。後で返してくださいよ。まあ、通じてないんだろうけど。」


俺はバックルを外し装具一式を兵士に預ける。ついでに暑苦しい鉄帽も預ける。捕虜の武装解除は基本中の基本だ。むしろ敵意が無いことを示すためにこちらから進んで行うべきだった。

身軽になったところで移動を促される。


城壁の内側はまさに軍事施設というような様相だ。先ほどの戦闘で負傷した兵士たちがそこらじゅうで治療を受けている。


(おお!あれ回復魔法じゃねーの!スゲーーーー!!!!)


お揃いの白い腕章をつけた者達が負傷兵の傷を魔法で癒している。回復魔法が使える衛生兵なのだろう。改めて魔法を見るとテンションが上がる。


数は少ないが死体も並んでおり、聖職者と思われる者達が死体の上に何かを置いてまわっている。


(あれは何に使うんだ?魔法の道具?全然わからん。わからんがとりあえずスゲー!)


未だ状況は決して安心できるものではないが、自分の知識に無いものばかり目に入って正直かなり楽しい。

しばらく歩くと高台の上に建てられた、周囲と比べて比較的立派な造りの建造物に到着する。


(司令部といったところか。いきなり牢屋にぶちこまれるのも覚悟していたが、そういうわけじゃなさそうだ。)


「××××××××××!」

「何言ってるか分かりませんが、分かりました。入りますよ。」


建物に入るといかにも責任者っぽい男が待ち受けていた。さっき城壁の上に居た男だろう。

年齢は俺と大して変わらず、20代に見える。

その男の傍らには謎の機材が置いてあり、俺の脳裏に「嘘発見機」の文字列がよぎる。

壁沿いに数人の男達が立っている。護衛の兵士達だろう。

向かい合って椅子に座らされる。拘束はされないらしい。彼我の距離は10mといったところだ。


尋問が始まるのだろう。

特殊作戦群の隊員は対尋問訓練を受けるとか聞いたことがあるが、一般隊員の俺はそんなもの当然受けたことは無い。


(確か、所属と階級と生年月日と識別番号を答えればいいんだっけか…、いや異世界で自衛隊で受けた座学なんて役に立たないか。そもそも言葉が通じないのにどうしろと?)


「さて、私はエヴァンゲロス・ジーク・ロイシン。王国貴族で、ここの責任者だ。君が何者か教えてほしい。」

「…言葉が通じている?」


新情報:ここは王国で、身分制度が存在する。


突然意味のある音情報が飛んできて驚いたが表向き平静を保つ。


「通じているとも。正確にはこの魔道具を通じて直接意思疎通を行っている。見るのは初めてか。」

「見たことはありません。普通に話しているだけですが、便利な魔道具ですね。」


新情報:魔道具というものがある。嘘発見機だと思った物は翻訳の魔道具だった。


「ああ。それで、先ほどの質問に答えてほしい。」

「ええ、私は日本…」


(いや!ちょっと待て!)


馬鹿正直に答えそうになったが、かなり危険な行為だ。


(存在しない国名を言えば怪しまれるのは当たり前だ。遠くの国なんですよ、という言い訳が通じるとも限らない。現代の地球上に未知の国家は存在しない、この世界では違うという保証はない。この場を乗り切ったとしても後でバレるだろう。なるべく固有名詞は口に出さないほうがいい!かといって何と答えるのが正解だ?沈黙が長引くのはマズイ!とにかく何か答えなければ!)


この間の思考、約2秒。


俺の口から出た回答は


「記憶喪失なんですよ。」


だった。


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