第6話 敵じゃないですよぉ~
「…!!ぐっは!!!!かはっ…お、おごぉ~」
激しく地面に叩きつけられ、人生で初めて出すようなうめき声をあげてしまった。
(なんだ、何が起きた…とりあえず生きてはいる…とにかく状況を把握しないと…)
手で体中に触れて確かめる。とりあえず五体満足のようだ。比較的柔らかい地面に落ちたらしい。激しい出血も無い。後は骨が折れてなければいいのだが。
(89式は…持ったままだ。よく手放さなかったな俺)
自衛隊において武器を無くすというのは大問題だ。とりあえず安心する。
そこで周囲を見渡す余裕が生まれた。聴覚と視覚が正常に戻るにつれて、自分があまりに異常な状況にあることに気が付いた。昔から情報の整理には自信がある。諦めて受け入れるのが早いとも言う。
(あ、これ、戦争だ。)
軍と軍がぶつかり合っている。
一方の勢力は壊走状態だ。先ほどの大爆発に巻き込まれたと思しき兵士達の死体が散乱している。
即死できた者達は幸運だ。四肢が吹き飛びうめき声を上げる者達が多数いる。
やがて後方の城壁から色とりどりの光の発射が始まり、逃げ出す兵士たちを背中から撃ち倒していく。
燃え上がる者、半身が吹き飛ぶ者など、その死に様は多種多様だ。
やがて射程範囲内から兵士が逃げ去った頃合だろうか、色とりどりの光の発射は止み城壁から歓声が上がった。
人の死を見るのは初めてだったが、状況が異常すぎて何かを感じている余裕がない。
(ここは本物の戦場だ。それは分かった。でもあの光の攻撃はなんだ?銃でも砲でも無かった。まるで…)
おかしな想像だ。ありえないと思いつつ、確信した。認めるしかない。
(魔法だ。まるっきりゲームやアニメで出てくるやつそのまんまだった。ファイヤーボールとか、完全にそういうやつだったぞ…)
非現実的な光景にしばし呆然とする。
ここは魔法が使用される戦場である、という状況だけは持ち前の状況判断能力によって完全に理解してしまったが、気持ちが追いついてこない。
(おいおいおいおいおい、どうなってる。さっきまで俺何してた?自衛隊の演習場で訓練に参加してたんだよ。それが何で…何で…クソ、認めるしかねえ、勘違いとか早とちりとかじゃない。さっきの魔法を見れば十分だよ。もし夢を見てるとかじゃなければ、ここは日本じゃない。いやそれどころか地球ですらないだろう。つまり…)
異世界だ。
(おいおいおいおい勘弁してくれ、そういえばネット小説には自衛隊が異世界転移する話もいくつかあったな…、待て、他の奴らは?一緒に来てないのか?)
改めてあたりを見回すが、迷彩服姿は自分一人しか見当たらなかった。愛しい(?)後輩の姿も無い。
(クソッ…、にしてもマジでこりゃ本格的に「飛んで」しまったらしいな…)
周囲の状況を理解すればするほどここが違う世界であると判断する材料ばかり見つかる。現代日本にあんな西洋風の城壁なんか無い。ハロー〇ックみたいな切り欠き付きの城塞だ。生えている植物も富士演習場で見たことがないものばかり。
そもそも日本国内で大規模戦闘など発生しているはずもない。映画の撮影だなどと寝ぼけたことを言うつもりもない。ファンタジー映画の魔法は後からCGで付けるものだ。さっき見た魔法は現実に発動し、本当に兵士の命を奪ったのだから。
(とにかく、ここで寝てても仕方がない…立ち上がっても大丈夫だよな?)
立ち上がった瞬間魔法に撃たれて死ぬのは勘弁してほしい。
「×××××××!×××××××××××××!」
(ん?城壁の奴がこっちを指さしてなにか言ってる…?オイオイ、敵じゃない、敵じゃないぞ!クソ、何言ってるかわかんねえ!)
とにかく敵意が無いことを示そうと、膝立ちで両手を上げてアピールする。
何やら身なりの良い責任者っぽい人間がやってきてこちらを観察しているのが見える。
「て、敵じゃないですよぉ~」
何を言えばいいのか分からず、こんな情けないことしか言えなかった。